エピローグ. お城は こうしていつも幸せ
本日は87話も投稿しています。
「俺は、何でこんなところにいるんだろうな……」
サラサラと白い砂が流れる、ここは魔の砂漠と言われている場所である。
魔力はほとんどが魔物や鉱石になり、人が魔法として活用できるものは大半が残らない。
オアシスの周囲には薬草がたくさん生えていると言うが、それ以外の植物はほとんど無い、乾燥した大地だ。
「トーマさん、左遷されたからってションボリすんなよ!」
「左遷じゃありませんっ! ベルフォード王もトーマ様の力を借りられなくなることに頭を痛めていました! 本当ですよっ!?」
ジュナンの言葉にユイさんがフォローをしているのだが、むしろその必死さが左遷説に真実味を与えているな……
実際は、神器の持ち主として王子……今はベルフォード王か。彼の対抗勢力として担ぎ上げられそうになったため、距離をとらせてもらっただけなんだけど。
それはわかっていても、何でこんなところにいるんだという気持ちは変わらないが。
「でも、まあ、たしかに『秘術使い』の残した魔法装置とかがないのは少し寂しいからな。トーマさんの気持ちはわかるぜ!」
……逆に、そのジュナンの気持ちは、わからないか。
彼女は、カルアスの町をずいぶんと楽しんでいたようだ。
あそこも、まだ俺の領土ということになっている。管理はゴーグ兵士長とか、彼らに丸投げだけれど。
ゴーグ兵士長には、俺が秘術使いの子孫ではないことは、もう話してある。
それでも彼の命を助け、そして領民を助けてくれたことに変わりはないと、新たに忠誠を捧げてくれた。
神器の主であり、魔王を倒した英雄ということで、むしろ信奉されるような感じになっていたぞ。ありがたいことだ……
旧型の魔動タンクを、人間の味方である魔動タンクに直す作業も、多分だが、順調に進んでいる。
旧型のもとに『城』の魔動タンクを派遣するだけで、あとは『城』の魔動タンクがどうにかしてくれるらしい。
大量に作って、あとはそいつらに全部任せていた。
カルアスの地周辺に、魔王が産み出した魔物もけっこう残っていたのだが、この魔動タンクたちが倒してくれていたぞ。
――今、俺がいるのはカルアスの町から、さらに魔物の強いほうに進んだ土地。どの国の土地でもないところだ。
カルアスの地にある『城』を強化したためか、この遠い地にも『支城』を作れるようになった。
魔動タンクを作れる『ゴーレム工場』も、この『城』に移してある。
魔物の強さや、魔法がつかえないこともあり、誰も手をつけていない砂漠だが、昼間はとっても暑い。
『城レベルアップ』のため支城を遠くに作る必要があったり、貴重な鉱物や薬草を手に入れるためなどの理由でここに来たんだが、人の住む場所じゃなかったな……
そんな風なことを考えながらボーっと砂を見ていると、イェタの元気な声が聞こえてきた。
「トーマーっ! 砂でお城作ったーっ!」
「きゅーっ!」
イェタは、どこでも変わらず楽しそうだ……
ウニと一緒に、かわいらしい砂のお城でも作ったのだろう。
そう思って、声のほうを振り返ると、そこには小屋ぐらいの大きさの砂の城が――
「でかっ!」
思わず声が漏れてしまった。
「アッシュちゃんに作ってもらったー!」
自分の横に立つ、魔動タンクを指す彼女。
でかいのも、みょうにリアルなのも、そのためか。
こいつは魔王ゲルグの灰をかぶっていた魔動タンクで、灰の効果か、ちょっと性能が高い。
いつもはイェタの護衛をしてもらっている。
「これはスゴいな!」
「芸術的ですね!」
ジュナンとユイさんにも好評のようだ。
「あっ、『城壁』の外の『交易所』が反応してるよーっ! 誰か物々交換に来たみたい!」
イェタの言葉。
城レベルアップで作れるようになった『交易所』という施設が反応したらしい。
といっても、何もないただの広場なんだが……
これを作っておくと、いろいろなことがわかる。
『城』のほうで用意しておくと良い商品とか。これは黒神サク様の情報なのかな? あくまでも参考になる程度の性能ということだが、未然に流行り病を防いだりした。
あと、相手が商品に法外な値段をつけていないかなどもわかるそうだ。この能力は、一度も使ったことが無いのだが……
ちなみに『城レベルアップ』のため、繁栄値を百にする作業は、ここではしなくてすんでいる。
すでにカルアスの地で、百まであげているからか。一度どこかであげてしまえば、それで良いみたいだった。
「物々交換って、近くの集落の人たちかな! 楽しみだ!」
喜びの声をあげるジュナン。
魔の砂漠の周辺部は、せまい範囲だが、魔物が弱い地域になっていた。そこに大昔にどこかから来た人が住み着いていたようだ。
人間とほとんど同じような外見だが、体の首から下に爬虫類のようなうろこがある獣人の一種など。
「じゃあ、商品を出しておこうか……」
カルアスの町の住人が『倉庫』に入れてくれる町の品や、ここら辺では採れない薬草で作った霊薬。
そういうのを、彼らの珍しい鉱石や薬草と交換するのだ。
「あれだな!」
ジュナンが指す先、ゾロゾロと近くの集落の人がこちらに歩いてくる。
もうすぐ夕方だから、一晩をこの近くで過ごし、帰るのだろう。
「あっ獣人さんたちも一緒ですよ!」
ユイさんが、ルマールさんたちを見つけた。獣人や魔動タンクの一部。
彼らは、近くの遺跡の探索をしに行っていたのだが、帰る途中などに、あの集落の人と会ったのか?
「また金属板とか見つけてますかねーっ!」
もともと黒神サク様の神殿だった建物……そういうのが、ここら辺では遺跡として残っていた。
ユイさんは、彼女の知らないサク様の伝説や、その子孫の話を見つけるのが嬉しいのだとか。
彼女の『クスノギ家』は、サク様が興した家と伝えられている。かなり思い入れがあるようだな。
「おっ、今日はトーマ君が休みの日だったのか」
もうすぐ夕方だからだろう、エルナーザさんも帰ってきたようだ。
ここら辺に、神々が呪気を封じた場所があるかもしれないということで、ダークエルフ達のいく人かが調査団として派遣されている。
魔王を倒したときに得た加護のおかげか、それとも単純に仲良くなったせいか、ダークエルフ達も城の住人にできるようになっているため、『城』で暮らしていた。
「お帰りなさい、エルナーザさん。問題はなかったですか?」
「ああっ! 君達からもらった『魔法使い』という職業のおかげでな!」
『魔法研究所』という施設を作ったあと、城の住人に与えられるようになった職業だ。
そのジョブのため、ここでも魔法が使えるらしい。
「難しい魔法も使いやすくなって、すこぶる楽しいぞ! ……それで、ジュナンに相棒達のチューニングを頼みたいのだが」
横には彼女の従魔もいるが、ジュナンに頼んでいるのは魔動タンクや魔物タンクのことだ。
「わかった! あの人たちが持ってきた商品とかを見て、それから『ゴーレム工場』に行こう!」
魔動タンクを生産できる『ゴーレム工場』では、技術が必要だが、魔力を使った魔動タンクの改造もできた。
エルナーザさんは魔動タンクなどの構造がわからないため、ジュナンががんばっている。
『プログラム』の書き換えなど、けっこう難しいことが多いようで、チャレンジするのが楽しいそうだ。
あれでも簡単になっているそうなんだが。
「あっ、トーマ様……何か集落の人がざわめいていますよ」
ユイさんの言葉にそちらをみると……本当だな。ルマールさん達も指を差していて……
「おおっ!?」
彼らが見る方向を見て、驚きの声が漏れる。
「魔動タンク達……洞窟竜を倒してきたんですね……」
ユイさんの言うとおり。
体表に『わーっちょい、わーっちょい』という文字を点滅させながら、魔物狩りに行った彼らが洞窟竜の死骸を運んできていたのだ。
「トーマーっ! あれスゴいーっ!」
イェタが興奮している。
半自動で行動する魔動タンク達は、わりと破壊されることもあるが、今回のように大物を取ってきてくれることもある。
何で、こんなところに来てしまったんだろうという思いはあるが……
「ポイントにしよーっ!」
嬉しそうな彼女。
――まあ、みんなもイェタも、ここでの生活を楽しんでいるようだし、それでいいかな……
俺はユイさんやジュナンに後を託すと、彼女に手を引っ張られながら、魔動タンク達の方向へと歩き出した。
さて、この地でも『城』を育てましょうか!
完結となります。読んでくださった方、ありがとうございました!
いただいた感想やレビューなど、励みになりました。複数回、感想を書き込んでくれた方がいたのも嬉しかったですね。誤字などの連絡も……
今月の3月30日にも、この部分の書籍(2巻)が発売予定になっておりますので、どこかで見かけましたらよろしくお願いします。
アニメイトさまでは購入特典もあるようなので、興味があって近くにお店もあるようならば、チェックしていただけると嬉しいです。
本編で名前だけ出した『錬金室』という施設の短編(SS)になりますので。
それでは~




