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87. 知らぬ間の敵排除

「トーマーっ! お外すごいーっ!」

「きゅーっ!」


 魔王ゲルグを倒した翌朝、俺は興奮するイェタに起こされた。


「どうしたんだ……?」


 そう言いつつ着替え、彼女に促されるまま、外に行くと……


「おおっ、これは、すごいな」


『城壁』の外。あたり一面、荒野だった場所が緑になっていたのだ。


 乾いた土や枯れ葉で茶色一色だった場所に、草や小さな木が生えている。


「一晩で、こんなになるのか」


 魔王の灰のおかげだろう。肥料になると聞いていたが、まさか、こんな不思議な効果が出るとは思わなかった。


「『繁栄値』も百になったよーっ! 土地の状態が元に戻ったこと! 町のみんなの喜びも換算されてるってーっ!」


「そうか、やったな!」


 魔王の攻撃にあった町や村もまったく被害はなかったみたいだし、めでたいこと続きだ。


「次の『城レベルアップ』も解放されたーっ!」


 予想していた通りだ。


 多分、繁栄値が百になったことで、城レベルアップができるようになったんだろう。


「今日は『城レベルアップ』だな!」


 その言葉にイェタが「わーい!」と喜びの声をあげ、「きゅーっ!」と嬉しそうな鳴き声をウニがあげる。


「あっ、トーマ様……」


 三人で喜んでいると、俺に呼びかける声が後ろから聞こえてきた。


「ユイさんですか。外、すごいですよ!」


「ええ。私も確認しました。あの魔王の灰の効果ですね。あっ……それで、ちょっとお話があるのですが」


 彼女が手紙を俺に渡す。


 これは……ベルフォード王子のものか? 俺に、この領地の運営を任せた人物だ。


 ぱらっと中を見ると――


「今日、こちらにいらっしゃるのですか……。魔王の件を知って、こっちに来たというわけではないですよね?」


「それとは別件ですね。多分、魔王の件も知らせは行っているとは思いますが」


 非公式の訪問とは書いてあるが、要件は書いていない。手紙によると、予定は今日の午後か。


「……歓迎の用意をしたいから、『城レベルアップ』は王子と会ったあとでいいかな?」


 大丈夫かな、と思いながらイェタに聞く。


「わかったーっ!」

「きゅーっ!」


 イェタが元気良くうなずいてくれた。そして午後、彼が来訪する――


「やあ、トーマ君! 魔物との戦いの跡を見たよ……。大変だったね」


 ベルフォード王子だ。


「はい。魔王ゲルグとの戦いは、なかなか激戦でした」


『城壁』にある門で、ユイさんと一緒に彼を迎えたのだが、外にはポイント化できないほど破損した魔物の死骸なんかが残っている。片付けきれなかった……


「あまりおもてなしもできないんですが……」


「僕は、そういうのはいらないよ。急な訪問だったしね」


 そう笑ってうなずく彼を、俺は『城』の中へと迎い入れた。


「トーマさん! 紅茶入れてきたぜ!」

「入れてきたーっ!」


 ユイさんと一緒に、王子を一室に案内すると、そこにジュナンとイェタ、ウニが紅茶を持って入ってくる。


「クッキーも持ってきたーっ!」

「きゅーっ!」


「ありがとう」


 俺は、それを受け取りベルフォード王子に勧める。


 ……そういえば毒見とかしないで良かったのかな、と思っていると、彼がそれを受け取り食べた。


「おいしいね」


 問題なかった……のか?


「王子さん、今日も一人なんだな! 何の用事で来たんだ?」


 興味津々といった様子のジュナンが椅子にドカリと座り、ベルフォード王子に(たず)ねる。


「ああ。ちょっと王族のほうで動きがあったから、トーマ君には事前に伝えておきたくて……」


「何かあったんですか?」


 俺の質問に、彼が答える。


「うん。今の王が隠居することになってね。それで僕が王位を継ぐことになったんで、あらましを伝えたくて……」


 それは。


「……おめでとうございます」


 ……なのか?


「……王は大変、ご壮健でしたが。……この状態での王位継承ですか?」


 ユイさんは深く考え込んでいる様子。


「うん。どうも、王が魔の森のダークエルフ達にケンカを売ろうとしている様子だったみたいでね」


 王子がユイさんを見る。


「君の父上が動いたんだよ」


 その言葉に動揺する彼女。


「……お父様は王を敬愛していました。私達兄妹や叔父ならともかく……」


「どうも、そのままにしているとダークエルフ達と戦いになりそうでね。動いたらしい」


「ダークエルフ達とですか?」


 ユイさんの家族の件も気になっていたのだが、そっちの質問が、俺の口から出る。


「うん。君が、この領地に出立した後ぐらいに、ダークエルフ達から使者があってね……。正当な理由なくトーマ君と敵対するようなら、魔の森のダークエルフも敵に回る。そんなことを言われていたんだ」


 おおう、そんなことをしてくれていたのか。


 エルナーザさんは、そんなに警戒している様子はなかったから、巫女さまとか、他のダークエルフが動いてくれたんだろう。


「王は、それにも関わらず、君に手を出そうとしていてね……。……ほら、この近くにある隣国の村をダークエルフが助けていたじゃない」


 彼が言う。


「その事実を彼の密偵が見つけたようでね。君を罪人にし、処分しようしていたんだ」


 えっ。


「……トーマ様が、ダークエルフ達を使って隣国を手助けしている。わが国の者のフリをしているが、実際は隣国のスパイだ……そのような罪状を偽装するつもりだったんしょうか?」


「そんな方向だね」


 と、ユイさんの質問に、ベルフォード王子がうなずく。


「王は、死んだユモン・スカルシアに執着的な愛情を持っていた。自業自得で死んだにも関わらず、それをトーマ君のせいで彼が死んだと思っていたから……どうしても復讐をしたかったんだろう」


 ユモンというのは、イェタの『城』に攻め込んで、それを奪い取ろうとしていた貴族だ。


「王さま達は、建国の王……『聖剣の英雄王』の庶子が(おこ)した貴族家の者に甘いんでしたっけ……」


 王族は、そんな傾向を持っていると聞いたことあるが。


「うん。僕たち王族は、『聖剣の精霊』の感情を受け継いだようでね……。王は、それが特にひどかったんだ」


 なるほど。感情の影響が大きかったのか。


「それで、王が、神器の主に手を出さないよういろいろ動いている途中、ダークエルフの件が出てきたんだ」


 と、言う王子。


「彼らや森も、この国にとって重要なものだしね……。大臣――ユイ君の父上も見過ごせなかったようだ」


「お父様は……」


「僕の治世にも邪魔になると考えたようで、職を辞してクスノギ家の当主の座も息子にゆずるそうだ。正直、今やめられると困るんだけど、どうも落胆が強いようでね」


 引き止められなかったようだな。――それにしても、クスノギ家か……

 この国に古くからある貴族家だな。


 黒神サクが、伝説の時代に興した家だと伝えられている。


 途中、商人の家系になったり冒険者の家系になったりしながらもえんえんと続き、この国を興した聖剣の英雄王に協力。

 彼の側室となり、子供を作ったと伝説で聞いたことがあった。


 ユイさんは、その家の娘さんだったらしい……

 ジュナンは「予想してた以上に、ユイちゃんがお嬢様だった!」と驚いていたが。


「ユイ君の父親は、君が他の貴族に贈った付け届けにずいぶんと助けられていたみたいだね……」


 王子がユイさんに言う。


「王がトーマ君に敵対したときのことを考え、彼らを取り込むつもりで贈っていたんだろう?」


「ええ……。兄から、王の動きがおかしいと情報があったので。付け届けなど、動いていたのは兄なので、お父様が利用するのは難しいはずなのですが……」


「君の父上は、うまくそれを利用して、他の貴族家も味方につけたらしいね。ただ、急な話だったから、ここ百年でできた新しい貴族家は取り込みがすんでいないみたいだけど」


 彼は「しばらくは荒れるだろう」と難しそうな顔。


 ユイさんの父親は、娘よりも一枚上手だったようだな……


「……王子は、そのことを伝えに来たんですね」


「うん、最初はそれだけの予定だったんだけど……」


 俺に、そう答えた王子が、ポケットをごそごそと探って、何か透明な結晶をいくつか出す。


「これも渡したいんだよ……。サク様に頼まれてね。王都に戻って、取ってきた」


 サク様……?


「黒神サク様のことですか……?」


 神々が、地上に声を伝えるのは難しいはずなのだが。


「うん、そう。トーマ君、魔王を倒しただろう。魔王を倒すと特殊な加護が得られるみたいなんだけど、それとイェタちゃんの力を使って、神々の力を地上に下ろしやすくしているみたい」


「……それって、トーマさんが、サク様とかの加護を地上に下ろす中心点みたいになってるってことか?」


「トーマ君がほとんどの加護を得ているって言ってたから、そうだろうね。それで、サク様が造った神器の子孫であり、その力を受け継ぐ僕にも、言葉を与えることができたようだ」


 ジュナンの質問に、王子が答えた。


「トーマ君は、神候補になれるほどの加護を得ているみたいだから……トーマ君が神様になったら、イェタちゃんは、天の国にもお城を作れるかもとも言っていたよ」


「おおおっ、スゴいっ!! 天国に『支城』作るーっ!」


 イェタがやる気になったな……


「『魔王』を倒すという『神候補』になるための試練は突破したみたいだから、あとは人々を助けて悪いことをあんまりしなければ、トーマ君は神様になれるんだって。がんばって!」


 王子に応援されたが……


「……『神候補』ってのも、ものすごい気になりなるんですが、これは?」


 あとで詳しいことを聞こうと思いながら、彼の出した透明な結晶を指す。


「『魅了支配』という魔法を使うための消費型アイテムだよ。聖剣の精霊だけが作ることができたアイテムでね。数が少ないんだけど、人類では勝てない敵への対策として、我々王族が保管していたんだ」


 おおっ、そんなアイテムが。


「トーマ君……というよりも、トーマ君の子孫かな? 百年後とか二百年後のために分けて保管したいらしい。多分、神の子孫に管理させれば安全とか、そういう考えなんだと思うよ」


 この国の王族と、俺のところで分けて保管するってことか。


 というか、俺が神様になれることを前提に計画を立てられても、責任持てないんだが。


「……これを使えば、王族ならトーマさんを魅了できたりしたんじゃないか?」


 ジーっと透明の結晶を見ながら、ジュナンが問いかける。


「最初はそのつもりだったけどやらなかったよ。会って話をしてみて、必要がないということがわかったからね」


 まあ、神器の使い手でも、悪として存在した者もいたと聞くからな。警戒して当然か。


 彼がとても真剣な顔で、俺に問いかける。


「トーマ君、改めて聞くけど……この国のために力を貸してくれるかい?」


 ……ここは俺が生まれた場所ではない。でも、育った場所だ。


 他の国も見たことあるが、この国が良い場所だという思いしか抱かなかった。


 薬草不足やカルアスの領地の問題なども、他の国だったらもっとひどいことになっていただろう。


「俺は、この国が好きですよ。幼いときに死んだ母も、この国にいれば助かったのではと思っています」


 そして彼に「もちろん、手助けさせてもらいます」とうなずいたのだ。


「良かった……」


 ホッとする王子に、ジュナンは「トーマさんらしい選択だな!」と言って笑っていたんだ。


 このときは、そこに暖かい空気が流れていたのだが……

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