82. 乗っ取り
「ここが制御室だよーっ!」
昔、この施設を管理していたという神が遺した試験。
それに無事合格した俺たちは、『中央管理施設』の制御室へとたどり着いていた。
最後の『ここの管理者が知らない、新しい魔法を見せろ』という試験も、問題なかったな。
ダークエルフ達にかけてもらった、周囲の生命や存在に警戒されにくくなる魔法が『新しい魔法』と認定された様子。
イェタのメッセージによると、ダークエルフなら、この試験を突破するのはけっこう簡単なのだとか。
ここの管理者である神が死んだのがかなり前だったため、それ以降に開発された魔法を使えば合格になるのだそうだ。
「制御室か……不思議な見た目だな」
「『えすえふ』に出てくる宇宙船っぽい感じのデザインにしてみたって書いてあるよ! 波動砲もつけたかったけど技術力が足りなかったんだって!」
よくわからないが、けっこうこだわりがあることはわかった。
「じゃあ、施設を乗っ取るよーっ! このボタンを押して『たーみなる』を起動! 『ぱすわーど』を入力して、船長にトーマを指定! 副船長は……わたしとウニちゃんで!」
ぽっちぽっちとボタンを押すイェタ。
「できたーっ!」
その言葉とともに、部屋全体がピカッと光った。
「この中央管理施設を乗っ取ったよーっ! 施設への指示とかは、思念波でもできるみたい! ウニちゃんが思念波での操作得意そうだから、ウニちゃんにも任せられるようにしたよ!」
「きゅっ!」
施設に何か指示を出したいときは、彼女へお願いすれば良いらしい。
さっきのイェタみたいに、ボタンを押すことでも、施設へ指示をできるんだろうが、この魔法の装置の操作は複雑そうだからな。
文字みたいなのも出ていたが、知らない文字だったし……
「侵入者や我々の仲間がどうなっているかわかるか?」
エルナーザさんの質問に応えるように「きゅっ!」とウニが鳴く。
「ディスプレイに質問の結果が表示されたよー!」
「……我々の仲間は、誰かを探しているようだな」
『でぃすぷれい』という不思議な魔法の装置には、警戒をしながら、施設の通路を歩く彼らの姿が見えている。
「彼ら、この中央管理施設の外殻に穴をあけた侵入者と、一度戦ったみたいだね! 侵入者もダークエルフだったって!」
やはり、侵入者は、例のダークエルフの裏切り者なのだろうか。
「侵入者は、今どこに?」
「もう外に逃げているって書いてある! 仲間のダークエルフさんは、途中で侵入者の姿を見失ったみたい! 今は、こちらに向かって進んでいるよ!」
「逃げられたか」
エルナーザさんが悔しそうにしている。
「侵入者は、この施設にあるいくつかの装置、そのパーツを持ち逃げしたみたいだよ! ここら辺の土地の調整をする、呪気関連の装置とかのパーツみたい!」
ここら辺は『呪気』が出る土地だ。その『呪気』を『魔力』に変換する能力が土地自体に備わっていた。
しかし、今はその能力が動いていない。それを、この『中央管理施設』が元に戻してくれるはずだったのだが……
「この土地の状態を、元に戻すための装置を持ち逃げされたのか」
「うん! 持ち逃げされたのは装置のパーツだから、修理可能な範囲だけど……。一応、そのパーツを取り戻すための追跡用飛行ドローンを出しているって書いてある!」
なるほど。飛行する何かで追跡しているのか。
「仲間のダークエルフさんは、どうする? こっちに誘導する?」
エルナーザさんを見ると、うなずかれた。こっちに来てもらうので良さそうだ。
「頼むよ!」
「わかったーっ! 罠とかを解除して……、マイクはこれだから……、じゃあ、音声で制御室まで誘導するよーっ!」
ぽっちぽっちとボタンを押すイェタ。
こうして他のダークエルフ達も、俺たちに合流したんだ。
「トーマ君たち! エルナーザも無事だったか! 良かった!」
「侵入者は、やはり例の裏切り者だったぞ!」「逃げられた!」
ドヤドヤと部屋に入ってきた彼ら。
「この施設の外に逃げたという話だったが、もう見つかったのか?」
一人の問いかけに「きゅっ!」とウニが反応する。『ディスプレイ』という魔法の装置に、岩山と文字らしきものが表示された。
「ドローンからの『映像』が出たよ! あの岩山に魔力の痕跡が伸びているみたい! かなり遠くにある岩山だって!」
「……何か、あそこに人影がある気がするな」
エルナーザさんがディスプレイを指差す。
「きゅっ!」
「ズームするよーっ!」
人影が大きくなった。男の姿があるが……
「ゲルグだ!」「本当に外にいる!」
「中のほうに逃げたとばかり……」「だまされた!」
口々に悔しがるダークエルフ達。
ダークエルフの裏切り者――ゲルグと言うのが敵の名前らしい。
人相描きをもらっていたが、その通りの顔だ。
その顔が、こちらを見る。
ディスプレイが真っ暗になった。
「ドローンが撃墜されたよーっ!」
さっきの『映像』というのをこちらに送っていたドローンがやられたんだろうか。
「他のドローンから映した画像に切り替えるよーっ!」
かなり遠くからの映像になってしまった……
「……彼の周囲に、何か魔法陣のようなものが見えた気がしましたが」
岩山の頂上に立つ彼の周囲に、うっすらと光る複雑な紋様が描かれていた。
「あいつは『超生物』というものになるための魔法儀式を研究していたようだ。そのための魔法陣だろう」
なるほど。
その儀式のために『呪気』も必要なのだろうが……
「ディスプレイに、あれは『魔王』になるための魔法陣じゃないかって予想が書かれていたよ! 魔法陣の周囲に『呪気』が集まっているとも書かれていた!」
イェタの情報。魔王というのは、伝説の存在だ。
「『魔王』は人々の苦しみなんかを糧に生き、強くなる存在なんだって!」
人々に苦しみを与える存在なのか……
あの彼は、それを知って、そんなものになろうとしているのだろうか。
87話+エピローグで完結予定です。よろしくお願いします。




