07. 王金貨
俺のバックにダークエルフ達がついていると勘違いさせてしまったものの、無事、ギルド長のガルーダさんとの対話を終えた。
彼が去った部屋で、薬草担当の彼女に、新しく持ち込んだ薬草の買取をしてもらっていた。
「……レドヒール草以上に、かなり森の奥に入らないと採取できない薬草が混じっていますね」
……普通の冒険者では持ち帰れないぐらい森の奥に行かないと採取できない薬草……そんなのが入っていたのかもしれない。
「報酬を持ってきますので、少し待っていてください」
薬草を持った彼女が、部屋から出る。
しばらくして、トレイに金貨や銀貨を乗せて戻ってきた。
……なんか、みょうにでっかい金貨があるんだが――
「王金貨一枚、大金貨八枚の千八百万エーナと、大銀貨九枚、銀貨三枚の九万三千エーナです」
お、王金貨か……
依頼人の大商人に一度だけ見せてもらったことはあるが、触るのは初めてだ。
庶民や病気の人に必要そうな薬草を持ってきただけなんだが、昨日の報酬の三倍近いお金を受け取ってしまった。
指先でツンツンして、王金貨が幻でないことを確かめる俺。
それを手に取ってみる。
「重い……」
そんな俺の様子を見て、クスクスと笑っていた薬草担当の彼女が紙を差し出してきた。
「どの薬草がいくらだったかなどの内訳はこちらに。どれも大変状態が良い薬草でしたよ」
「ありがとうございます……」
紙を受け取り、緊張でちょっと震える手で金を小さな袋にしまった。
俺は彼女に一礼し、その部屋をあとにしたのだ。
「これは、やばいぜ……」
ギルドの一角、人目のないところで『倉庫』の能力を使い金をしまう。
薬草の報酬は基本イェタのものとし、十パーセントか二十パーセントぐらい手数料をもらおうかとか考えていたが、それでもかなりの金額になりそうな気がする。
「と、とりあえずゴブリンの魔石でも売って、落ち着くか……」
昨日、城に死骸を持ち帰れなかったゴブリン三体分の魔石だ。
魔石だけだと、『ポイント』にすることができないらしいので、ギルドで金に換えてしまうつもりだった。
窓口に行き、魔石と俺のギルドカードを渡す。
「ゴブリンの魔石三個で、六千エーナです」
返却されたギルドカードとともに渡される報酬、銀貨六枚。
それなりに苦労して得た魔石のに、千八百万エーナの後だと、すずめの涙に感じるよ……
なんとなく物悲しさを感じながらも本屋へ行く。
イェタのための絵本を十冊選び、これも喜ぶかなと、適当に、カラフルな絵が描いてある図鑑も五冊購入する。
全部で四十五万エーナ。
俺は十五冊を両手で抱えながら、人目のない路地裏へ行くと、買った本を『倉庫』にしまった。
この能力、便利だな……。人前で使うと、すごく目立つけれど。
「ただ、ちょっと魔力を使うんだよな……」
魔力が低下しすぎると、めまいふらつきなどが起こるようになる。
城へ帰る途中、魔物と出くわし、倉庫を使うこともあるかもしれない。
俺はいざというときのため、魔力を回復してくれる安い霊薬を購入した。
さらにイェタのお土産として、クッキーや飴などのお菓子、ビン入りのハチミツを手に入れる。
「あとは生活雑貨かな……」
倉庫があるから家具なんかも持ち運べるが、家なしの冒険者が買うと奇妙に思われるだろう。
適当に小さな雑貨を購入する。
食料も欲しい……
日持ちのする野菜やキノコ、乾燥肉、いろんなものを作れる小麦粉、今日の夕食にするブロック肉やパン、卵スープ用にいいかなと卵なんかを買う。
最後に、武器屋で矢を購入すると、町を後にする。
草原を行き、森に入る。
狼の魔物二体が襲ってきたので倒し、倉庫に入れる。
さらに歩いていくとゴブリンが一体ウロウロしているのを見つけ、逃げられる前に襲い、倉庫に入れた。
戦うと時間がかかりそうな魔物からは逃げ隠れし、俺は日が落ちる前に、城に帰り着くことができのだ。
「トーマーっ!」
城の入り口で、かがんでいたイェタが俺に気がついた。
彼女の足元には、なにやらキラキラするものが落ちていて……
あれは……金貨に、銀貨……?
「……何をしていたんだい?」
「おはじき! 『倉庫』に入っていたのでやってた!」
……多分、俺が町で『倉庫』に入れた金貨や銀貨をおはじきに使ったのだろう。
倉庫は、皆で共通のものが一つあるだけ。俺が町で入れた物を、城のイェタも取り出せる。
「このおっきいの、すごく強いよ!」
イェタが指差すのは、一千万エーナの王金貨で……
うん……この金貨は、一番大きくて重い硬貨だからね。
でも、どっかに転がってなくなると怖いので、それをおはじきに使うのはやめてね!
あと、俺が戦闘や町で使うアイテムは、あんま出し入れしないでね!
そんな説得を、がんばって彼女にすることになった。
今度町に行ったら、彼女のためにキレイな『おはじき』を探したほうがいいだろうか。