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76. 情報交換

 魔動タンクに追いたてられる俺達。


 遠くに魔物よけの岩壁がある、小さな集落が見えたところで、新たな人物と出会った。


「きゅっ!」

「エルナーザさんだよ!」


「トーマ君か! ウニから念話があったので出てきてみたら、どうしたんだ!?」


 周囲の魔動タンクの様子に驚いているようだ。


「魔動タンクんとこで、食料をもらっていたら、途中でトーマ君たちに会ってな。謎の爆発があったりといろいろあって、興奮したヤツらにここまで追い立てられてきたんだ」


 ダークエルフの彼が説明してくれる。


「村で詳しい説明をしたい。魔動タンクはほうって置けば落ち着くそうだが……トーマ君もいるんだが、村に入って大丈夫そうか?」


「ああ。村はいつも通りだ。先に行って、私が村長に話をつけておこう」


 エルナーザさんが駆け出し、そして俺達も無事に村についた。


「お父さん、これ」


 魔動タンクのところで出会った少女。村の入り口で、ダークエルフの彼が連れていた彼女が、男性に袋を渡す。


「村長、騒がせてすまないな」


 その男性に、エルナーザさんが謝る。


「いや、魔動タンクは魔物を倒してくれますからな」


 村長はそう言うが、何がきっかけで彼らと戦闘になるかわからないな……


 ゴブリンを倒そうとする冒険者に、そのゴブリンを守ろうと向かってきたこともあったそうだ。迷惑をかけているのに変わりはないだろう。


 俺も「すみません」と頭を下げる。


「迷惑をかけるのだが、魔動タンクが落ち着くまでこちらの彼と話をしたい。私の命の恩人で、我々の友人なんだ」


 エルナーザさんの言葉に「おおっ、そうでしたか」と、こちらを見る、彼。


「村が今もここにあるのは、エルナーザ殿のおかげですからな。エルナーザ殿を救ってくださったことで、間接的に私たちを救ってくださった……ということにもなりますかな」


 そして「歓迎いたしますぞ、旅人殿!」と俺の手を握る。


「他のものにも話の邪魔をしないよう伝えましょう。……何か食べ物を持って行きましょうか?」


「いや、それには及ばぬ」


 断るエルナーザさん。魔動タンクから食糧をもらっていたぐらいだからな。


 魔動タンクから逃げる途中、少女の持つ袋を代わりに持ってあげたが、土の中で育つキノコとか、地下に生えてる球根とかも入っていた。


 魔物の肉も小袋に分けられて入れてあったが。


 俺も「大丈夫ですから」と断り、霊薬の入ったビンをいくつか出す。


「それと、ご迷惑をおかけしているお詫びとして、こちらを。解毒の能力がある霊薬です」


 魔物から毒を受けたとき、いつでも取り出せるようにしていたものだ。


「おお……っ! 助かりますが、よろしいのですか?」


「ええ。ここら辺の魔物は小型ですが毒をもつものがいると聞いておりましたので」


「ありがたいですな! 予備が心ともなく。これで救われる者がおるかもしれません」


 笑顔がこぼれた。


「じゃあ、彼は、私が使っている住居に案内する」


 俺を見て、エルナーザさんが言う。


「こっちだ」


 彼女の案内に、ダークエルフの彼や俺、イェタとウニも続いた。


「私が使っている家は、ここになる。入ってくれ。他の仲間は出かけているので、我々だけになるが……」


『他の仲間』といったところで、近くにあった家を指す彼女。

 ダークエルフ達は、いくつかの家にわかれて住んでいるんだろう。


「ずいぶんと新しい住居ですね」


 中に入った俺は家の様子を見て、そんなことを思う。

 他の家を外から見たときも同じことを思ったが、まだ作られたばかりという感じがする。


「我々が作ったものだからな。村人の家も、あのままでは魔物に襲われたときに危険そうだったから、シェルターになるように考えながら強化してある」


「来たときはボロボロで今にも崩れそうな家屋ばかりでな。大変だったぞ」


 そう言った彼らが、お茶を運んできてくれた。薬草茶だ。


 お返しに、『倉庫』からクッキーやそれにつけるハチミツなどを出し、彼らにすすめる。


「クッキーだーっ!」

「きゅーっ!」


 イェタ達が一番喜んでいたが……


「この薬草茶はハチミツを入れてもうまいぞ!」


「ほんとだ! おいしーっ!」

「きゅーっ!」


 エルナーザさんが、お茶をイェタの好みに合わせてくれた。嬉しそうだ。


「それで、トーマ君は、どうしてここへ?」


「えっと。魔動タンクについて調べに来ました。イェタの能力で、彼らが何故そんな行動を取っているかなどの詳細がわかるので――」


 そう言って、俺は今までのことをかいつまんで話す。


「なるほど、サク様が造った神器である彼女は、サク様のアイテムの情報などがわかるのか」


 感心するエルナーザさん。


「呪気の状態を、その『中央管理施設』が直してくれるかもしれないというのも朗報だが……」


 そう言った彼女は「魔動タンクを興奮させた謎の爆発か」とつぶやく。


「きゅ?」

「エルナーザさんには、何か思い当たることがあるんじゃないかってウニちゃんが疑問に思っているよ!」


 ウニはもともとエルナーザさんの従魔だったブラウニーだ。彼女の様子から推測をしたらしい。


「ああ、いや……実は、ここら辺を探索したときにヤツの気配を感じてな」


「……ヤツ?」


 誰だ?


「例の、我々を裏切った者がいただろう」


 ああ、裏切り者のダークエルフのことか。


 彼が、例の爆発を起こしたと考えているのか。


 爆発は魔動タンクを倒せるもので、でも、俺の持っている爆弾と違い、爆発後に呪文を使いにくくするような効果はなくなっていたみたいだ。


 例の裏切り者は魔法使いだ。呪文を使いにくくするような効果がないのは嬉しいだろう。エルナーザさんも確信はないのかもしれないが……


「……ヤツの気配を感じたって話は初耳なんだが」


 戦士の彼が、もの言いたげにエルナーザさんを見ている。


「気配を感じたのは、今日の話だからな」


 彼が魔動タンクに食料をもらいに行っていた、その間の話なのだろう。


「そうか……。一応お守りはもらってあるが、気をつけないとダメだな」


「お守りですか?」


 彼に聞く。


「ああ。聖樹さまの枝から作ったものだ。聖樹さまを信奉している必要はあるが、裏切り者の魔法なんかに高い効果を発揮し、それを一度か二度防いでくれる……はずだ」


 聖樹さまを裏切ったものからの攻撃に、特に強い効果を発揮するってことだろうか。


「それで、そういうことがわかって危険度が上がったからな。トーマ君のところにも、警戒用の従魔を貸そうかと思っていた。今日、来てくれてちょうど良かった」


 エルナーザさんが微笑む。


「まあ、あいつは神器にも興味を持つかもしれないしな……」


 ダークエルフの彼が不安になることを言う。

 相手が神器――『城』に興味を持たれる可能性を考えている様子。


「ダークエルフが出入りすることで、逆にヤツの目をひいてしまうかもしれないが、そちらが許可をしてくれるならば、私か他のダークエルフを、そちらの城に向かわせるつもりもあるぞ」


 なるほど。


「それは、ありがたいですね」


「うん。トーマ君が良いようなら、準備ができしだい向かわせよう。とりあえず、警戒用の従魔は複数貸すから、狩りなんかにもお手伝いとして連れて行ってくれ」


「感謝します」


 エルナーザさんにお礼を言う。


「ちなみに、魔動タンクを倒せたり、対魔法使い用の切り札になる爆弾を持っているんですけど、エルナーザさんたちは使いますか?」


「あれか」

「俺は助かるぜ!」


 戦士を名乗る彼が真っ先に喜んでくれる。


「やつ相手なら、私も魔法を封じたほうがいいかもしれないが……。すまないが、他の仲間のぶんももらえるか?」


 数はじゅうぶんにある。


「問題ありません」


 うなずいた。例の裏切り者の似顔絵はもらってあるし、それを『城』の皆にも知らせて警戒したほうがいいだろう。『城』の住人になれた人物には、爆弾も渡して……


 正直、ちょっと面倒なことになったな、とは思った。


「……この土地がおかしくなっているのも、もしかしたら、その裏切り者のせいなんですかね?」


 疑問に思ったことを聞く。


「我らがヤツを取り逃したせいと思うとはらわたが煮えくり返るが、その可能性はあるな」


 うなずくエルナーザさん。


「そして、もし、この土地の状態をあいつが引き起こしたり(ひど)くしているのなら、おかしくなっているのは呪気を魔力に変換する部分だろう」


 彼女が、そう続ける。


「……裏切りものは、呪気を魔力に変換したくないということでしょうか?」


 俺の言葉に「そうだ」と答える彼女。


「ヤツは、呪気を使った儀式をしたがっていた。魔力に変換する前の呪気をどこかに集め、その呪気で儀式を行うつもりかもしれない」


 なるほど。


「その推測が正しいなら、その裏切り者にとって、魔動タンクの中央管理施設は邪魔な存在になりますよね……?」


 あの施設は、土地の状態を元へと戻し、また呪気を魔力に変換するようにしてしまう。


「施設の存在や、その機能に気がついているかはわからないが、トーマ君の言う通りだな」


 うなずくエルナーザさん。


「魔動タンクを簡単に壊せる爆発も起こしていたそうだし、もしかしたら、その中央管理施設を守るために、我々も行動したほうが良いかもしれない」


 魔動タンクを人間の味方に戻すため、その施設に襲撃をかけ、乗っ取ることも考えていた。


 それをしないにしても、その施設を守るための人員は出したほうが良さそうだ。


「……予想が正しいかはわからないが、それが『当たり』なら施設を守るのは大変そうだな。例の爆発を連続で起こされると、魔法で作られた施設なら簡単に壊されてしまいそうだし」


 ダークエルフの彼のつぶやき。


 今日、例の裏切り者が使っていたかもしれない、魔動タンクなどを、簡単に壊せる爆発か……


「イェタのメッセージによると、施設は神様にプレゼントしたって話だったんで、その神様が何か防衛策を施しておいてくれているかもしれませんが」


「……サク様もそういう攻撃に対する何らかの対処はしている気はするが、まだ人間だったころに造られた施設だからな」


 俺とエルナーザさんが、彼の心配に対して意見を述べる。


「……まあ、アイツのことだから魔法の施設はできるだけ壊さないように行動する気もするんだが」


「ああ、その可能性は高いな……」


 エルナーザさんや彼から、そんな意見も出たが。

 魔法のアイテムの収集癖でもあるのだろうか。


 壊してから施設の残骸を調べる可能性もあるから、あんま期待すると足をすくわれる気はした。


「そこらへんも、後日トーマ君たちの城で相談しようか」


「そうですね」


 城の皆とも相談し、対応を決める時間が欲しかった。

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