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75. トラブルと敵対

「あー……それで、すまないんだが、いくつか欲しい霊薬があってな。その原材料をゆずってもらえないだろうか。戦闘や呪気の調査に使いたい」


 魔動タンク達の中央管理施設について、ダークエルフとの共闘が決まったあと、彼からそんなことを聞かれる。


「俺に聞くってことは、薬草が必要なんですかね?」


 イェタの薬草園で採れるものなら出せる。


 ダークエルフの集落にある『城』でエルナーザさんの従魔が収穫し、定期的に『倉庫』に入れてくれていた。


「必要な薬草の名前を教えてもらえますか?」


「いくつか薬になる鉱物も混ざっているんだが――」


 そう言って薬草などの名前を挙げていく。全て『倉庫』に入っているな。


「……鉱物も、あまっているんで大丈夫そうですね」


 これも『地下鉱石採取所』というイェタの城の施設から採れるものだ。


「そちらについては量は少なくてかまわない」


「なら完全に大丈夫です」


「すまないな。この礼は、あとで君のところまで持っていく。魔動タンク達の中央管理施設の件もあるしな……」


 本当に施設を襲撃するのかとか、そういうのを決めなくてはならない。


「薬草は、ここで受け渡しますか?」


「お願いする。仲間のもとに持って帰ろう。……トーマ君も今の拠点に戻るのだろ?」


「ええ。もう目的は達したので」


 あとは待たせている獣人や兵士たちと合流し、城に帰るだけかな。


 最初はイェタとウニを守らなければと心配だったが、問題はなかった……


 予想外のことはあったが、仲間のダークエルフと出会っただけだったしな。


 ホッとしながら、薬草などを『倉庫』から出すため集中したときだった。


「きゅっ!」


 ウニが警告を発するように鳴いた。


「なんだ!?」


 そして、ドン、という空気を震わせるような音が遠くから聞こえて――


「こいつは!」


 あせったようなダークエルフの彼の声。


「魔動タンク達が()()()のほうを警戒しているよっ!」


 イェタの言うとおりだった。


 爆発音のほうに向かって走っていくものもいるが、その他のすべての魔動タンクが俺達に向かって戦闘体勢を取っている。


「すまねー。魔法が中断された!」


 ダークエルフの彼。


 魔動タンクを警戒させないため、彼と、彼が連れていた子どもにかけていた魔法。

 それが強制的に中断されたようだ。


 あまり大人数で、魔動タンク達の群れの中に入ると戦闘になる。


 今の人数で、さらに魔動タンク達が大事にしている場所にいることもあり、彼らを興奮させてしまったようだ。


「きゅっ!」

「トーマ! 今の爆発と同時に、魔法を強制的に中断するような、そんな力が一瞬だけ辺りに広がったってウニちゃんが言ってる! 魔動タンクを倒せるような!」


「俺の持っている爆弾のようなものを誰かが使ったのか……」


 前に魔動タンクを倒すときに使った爆弾だが。


「魔力を阻害する効果は一瞬で消えたし、トーマ君の持っていた爆弾とは力の波動が違ったな」


 俺が持っている爆弾には、敵の魔法を封じるような効果もあるが、謎の爆発にはそっちの効果はない様子。ただ、効果範囲は向こうのほうが広そうだ。


 さっきの爆発音は、ここからかなり離れたところで聞こえたからな……。俺の持っている爆弾だと、ここまで効果は届かないだろう。


 魔動タンクは、まだ襲ってきてはいない。今のうちに、その爆弾を用意するべきだろうか?


 ……いや、武器になるアイテムを出せば確実に襲ってくる。ダメだな。


 百台単位でいる魔動タンクたちに波状攻撃を仕掛けられて、爆弾で完全に対処できるかわからない。イェタもいるし、戦闘は最後の手段だ。


「……イェタ、魔動タンクを静める方法とか、乗り切る方法はメッセージとして出ていないかな?」


 彼女に聞いてみる。


「さっきの爆発で、すごく興奮しているって! 分散して逃げるとか、普通の方法では無理みたい! ダークエルフさんが使っていた魔法を全員にかければ戦闘にはならないよ!」


 それを聞いたダークエルフの彼が「わかった」とうなずく。


「そろそろ魔法も完成する。魔動タンクを刺激しないように魔法を構築したから、ちょっと時間がかかったが……。だが、魔力がきついな……」


「……では、この魔力回復薬を」


 ジュナンが作った、回復効果が高い一品を『倉庫』から出す。


 俺にとっては回復量が多すぎるが、彼にはちょうど良いはず。


「助かる……って、めちゃくちゃ貴重な霊薬を出してきたな」


 笑顔が引きつっている。そんな貴重なのか。


「うちのドワーフの最高傑作だそうです」


 ヒマだったから作ったと言っていたが。


「これなら四人でもどうにかなるな……。魔法を使うぞ!」


 その言葉と同時に、魔力が動いた感覚があった。


「あっ、思ったよりダメだった……」


 不穏な言葉を漏らしながら、あわててビンのフタを開け中の霊薬を飲む彼。


 だが、効果はあったようだ。


「魔動タンク達が、戦闘準備モードから高警戒モードになったよー!」


 イェタの言葉。


「魔法、効いているじゃないですか!」


「ああ。だが、この魔法は維持も大変でな……。見られても警戒されなくなる効果とかがあるんだけど、ちょっと特殊で……」


 警戒心を起こされにくくなる魔法なのか。


「気配を消す魔法なら、もっと簡単なんだが、前にあれを使って魔動タンクに近づいたときに戦闘になってな」


 戦闘能力がありそうなダークエルフが気配を消して忍び寄ってきたら、警戒もするだろう。


「とりあえず魔法が効いているうちに逃げようか、トーマ君。魔動タンク達は我々を追い立てたいようだが……」


 その方向は、獣人や兵士達が待っているのとは違う方向だ。


「うん……うちの村の方角のようだが、すまないが魔動タンクの警戒が解けるところまで一緒に来てくれないか?」


 隣国の方向だがしかたない。「わかりました」とうなずいた。


「追ってくるな……」


 足早に、けっこう進んだのだが、それでも魔動タンク達は追ってきている。


 新しく出会う魔動タンクが、その魔動タンクの群れに加わるから、むしろ数は増えた。


「自分たちのテリトリーから追い出したいみたいだよ!」


 逆に言えば、彼らのテリトリーから出れば、それでもう安心ってことかな。


「あれが川だ。国などの監視の目はない」


 ダークエルフの彼が指差すのは国境だ。


 いつの間にか、ここも魔動タンクのテリトリーになっていたらしいが、国の監視がないのは、そのせいもあるだろうか。

 もしくは、もともと兵を配置していないのか。


 かなり水量がない。わたるのは簡単だが、躊躇(ちゅうちょ)する。しかし、魔動タンクは川向こうに俺達を追い立てたいようだ。越えるしかない。


「きゅっ!」

「魔動タンク達、ちょっと興奮が静まったみたいだよ!」


 川を越えてしばらくし、イェタからそんな情報が来た。それでも、まだ追い立ててくるが……


「我々を村の方向に誘導しているな」


 ダークエルフ達がお世話になっている村か。


 食料調達に協力しているみたいだから、お世話をしている村のほうが正しいかもしれないけれど。


「一応、近場の安全なところまで誘導してくれているみたいだよ!」


 村が近場の安全なところなのか。

 ありがた迷惑な……


「まだ興奮しているみたいだから、誘導に従ったほうが良いみたい!」


 興奮が静まったとは聞いていたけれど、ちょっとだけって話だったから。


「村に入ってしばらく待っていれば落ち着くだろうって書いてあるよ!」


「……俺が村へ行くのはマズい気がするけど」


「村といっても十数人規模の集落で、役人とか兵士もいない。入って大丈夫なはずだ。なんか問題があれば魔法を使ってどうにかしよう。協力するぞ」


 そう言うダークエルフの彼。


「魔動タンクの数も減っているから、多分、このまま向かっても、村人達もパニックにはならんしな」


 と、そう言って、村を二十台、三十台の魔動タンクが監視していたこともあったと告げる。


 魔動タンクが周囲にいるのは、村人たちも慣れているようだ。


 向こうに役人や兵士がいないというのもポイントだった。隣国は、魔動タンクのことは放置しているのだろう。


 討伐推奨ではあるが、もともと人間の味方だったこともあり、危険度は低いからな。


 あまり重要な土地ではないこともあるだろうが……


「お父さん……村長も、恩人さまのお友達なら、隣国の兵士さんでも役人さまでも問題にしないと思います」


 そんなダークエルフの彼が連れていた少女の言葉も一押しとなった。


「……わかりました。それでは村に、お邪魔させてもらいます」


 百台以上いた魔動タンクは四十台以下になり、まだまだ数は減っている。


 だが、戦闘をしても、勝てるかどうかは微妙だ。


 イェタが彼らの誘導には従ったほうが良いと言っていたのもあり、村に行ったほうが安全だろうと判断したんだ。

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