73. ダークエルフ達
「トーマ君か!」
「おひさしぶりです」
荒野の真ん中に集まる魔動タンクたちを調べに来たところ、エルナーザさんの知り合いと出会った。
魔法も使える男性の戦士。彼もエルナーザさんと同じくダークエルフだ。
彼の横には人間の子が一人立っていた。少女だ。
「……ここには、呪気の調査にやってきたんですか?」
その目的で、ここら辺に来るかもしれないとは聞いていた。
でも、そうだとしたら、彼の横にいる子は何なのだろう。見た目からは呪気の調査に関係ありそうな感じはしない。
袋を抱えているが、荷物持ちというわけでもないだろうし……
「ああ。呪気についての調査と……あと、この子の関係で、魔動タンク達から食料を分けてもらっていてな」
「食料ですか」
少女のために魔動タンクから食料を分けてもらっていたらしい。
彼女は少しやつれている。
「あまり知られていないが、魔動タンクは子どもや老人が飢えで苦しんでいると、食料を分けてくれることがあってな」
「見つけた植物とか、魔物を倒したときの肉とかを、飢餓に苦しんでいる人たちに分け与える機能がついているって!」
イェタが補足してくれる。
「食糧不足にあえいでいるこの子の村を、エルナーザのやつが見過ごせなくて……。ちょっと手助けをしているんだ」
「えっと、その村って……」
うちの領地の村じゃないよな? 領地の村は一つだけ。そこでダークエルフが手助けをしているとは聞いていない。
少女の服もずいぶんとボロボロだから、村の状態が、うちの領地より悪いのかもしれない。
「一応、川が国境になっているんですが」
日照りで水量がかなり危ないようだが、それでも水や、最悪でも川が流れていたあとはあるはず。
「……ここら辺は、国と国との緩衝地帯じゃなかったのか」
この国境のあたりを、どちらの国のものでもない土地だと思っていたらしい。
まあ、関所とかもないしな。
魔動タンクがいなかったときは魔物も強かったようで、兵を配置できるような砦も、ここら辺には築けていない。
隣国からの旅人の入国手続きは、うちの町でやるらしいから、実質上の緩衝地帯ではある。
「……まずかったか?」
あんまりほめられた行いではないが、魔物を倒してくれる冒険者とかならば、冒険者カードさえ所持していれば、両国にまたがって活動できる地域も多い。
「とりあえず普通なら、兵士とかに呼び止められて、何をしているかは聞かれますね」
怪しければ町に連れて行って尋問だが、単なる村人なら見逃されるかな。ダークエルフなら旅人扱いか。
俺の場合、隣国の人間との接触は避けるようにも言われていたこともあり、他にもいろいろ考えなければならない立場だったが。
「ここら辺は、冒険者があまりいない聞いていたので、隣国の人間に会うことがあるとは思っていませんでした」
一応、何があっても対応できるようにはしていたが。
兵士は信頼できるもののみをユイさんが選考し、任務の内容は口外しないようになっていた。連れてきた人数も少ない。
隣国の人間との接触があっても、黙っているように命令すれば、問題は起こらない可能性は高いそうだ。
それでも漏れる可能性はあるのだが。
「すまないな」
彼が謝る。
「いえ」
本当はよくないんだが、もし兵士が彼を見つけても、あまり問題にはしなかっただろうし……
「罪滅ぼしにはならないが、できることは協力したい……。魔動タンクのことを調べに来たんだろ? トーマ君の立場だと、川の向こうには足を運びにくいんじゃないか?」
「……魔動タンクがいるのはうちの国だけと聞いていたので、川の向こうに足を運ぶ予定はありませんでしたが」
何で、そんな提案をしたんだろうと思って気がついた。
「もしかして、魔動タンクって隣国のほうにも出ているんですか?」
「ああ。川の向こうや、今いる村の近くにもいるみたいだ。あいつら、毎日ちょっとずつ移動しているんだよ。縄張りの範囲も広がっているようだし」
そうなのか。いつの間にか、魔動タンク達は、向こうの領土にも侵入していた様子。
「まあ、我々も魔動タンクのことについては調べていたから『トーマ君に協力する』と言いつつ『トーマ君が我々に協力してくれる』みたいな結果になるかもしれないが」
……彼らも魔動タンク達について調べていたのか。
「魔動タンク達は、呪気なんかがおかしくなっていることと何か関係があるんですか?」
「わからんが、その可能性も考えている」
確証はない感じか。
「ただ、調べるにしても大変でな……。魔動タンクは矢も効かないし、接近戦で魔法を邪魔する能力もある。さらに、どんな行動がヤツらの逆鱗に触れるかもわからんしな」
ダークエルフにとっても、敵対をしたくない相手のようだ。
「それで、我々に何か協力できることはあるか?」
ひと通り愚痴を言った彼が、こちらに聞いてくる。
「えっと……魔動タンクについては、ちょっと判断がつかないですね」
協力してもらわなければいけないこともあるかもしれないが。
そもそも、隣国のほうにも足を運ぶ必要があるかもわからない。
俺はイェタに聞く。
「目的としていた場所って、あとどのぐらいでつくのかな?」
「あの丘を越えた辺りだよー!」
けっこう近いな。
「じゃあ、一回、そこに行ってみようか」
彼に向き直る。
「返事は、その地点に行ってみてからで良いですかね?」
「もちろん! もし、魔動タンクについての情報が手に入るのなら、私も聞かせてもらってかまわないだろうか」
「かまいませんよ。代わりに、そちらの持っている情報もください。呪気に関することも含めて」
領地の安全のためにも、呪気のことは知っておきたい。
「もちろんだ」
彼がうなずいた。




