62. 鉱山の戦い
ルマールさん率いる城の獣人たちや、ゴーグ兵士長率いる町の兵士たちと合流。
町からも兵士を加え、総勢三十数名。ゴブリン退治にやってきた。
カルアスの町の近くの廃鉱……そこにゴブリンの群れがいるのだとか。
「トーマ様、ここが廃鉱の入り口です! いくつかありますが、その中の一番大きなところです!」
ゴーグ兵士長が指す廃鉱の入り口。石などで補強されている。
「……ここまで来ても、ゴブリンが通った跡が見つかりません。この入り口は使っていないのかもしれませんな」
足あとを見つけるのが得意な武人風の獣人、ルマールさんの言葉。
出入り口はいくつかあるということだから、他の場所から出入りしているのだろう。
「きゅっ! きゅっ!」
ブラウニーの従魔ウニも負けじと情報をくれる。
――イェタがいないので、何を言っているかはわからないが……
ゴブリンの気配が感じられるとか、坑道の奥にいるみたいで感じられないとか、そんなことを伝えてくれているのだろう。
ありがとう、という思いを込めて頭をなでた。
「きゅっ!」
ご満悦な様子。
皆に、イェタから聞いていた情報を伝える。
「ゴブリンは四十数体ほどの群れらしいです。他の魔物もいるかもしれませんが……」
「『秘術使い』であるトーマ様がいれば大丈夫でしょう!」
ゴーグ兵士長は信頼しきっている様子だが、後ろの兵士達は少し心配しているみたいだ。
「『城の住人』には『戦の角笛』という、防御力などを上げる魔法を使います。かなり強い魔法で、たいていの魔物なら、こちらが傷つくことはありません。安心して戦ってください」
次に、ゴーグ兵士長を見る。
「『戦の角笛』は『城の住人』以外には使えません。兵士の方を『城の住人』と、そうでない方に分けてくださいますか?」
「了解いたしましたぞ! 『城の住人』の兵士を、前線に立たせましょう!」
そして彼らが戦闘の用意をする間、『倉庫』から追加の武器を取り出した。
刺さったところに、小さなカミナリを落とす矢。
ビンが割れた近く、半径数メートルを凍らせる効果のある霊薬。
後者は、枯れ草や枯れ木などに火がついたとき、消火するためのものだ。
この土地は日照りが続いていて、茶色くなった草や木などがある。火がついたら面倒だ。
戦闘後に回収する必要があるが、領主の許可があれば使える魔物用の毒もあるので、こちらも出す。
あまり強くないものだが。
毒は、ゴーグ兵士長にも渡して兵士達にも配ってもらう。
「用意ができました!」
魔法の矢や霊薬を配っていたら、ゴーグ兵士長から声がかけられる。
ちょうど良い。最後のアイテムを、獣人に渡したところだったから。
「それじゃあ、ウニ。イェタに、ゴブリンたちを、あの坑道の入り口に転送するようテレパシーで頼んでくれ!」
「きゅっ!」
彼女が祈るようなポーズをして、しばらく――
「おおっ、入り口が岩で埋まりましたな!」
ゴーグ兵士長の声。
下から岩がむくむくと伸びてきて、入り口にフタをした。
多分、中もあんな感じで、坑道が埋まっていってるんだろう。
「きゅっ!」
そしてウニが俺達に何かを知らせたときだった。
「来ましたぞっ!」
ルマールさんの叫び声。
ポン、と音を立てて、ゴブリン四十数体が転送されてきた。
馬ほどもあるトカゲの魔物五体や、それに鹿の魔物なども一緒だが……
「あれは暴れ大岩グマです!」
なんか一体、小屋ほどもある大きさの魔物がいるな。
あの大きさだと、坑道の入り口は通り抜けられなさそうだが。
地面が崩れたりとかで、どこかに新しい出入り口でもできていたのか。
その穴も、今では埋まっているだろうけれど……
体全体が岩で覆われていて、その岩がところどころ光っているようにも見える。
ゴーグ兵士長によると『暴れ大岩グマ』という名の魔物だとか。
どんな魔物なのか詳しく聞きたくはあるが、それより優先すべきことがある。
俺は弓を構えていた獣人に声を上げる。
「矢を放ってくれ!」
その言葉とともに、いっせいに矢が放たれた。
普通の矢も混じっているが、半分以上は刺さったところに小さなカミナリを落とす矢だ。
「おおっ、ほとんどの魔物が倒れましたな」
ゴーグ兵士長は、そう言うものの、倒したのはゴブリンや鹿の魔物など。
暴れ大岩グマや、でっかいトカゲの魔物は生きて……、――あっ、いや、トカゲの魔物たちも死んだ。
暴れ大岩グマが手をブンブンと振り回し、近くにいたトカゲどもを攻撃。頭がつぶれたり、体が両断されたりしている。
近くに、見知らぬ魔物がいるのがいやだったんだろう。
これで残りは、あの暴れ大岩グマだけ。
「こいつは、どうだ!」
『弓兵』のヨシュア君が「パワー・ショット!」と叫んで放った矢だが、これもあまり効いていない様子。
普通の岩なら、つらぬけるぐらいの力があるんだが。
「……あの暴れ大岩グマ、体表の岩が光っていますな」
ルマールさんの言葉。
そのせいで、あの魔物の防御力が上がっているんだろうかと思っていると、ゴーグ兵士長が情報をくれる。
「あの鉱山で採れる、リュカ鉱石が混じっているのでしょう」
リュカ鉱石……。聞き覚えがある。
「……ジュナンが足りないって言っていた希少鉱石だな」
ここの鉱山で採れる鉱石だったらしい。
「ほほう。それはトーマ殿に必要な鉱石なのですかな?」
俺のつぶやきに反応したのはルマールさん。
「えっ……そうですけど」
俺が領主としてやってきた町、その町の保存庫という設備を直すために必要だ。
「そうなのですか!」
彼がうなずく。
「わかりました! では、逃がさぬよう、確実に仕留めてきましょう!」
えっ……
「ものどもーっ! あれは、トーマ殿が必要とする素材を持つ魔物らしい! あの魔物を絶対、逃がすなー!」
「「おおっ!」」と応える獣人たち。
「あっ、ちょ――」
「突撃だーっ!」
止める間もなく、獣人たちが暴れ大岩グマに走って行った。
霊薬を投げる一人の獣人。霊薬の入ったビンが割れた場所、半径数メートルを凍らせるものだ。
少し狙いがずれたようで、魔物の腰から下、後ろ足の部分だけが凍る。
動きが止まった魔物に、獣人達は接近戦を挑もうとしているようだが、大トカゲを一瞬で殺した敵だ。
「気をつけてください!」
警告したそばから、近づいた獣人の一人が吹き飛ばされた。
だが、防御力を上げる『戦の角笛』のおかげで、あまり効いていない様子。
良かった……多分、大丈夫だとは思っていたが、ちょっと心配だったから。
「おおおおっ!」
獣人達が、岩の隙間を狙い槍を突き出すが、まったく刺さらない。
『戦の角笛』で、攻撃力も上がっているはずなのに……
矢などの遠距離攻撃では勝てないと判断して、ルマールさんは接近戦を選んだのだろうが、こっちでもダメそうか。
「カミナリの矢も効果的ってほどじゃなかったしな……」
あの矢は、数に限りもある。
毒の槍なども刺さるかわからない。
ここら辺の魔物に詳しそうな、ゴーグ兵士長に聞いたほうが良さそうだ。
「ゴーグ兵士長! 何か、あいつの弱点を知っていますか?」
「たしか、水に落とせば浮かないとか!」
……それは、日照りで水不足の今、難しそう。
「他の弱点は、ほとんどなく、関節の部分もうまく岩で覆われているそうです! 魔法もあまり効かないそうなので、ハンマーやメイスなどで根気強く叩くしかないかと!」
ハンマーやメイスは、全身を鎧でおおわれた騎士とかを倒す方法でもある。
下半身を凍らせた霊薬の効果も、もうなくなっているから、魔法に強いのも本当の様子。
「わかりました」
彼に、うなずく。
ハンマーやメイスも、『倉庫』に予備として持っていた。
さっそく前線に行き、それらの武器を皆に配っていったのだが、結局、かなりの長期戦になってしまった。
ゆいいつ、ルマールさんの攻撃だけが、まあまあ効いていた感じだった。
『パワー・スラッシュ』と叫びながら、ハンマーを大降りで叩きつけているだけなのだが、それだけで、でっかい熊の魔物がニ、三メートル吹き飛んでいた。
『弓兵』のヨシュアくんが使う『パワー・ショット』と同じく、いつの間にか使えるようになっていた技のよう。
『兵士』という職業を五十ポイントで得ていたから、そいつの能力だな。
ただ、その技も、獣人ゆえの魔力不足により、あまり多用することができず、また、その技でも、暴れ大岩グマの体表を砕くことができない。
そのため、えんえんと戦うハメになった。
途中、兵士たちも参加してくれたから、倒せたのは、そのおかげもあるだろうか。
最後は、体表にできていたヒビを見つけ、毒槍をつきこんで倒したが……
領主は、けっこう強い毒も使えるので、いつものイェタの薬草園から採ったイール草の濃縮毒をとどめに使えたんだ。
ちなみに、この戦闘で、兵士たちの中での獣人たちの評判も上がったらしい。
誰よりも早く、魔物との戦闘を開始していた彼らを評価している様子。
ついでに俺の評判も上がっていたが……、こっちはジュナンに作ってもらったカミナリの矢や、イェタからもらった『戦の角笛』の能力などが評価されているのかな。彼女たちには感謝しないと。
ちなみに、坑道の中にあったらしい道具類なども、魔物たちの背後に転送されてきていたみたいだが、一番嬉しかったのは魔物の死骸が手に入ったこと――
暴れ大岩グマに、馬ほどもある大きさのトカゲの魔物、ゴブリン四十数体など。
城に帰って、死骸のポイント化をすれば、『魔導工房』の設置や、『倉庫』のレベルを二にしたりなど、やりたいこともできそうだ。
イェタは、兵器を設置したり、『石壁』を立派な『城壁』という施設に変えることを望んだりするだろうか。
ポイントは……、……足りるかな?
次話は9月17日前後に投稿される予定です。




