60. 施設『水源』
皆と城の外に出た。建物からできるだけ離れる。
「じゃあ、『城レベルアップ』するよー!」
イェタの言葉とともに、ピカリと光り輝いた城。
ゴゴゴゴ、と音を立てて建物が膨らんだ。
「おっきくなったーっ!」
小さいがりっぱな城から、キレイなりっぱな城にランクアップした。
「『城壁』とか『魔動速射型連弩』も作れるようになったよーっ!」
どちらも、この城レベルアップで作れるようになる新しい施設の名だ。
――前の『城』で試しに作ったことがあり、ある程度はわかる。
『魔動速射型連弩』は、今までの『魔動大型連弩』よりも矢は小さいが、代わりに矢の連射速度が高くなった兵器。大型連弩は、一秒に四発の矢を放つが、速射型連弩のほうは、一秒に十二発の矢を放つことができるとか。
「それも、『魔導工房』とか必要な施設を設置したら作ろうか」
彼女に伝える。
「ちなみに、作れるようになった新しい施設というのは、他にどんなのがあるんでしょう?」
ユイさんの質問に、イェタが答える。
「百ポイントで『倉庫』のレベルを二にできるようになったよ! あと『錬金室』が三百ポイントで設置できる! 『魔導工房』は五百ポイントで作れるって!」
どれも二倍のポイントがかかっている。
『魔導工房』は、『本城』では二百五十ポイントで作れた。
「あと、五百ポイントの消費で、今ある『城下町管理室』を『管理室』にバージョンアップできるよ!」
『管理室』は『重要』というマークがあった施設だそうだから、できるだけ作っておきたい。
「お城のお外に設置する施設もある!」
イェタが言う。
「五十ポイントで『水源』という施設が作れる! 百ポイントで『大浴場』という施設が作れるみたい! 『大浴場』は町の中にも作れるって!」
「お風呂ですか」
ユイさんが反応している。
「うん! 『大浴場』はお風呂だよ! 設置するときに、露天型か建物型を選べる! どちらか一つを作ることで、城内の大浴場もパワーアップする! お湯が、傷や疲れを癒す不思議なお湯になるって!」
「すごい……。それに、露天型ですか。サク様の伝説にあった、露天風呂というものでしょうか。開放感があって、良さそうですね!」
……女性だと、建物型を選んだほうが良さそうだが。
『風呂屋』と看板がついた、大きな家ができるほうだ。
あっちなら、のぞかれる恐れがない。
「『大浴場』つくるー?」
「あっ、いや、できれば『水源』を」
あわててイェタに言う。
「……『水源』というのは、どういう施設なんでしょう?」
ユイさんの、俺への問いかけ。それに答えたのはイェタだ。
「城外に流れ出していく、永遠に尽きない水の源! 癒しの空間を演出するって書いてあるよ! 特殊な効果とかは特に無いって!」
「……! もしかして、小川みたいなのを作れるんですか? 日照りが続いている、この土地に!」
「ええ。川も干上がっているらしいですし、今の状況には最適な施設かと」
ユイさんに説明をする。
こいつを使えば、簡単に、農地などに水を供給できるはずだ。
水が延々と出続ける『蛇口』という魔道具もあるが、あれよりも水量が圧倒的だった。
「正直、『水源』が、ちゃんと作れたようでホッとしました」
『地下鉱石採取所』と『樹木園』は、本城と違って設置できなかった。
もしかしたら、こいつも設置できないんじゃないかと心配していたのだ。
「『水源』のほう、つくるのー?」
「作りましょう!」
ユイさんも、設置に積極的な様子だ。
「じゃあ、あのあたりに頼むよ」
「わかったー! えい!」
広場の一角が光る。
そこに直径五メートルほどの泉のようなものができた。
周囲には草や数本の木が生えている。涼しげだ。
「あれは……川ですか?」
ユイさんのつぶやきの通り、泉からは、『城』の外に向かって流れ出る小川のようなものができていた。
石壁の下をくぐって、外にまでつながっているようだ。
「なんか、城の中の小川の上には、橋を一万個まで設置できるんだって! 小川が邪魔だったら、地下を流して、城の外に水を排出することもできるって書いてあるよ!」
……橋の数は、一万個もいらないと思うけど。むしろ、そんなに橋を設置できるスペースがない。
石壁の外を流れている小川には、橋は設置できないようだし……
「どうやら、石壁の下を小川がくぐっているみたいですね。あの小川の中を通って、人間が侵入できそうですけど大丈夫なんでしょうか?」
ユイさんの心配に答えたのはイェタだ。
「魔法金属の柵と網が何枚かあるから大丈夫だよ! 見えないバリアも張ってある!」
「あの水は、町の近くを流れる川に流れ込んでいるのかな?」
俺の質問にうなずくイェタ。
「うん! なんか三本ぐらい川があるみたいだけど、一番近くの町につながる川にまで小川……水路が通じてるんだって! 他の二本にも水を供給できるみたいだけど……」
「三本のうちの一本は、農地につながる川ですね。地図を渡しますので、その川に水が流れ込んでいるか、確認していただけますか?」
ユイさんの言葉に「うん!」とイェタがうなずいた。
全部の川に『水源』からの水をつなげても良いんだが、あんまり分岐しすぎると、水が少なくなってしまうだろうか。
そんなことを考えていると、遠くから男性の驚く声が聞こえてきた。
「ややっ、これは!?」
ゴーグ兵士長だな。
周囲には兵士たちがいて、数台の荷車を引いている。
「一晩で壁のようなものができて……、そして、城がずいぶんと大きくなっています」
ゴーグ兵士長の横の兵士が言う。
「どこからか水の音と香りが……」
「おいっ、あれ川じゃないか!?」
「川だ!」「なんで、ここに!?」
日照りが続いて大地が乾ききっている今、少し太い小川ぐらいとはいえ、水が流れていることに驚いている様子。
すでに石壁の内側まで来ていた彼らの元へ、俺は歩み寄った。
「秘術使い様だ」
「城も川も、秘術使い様の力で作られたのか……!」
次々に、兵士たちがひざまずく。
イェタの能力なのだが、言うつもりはないから……
「その荷車は?」
ゴーグ兵士長へと問いかける。
「昨日倒しました、町の中へと侵入していたゴブリン。それと、朝、町の周辺にいたゴブリンたちです。ユイ殿から死骸が必要なような話を聞いておりましたので、持ってまいりました!」
昨日、カルアスにたどり着いたとき、町を襲っていた百体あまりのゴブリンたち。
その中で町の中へと侵入していたヤツらがいた。その死骸などを持ってきてくれたみたいだ。
「わーいっ! あれ『倉庫』にしまって良い?」
けっこう状態の悪い死骸もあるが、イェタは気にしていない様子。
彼女に聞かれた俺は、ユイさんを見る。
「……秘術使いのお弟子さまですからね。かまいませんよ」
「やったー!」
許可をもらったイェタが、たたたーっと死骸に駆け寄り、ポンポンッと触って『倉庫』に入れていく。
「弟子のイェタが、死骸を『倉庫』にしまったよー!」
胸を張りながらの、そんなアピール。
「おおっ!」「スゴい!」
「ちっちゃいのに……」
「イェタちゃん、かわいいなー」
兵士たちの、癒しになったようだ。




