59. 条件達成
『城下町管理室』を設置し終わった。
そしてジュナンのための『調合室』や『鍛冶工房』などを作ったところ、向こうからヨシュア君やルマールさんなどの獣人たちがやってくるのが見えた。
「ううっ、トーマさーん。疲れましたー」
重そうな足取りで城の通路を歩いている、ヨシュア君。
「我ら獣人は、どうも、あの魔力の登録というのが苦手ですな……」
となりのルマールさんも、珍しく疲れた様子だ。
「お疲れ様です」
彼らをねぎらう。
領民としての書類記入や、魔力紋を登録する作業などが終わったのだろう。
これで彼らは、ここの領地の正式な領民となった。
「トーマさんは、何してるんですか?」
「施設の設置ですね」
ヨシュア君に答える。
「ポイントは足りますかな?」
ルマールさんに首を振る。
「ギリギリ、といったところです」
もしかしたら足りないかもしれない。
施設の設置に、ポイントが二倍かかるのが予定外だった。
あれさえなければ余裕だったのだが。
「……城には仮眠室などありますし、『宿舎』と『兵舎』は当分の間は、いらないかもしれませんな」
ルマールさんは、そう言うが、彼らは戦闘員でもある。町の人々などを守る役目だ。
いざというときのため、ちゃんとした、ゆっくりと眠れる場所を用意したい。
「『宿舎』と『兵舎』は片方作るつもりです。……ちなみに、作るとしたらどちらが良いですかね?」
「『宿舎』のほうでも良いんですけど、『兵舎』には戦闘訓練用の道具なんかがそろっているんですよねー」
俺の質問に答えるヨシュア君。
最初会ったときは戦闘を怖がっていたが、いつの間にかそれを克服した様子。
「魔物との戦闘で皆も自信をつけたようですし、『兵舎』があると良いかもしれませんな」
「向こうの『城』でも『兵舎』使ってましたしねー」
ルマールさんとヨシュア君の意見が一致したようだ。
「それでは、『兵舎』を作りましょうか」
他の獣人たちも、うなずいている。異論はないようだ。
「『調理場』もお願いするぜ! 腹減ったらなんか作って食うから」
ジュナンの要求。
ポイントは多分、足りるか……。仮にポイントが足りなくなっても、魔物を狩れば良いだけだしな。
「わかった、『調理場』も作ろう」
と、うなずいた。
『調理場』を作ると調味料なんかをもらえるし、この施設にも『蛇口』という水を供給できる魔道具がある。
さらに『調理場』のレベルというのを二にすれば、『おこめ』という名の食材などを定期的に獲得できるようになった。
町の住民の食料として供給できるから、レベル二の『調理場』はどうしても欲しかった。
俺は、皆を見る。
「では、今作れる施設を設置して行きましょう。『調理場』と、そのレベルアップ。『倉庫』に『兵舎』に『石壁』、それと――」
イェタが、すごくキラキラした目で俺を見ている。
「魔物対策に、『魔動投石機』や『魔動大型連弩』も作っておこうか」
大きな魔物もいるから、そういうのが町を襲ったら、こういう兵器に頼ることになる。
『城』には魔物よけの結界はあるが、町には、そういうのはないようだから。
「やったー!」
嬉しがるイェタ。
この『支城』から『城下町』への兵器の移動も、イェタがいればできるそうだ。
一つ作っておけば、それなりに便利なはずだった。
「施設、作るよー!」
ててててー、と走っていくイェタに続き、それらの施設を作っていった。
今日は『城下町管理室』やジュナンの作業に必要な『調合室』『鍛冶工房』『石工工房』も作っている。
それらを合計すると七百ポイントの消費で……
「残りのポイントは、千六百六十ポイントだよー!」
余裕はありそうに思えるのだが、『布革工房』や『木工工房』『薬草園』も作っていない。
『城レベルアップ』もポイントを消費し、その後、設置できるようになる『管理室』や、ジュナンが欲しがっている『魔導工房』もけっこうポイントを使った。
「必要な施設を作っていくと、ちょっとポイントが危ないんだよなー……」
『謁見室』や『宝物庫』など、当面は作らない予定の施設もあるのだけれど。
「……我々が、明日、魔物を狩りに行きますから大丈夫でしょう」
「兵たちにも行かせましょう。もともと、その約束をトーマ様としていたはずです」
ルマールさんやユイさんの言葉。
「すみません」
と、彼らにお願いをした。
そして翌朝――
「なんか、『城レベルアップ』無理そう! ポイントは、じゅうぶんあるから、達成していない条件がある感じだよ!」
調理場で食事を取っていると、そんなことをイェタに言われた。
前の城でも、ポイントはいっぱいあったのに、何故か『城レベルアップ』できなかったからな……
「……前のときは、『布革工房』か何かを作ったら大丈夫になったんだっけ?」
「うん! 『石工工房』作って、最後に『布革工房』を作ったら『城レベルアップ』ができるようになったよ!」
そうかー。
「じゃあ、これを食べたら、まだ作っていない工房……『布革工房』と『木工工房』を作ってみようか」
それでもダメなら『薬草園』の設置とかだな。
薬草は、本城で収穫したものを、向こうのブラウニーたちなどが『倉庫』に入れてくれているため、後回しにしていた。
「工房の設置だね! わかった!」
うなずいた彼女と食事を終えると、ジュナンの工房などがまとまっている城の一角へと向かった。
「作るよー! えいっ!」
二つの部屋がピカッと光る。残り二つの工房ができた。
「なんか、『城レベルアップ』できるようになったー!」
おおっ。
工房系の施設をすべて設置すると『城レベルアップ』ができるようになるとか、そんな条件だったのだろうか。
「百二十ポイントの二倍、二百四十ポイントで、今の城レベル『一』を『二』にできるよーっ!」
城レベルアップでも、やはり二倍のポイントがかかるらしい。
今の小さな城のレベルが『一』ってことは、俺が最初にイェタと会ったときの、廃墟っぽい城のレベルは『ゼロ』ってことになるのだろうか。
「『城レベルアップ』するー?」
「……それやると、城の外観や部屋の配置とかが変わったよね? 城の中に人がいても大丈夫なのかな?」
「だいじょうぶだよーっ! みんな、驚くかもしれないけど!」
そうだろうな。
「ビックリさせたくないし、『城レベルアップ』することを、みんなに伝えに行こうか」
「わかったーっ!」
中に人がいても大丈夫だということだが、事前に伝えることにしたんだ。




