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05. 二人の初めての夜

 不思議な倉庫を作り終えた、俺達。

 ゴブリン三体分の魔石もあったのだが、イェタによると魔石だけではポイントにはできないとのこと。残念だ。


 今は夕暮れで、魔物狩りなんかは、もうできない。

 俺は城の入り口付近に移動し、夕食を作ることにした。

 火打石を使い焚き火を作る。そして野外での料理を始めた。


「トーマー、トーマー! 薬草園からサラダになる草採ってきた! 甘い草もあるよ!」


 スープを作っていると、イェタがやってきた。両手に草を抱えている。

 薬草が、ここでは野菜代わりになるのか。

 あの薬草園の草だと、すんごく高価な薬草が混ざってそうだ。


「……とりあえず、そこに井戸水を汲んであるから、ざっと洗っといてくれるかな?」


 そう言いながら、俺は調味料を取り出す。

 お酢と油と塩で簡易的なサラダ用ドレッシングを作るのだ。

 イェタも食べるみたいだから……、子供向けに、お酢は少な目が良いかな?


「トーマー! 洗ったよ! 甘い草と他の草も分けた!」


 小さな草の山を指し、次に大きな草の山を指す彼女。


「……甘い草って、こっちの小さな草の山のことかな?」


「うん!」


 力強くうなずくイェタ。


「甘くておいしいから、この草、がんばって増やしてるんだよ! 大好きな草だけど、トーマにもあげるね! 男の人が元気になる草だって! 食べて!」


 ……食べてって言われたが、この甘い草、カーマ草なんだけど。

 滋養強壮に良い、下半身にまで効く()()()である。


「……あれ、もしかしてトーマ、これ嫌いだった? わたし、親愛のあかしのつもりだったんだけど……、きらい?」


 微妙な気分でカーマ草を見ていたら、いつの間にかイェタが涙目になっている。

 し、親愛の証とかいわれると断りにくいぞ……


「……い、いや、嫌いじゃないよ。ありがとう。とりあえず火であぶろうか」


 ま、まあ、ちょっとぐらいなら大丈夫だろう。


 結局、いらないと伝えることができず、火であぶるとさらに甘くなると彼女が言っていた甘い草に、軽く火を通したのだ。


 こうして野外料理を終えた俺は、それらを適当に木の皿に盛り付ける。


・城の近くに自生していた山菜と、町から持ち込んだ乾燥肉を使ったスープ。

・塩の味がする草が混じっていたため、お酢と塩を少なめにして作った簡易ドレッシングをかけた薬草のサラダ。

・長期保存用の黒パン。

・火であぶっただけの、下半身も元気になるカーマ草。


 ……最後のひとつは、ちょっと不安だが。


「いっただっきまーす!」


 イェタの楽しそうな声を聞きながら、俺も料理に口をつける。


「わー、おいしーっ!」


 スープを飲んだ彼女の感想。

 火をおこせないって話だから、調理された物はあまり食べなれていないのだろう。


「おおおおっ、いつもの薬草が、いつもの薬草じゃないっ!?」


 イェタは、ドレッシングがかかっただけの薬草サラダも気に入ってくれたようだ。

 ちなみに、このサラダ、呑み込んだ途端、胃の中がカッと熱くなって体中に力がみなぎったりする。

 絶対、すごい薬草が混じっていた。


「甘い草も、いつもより甘いーっ! トーマも食べてみて! おいしーよーっ!」


「う、うん……」


 おそるおそる火を通したカーマ草を口に運ぶ。


 ……たしかに果物のような自然な甘みが草から感じられ、おいしくはあった。

 体の一部が元気になる効能さえなければ完璧なのだが……


「食べたーっ! おいしかったーっ! 寝よう!」


「……これ片付けて、体拭いて、歯を磨いたらね」


 木の皿を、城の中で汲んでいた井戸水で洗う。

 今は夕焼けが見える時間帯。イェタに手伝わせ、俺はサクサクと寝る準備を済ませていった。


「寝室はこっちだよー!」


 日も暮れ、俺の持つランプの明かりが、城の中を照らしている。


「ここは……、昼間に入った部屋だね」


「うん! トーマに絵本を読んでもらったお部屋だよ!」


 コクリとうなずく彼女。


「ここ以外は、窓のガラスがなかったり壁が一部壊れたりしていて、あんまり良くないよ! だからトーマもわたしも、ここで寝るの!」


 ベッドに上った彼女が、こいこい、と手招きをしている。


 ……まあ、彼女は小さいし、間違いは起こりようが無い。


 俺が一緒のベッドに入ると、彼女がピタリとくっついてきた。

 ……体温を感じられて、ちょうどいい。

 城には簡易的な魔物よけの結界があるそうで、安全らしいし……、これはすぐ眠れそうだな!


 そんなことを最初は考えていたんだが……


(……眠れない)


 夕食のカーマ草のせいだろう。もんもんとするのだ。

 何が()()()()とするかは言えないが、とにかく()()()()とする。


「ねー、トーマ、起きてるー?」


 ぶつけどころがない熱い何かに困っていたら、イェタが話しかけてきた。


「……どうしたの?」


「おはなししよー?」


「うん……何か、聞きたいことがあるのかな?」


「……え? ん……うーん、何か……、うーん……」


 特になく、単に会話をしたかっただけらしい。


 眠れないしちょうどいいから、イェタのここでの生活でも聞こうかな、と思っていたら、その前に彼女が何かを思いついたようだ。


「そうだ! あのトーマが薬草を持っていってあげた依頼人さん、どーなったの?」


 依頼人……というと、自分の病気の子のため、俺に薬草採取の依頼をした人のことか。

 その採取の途中で死にかけ、俺はイェタに命を助けられた。


「薬草は渡したけど、まだ、どうなったかはわからないかな」


 少し多めに渡したから、多分、薬が足りないってことは無いと思うが。


「……でも、彼、すごく喜んでいたよ。これで子供が助かるかもしれないって。今年は薬草があまり採れないみたいで、薬もなかなか手に入らなかったみたいだからね」


「……薬草、お外にあまりないの? ……でも、ここにいっぱいあるよ?」


「うん……そうなんだけど……」


「ここの薬草は、少し残しておけばいくらでも生えるよ。わたしにとって一番大事なのは城の主だけど、町の人も助けられるなら助けたい」


 そして彼女は不安そうに聞く。


「トーマも、そう思うでしょ……?」


「思うことは思うけど……」


 変な人間に目をつけられるとやっかいなんだよな。

 だましてでも儲けを得たいというやつもいる。

 薬草が大量に生えている『群生地』と呼ばれる場所の情報をめぐり、殺し合いになったという話も聞いていた。

 ここには薬草が大量に生えているから、同じことになるだろう。


 本当は、信頼できる人間にしぼって、こっそりと薬草を売れれば良いんだけどな。

 残念ながら、あの町の人間についてあまり詳しくないのだ。

 入っていたパーティーが解散し、あの町に拠点を移したばかりだったから……


「……とりあえず、薬草図鑑なんかで調べて、重要そうな薬草だけ売りにいこうか? そうすれば、みんな助かるよ」


 流行り病やケガ、毒、他に腰痛や心臓病などの持病に効く薬草など、日常的に必要そうな薬草だ。

 多分、冒険者ギルドなら、ある程度の配慮をしてくれるはず……


 一度、この城で暮らすのに必要なものも買いに行きたいと思っていたから、町へ行くのはちょうどよかった。

 倉庫の能力がある今なら、かなりの量を持ち運べる。


 明日は、町に向かい、途中途中で魔物を狩る。

 食料とかを購入し、城に戻る。


 急げば、一日で往復できるだろう。

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