58. 城下町指定
部屋に入ってきた俺達に気がついたジュナンが、紙の束から顔を上げる。
「おっ、なんだトーマさん。なんか、うまいもんでも持ってきてくれたのか?」
町でおこなった炊き出しのときに、交代で食事をしたばかりなのだが……
「『倉庫』に入っているのは、クッキーや果物ぐらいかな」
クッキーを、ジュナンに渡した。
「ひゃっはー! クッキーだぜーッ!」
バリボリと、クッキーをむさぼる彼女。
うまそうに食うな、と思いながらイェタやウニ、ユイさんにも渡した。
「それで、そろそろ、ジュナンが使う工房なんかを作ろうと思うんだけど」
「おう! それは、ありがたいな! もうそろそろ、ユイちゃんからもらった資料を読み終わりそうだったんだ!」
ジュナンが直そうとしている、『秘術使い』という女性が作った、町の保存庫についての資料のことだろう。
もうすぐ読み終わるらしい。
「作る施設は――」
「まずは『調合室』だな!」
ジュナンが即答する。
調合室は、薬や霊薬を作成できる施設だ。
「あとは使わないかもしれないけど、『鍛冶工房』と『石工工房』が欲しい! 『魔導工房』もあると良いな!」
魔導工房は『魔道具』などを作るための施設だ。なんかよくわからない器具がいっぱい置いてある。城レベルアップで新しく設置できるようになった。
『錬金室』という施設もあるのだが、そちらはいらないらしい。
「じゃあ、『調合室』から設置していこうか」
なんだかんだで、ジュナンと工房の組み合わせは、けっこう最強だ。全部作ることになるかもしれないけれど。
「イェタ、お願いするよ」
「わかったー! この部屋に作るよーっ!」
イェタが元気よく返事したのだが、その後「んー?」と言って首をかしげてしまう。
「……どうしたんだ?」
「なんか『本城』からの距離があるから、施設の設置や城レベルアップ等に二倍のポイントがかかるんだって! 調合室だと百ポイントいる!」
あー。五十ポイントで設置できた調合室だったが、ここだと設置に百ポイントかかるのか。
これは予定外だった。計算が大幅に狂う。
「この城を、どうにかして『本城』にするとかはできないのかな?」
「今のところできないみたい!」
そうか……
「あと、前の城で設置できた『地下鉱石採取所』と『樹木園』の文字が灰色になって設置できなくなってるよ!」
えっ。
「なんでだ!?」
イェタの情報にジュナンも反応している。
武器を作るための鉱石とか木材を採るために、よく使っていたからな。
薬になる鉱石や木、おいしい果物とかもあったのだが……
「『付近に森林資源や鉱物資源が少なすぎると、これらの施設が設置できない』って出てるよ!」
……ここは荒野だから、森や林はない。なので、森林資源は無さそうだ。
まあ、『地下鉱石採取所』の鉱石も、『樹木園』から採取できる資源も、ダークエルフのとこの『城』から供給されている。
エルナーザさんの従魔が、今もそれらを採取し、『倉庫』にせっせと入れてくれているはずだ。
それらの鉱石などを、こちらでも取り出せるから、問題はないはずだが……
ただ、『城の住人』にしたのはブラウニーなど小さめの従魔が中心だった。ジュナンや獣人たちが採取するよりも、その採取スピードは遅くなってしまう。
「……木が少ないってのは、荒野を見てきたからわかるんだけど。さっきまで見ていた資料に鉱物資源についての記述があったんだけどなー」
納得できない、という様子のジュナン。
「今から二年ほど前に、鉱山は廃鉱になってしまっていますから……そのときに、掘りつくしてしまったのかもしれませんね」
ユイさんがジュナンに伝えた。
鉱物が取れなくなってしまって、お金を稼げなくなってしまっているとか、ここに来る前に聞いていた。
その言葉を聞いて、ガックリするジュナン。ユイさんは、気まずくなったのか解決策を提案しようとイェタに聞くが。
「……ダークエルフの森にある『施設』というのを、ここに移動するというのは無理なんでしょうか?」
ユイさんの問いに、うなずくイェタ。
「他の城から、別の城への施設の移動は無理みたい! ちなみに一度作った施設は撤去できるけど、それをしてもポイントが増えたりはしないよ!」
その回答を聞いて、さらにガックリしたジュナン。「私のオリハルコンが……」とかつぶやいていたぞ。
作れない施設があるのは痛い。俺も設置したい施設があったのだが。
そこに、イェタの明るい声が響く。
「あっ、でも、ここだと『城下町管理室』っていうのが設置できるみたいよ!」
へー。
「……それは、どんな施設なのかな?」
「次の城レベルで作れる『管理室』の機能限定版だって! 設置に五十ポイントの二倍、百ポイントかかる!」
もともとは五十ポイントみたいだが、ここだと本城から離れているため、百ポイント必要らしい。
『管理室』も、前の城で作って試していた。
「管理室は、『支配下にある外部の施設などがありません』って出て、何もできなかった施設のことだよね?」
「うん! それ! 『重要』ってマークもついていた! 『城下町管理室』は、近くに支配下に置いた村なんかがあると、城下村とかに指定できるみたいよ!」
『城下町管理室』だけど、村も管理できるとか。
「次の城レベルで、『城下町管理室』を『管理室』にバージョンアップできるってある! 差分の二百五十ポイント、ここだと五百ポイントを使えば良いって!」
『管理室』は本城では三百ポイントの施設だった。
『城下町管理室』を作ってから『管理室』にするのも、いきなり『管理室』を作るのもポイントの消費は変わらないとか。
「『城下町』の指定は『城レベルアップ』をしてからでも良さそうだけど……」
「今日は、城レベルアップできないみたい!」
そうなの?
「『城』を作った日や、城レベルアップをした日は、次の城レベルアップができないって書いてある!」
ということは、『魔導工房』も作れないのか。
あれも、もう一つ城レベルアップをしないと作れない施設だ。
そんなことを考えていたら、ジュナンが俺の体をユサユサとゆすってきた。
「なーなー、トーマさん! とりあえず、その『城下町管理室』っての作ってみようぜ!」
『城下町管理室』に興味津々って顔。
『地下鉱石採取所』が作れないことへのショックからは立ち直ったようだ。
彼女が向こうの城でよく使っていた『鍛冶工房』なども作る予定だったんだが、後回しでも良さそうか。
「じゃあ、カルアスの町を『城下町』にしてみるか」
イェタに頼む。
「施設の設置をお願いできるかな?」
「うん! この部屋に作るよー!」
彼女が手を挙げると、ピカッと周囲が光る。
「できたー!」
元気な声をあげる、イェタ。
「なんか、『城下町』の指定にもポイントが必要みたいだけど、『城下町管理室』の場合は一つだけ『城下町』をタダで指定できるってあった! カルアスの町を『城下町』しといたよ!」
『城下町』の指定にポイントを払わなくて良いぶん、こちらのほうがおトクだったらしい。
「……書類みたいなのが置いてある棚とかがあるな」
「町のほうに置いてある『戸籍』のコピーとかが、そこに置いてあるって!」
部屋にどこからか現れた棚。その中の紙をあさっているジュナンに、そう言うイェタ。
「……町の地図もありますね」
ユイさんの言うとおり、地図もあった。
ザックリと町全体を俯瞰できるようなものから、かなり詳細なものまで豊富な種類がある。
「あと『城下町』のほうに兵器や一部の施設を設置できたり、バリアを張ったりできるようになったよー!」
おおっ。
「設置できる兵器や施設っていうのは……」
「兵器は、『魔動投石機』や『魔動大型連弩』なんか! この『支城』にある余っている兵器を、向こうに移したり、その逆もできるって!」
なるほど。まだ、そこらへんの兵器は一個も作っていないから関係ないが。
「設置できる施設は、『宿舎』や『兵舎』だよ! これらは『城下町』にも、ここにも複数設置できるって!」
「ああ。そこらへんの施設は、町にいくつかあると良いかもな」
あの建物にも、水が無限に出る『蛇口』という魔道具がある。
水不足の町では、とても役に立ってくれそうだ。
「あと、城に『石壁』を作れば、新しい能力も開放されるって! 戦闘のときとか、『城下町』をバリアで包めるようになるんだって!」
洞窟竜の突撃を止めたバリアか。
あれと同じ強度かはわからないが強そうだ。
「他にも『繁栄値』っていうのも見れるようになったよーっ! 町の住民の忠誠や幸福度、町の繁栄具合とかで数字が上がったり下がったりするの!」
「……それは、数値が増えると新しい施設が設置できるようになったりするんでしょうか?」
ユイさんに、元気よく回答する彼女。
「わかんない!」
わかんないのか……
「でも、数字あがってくの見るの楽しい!」
……まあ、仮に何もなかったとしても、イェタが楽しいなら、それで良いんじゃないかなって思った。
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
この作品について、削除(やダイジェスト)をしなくて良い会社からの書籍化が決まりました。
書籍版では、Web版の49話から先の部分なども含めまして、調整・修正等をおこなっていく予定です。
もし、ご興味を持ってくださった方がいらっしゃいましたら、Web版ともどもよろしくお願いいたしますね!




