57. 一瞬
町の住民たちは兵士たちに護衛させ、家へ帰した。
新しく作った城の一室で、イェタと従魔のウニがボードゲーム……リバーシをしている。
一進一退の激闘を繰り広げているようだな。
その横で、俺はユイさんから資料を渡されていた。
「イェタ様から聞いてまとめました、『城の住人』になれた兵士と、なれなかった兵士のリストです。お受け取りください」
「ありがとうございます」
お礼を言ってリストを受け取る。
兵士達には『城』のすぐ外で、新領主……俺への忠誠を誓ってもらった。
それだけで、過半数が『城の住人』になれたようだ。
「どうやら、ゴブリンとの戦いを見て忠誠心を持ってくださった方。そういう方は、ほとんどが『城の住人』になれているようです。イェタ様によると、そういう方は住人登録も楽だったとか」
なるほど。
町がゴブリンの集団に襲われていたのを救ったから、それで忠誠心を持ってくれた人がいるようだ。
「でも、兵士の三分の一ぐらいは、城の住人になれていないんですね。ダークエルフたちよりは、ずいぶんと良い感じですが」
彼らの場合、城の住人になれないものがほとんどだったから。
ダークエルフのエルナーザさんは『城の住人になってみようか』という意思が薄いと、『住人』になれないんじゃないかと予想していた。
その他の条件もあるのかもとも思っているが、イェタに聞いてもルールがわかんないんだよな。
一応、城の住人にしやすい人物っていうのはいるみたいなんだが。獣人なんかは、気がついたら『城の住人』になっていたとか言っていた。
エルナーザさんやユイさんも割りと楽に住人になれていて、兵士たちでも、俺たちに忠誠心を持ってくれている人は『住人』にするのが楽だったとか。
「……どんな人が、城の住人になれていないんですかね」
そんな俺の質問にユイさんが答える。
「どうも、新しい領主に対して、まだ懐疑的な者。我々に熱狂していても、素行不良で注意していた者なども『城の住人』になれていないようです」
へー。
素行不良……乱暴な人とかがダメだったのかな。
「城にとって害になりそうな人物も、城の住人になれなかったりするんですかね」
なんとなくの思いつきだったが、彼女が考え込んでいる。
「……『城の住人』になれなかった者については、ちょっと詳しく調べてみます。調べるにしても、けっこうな人数がいるので大変かもしれませんが」
そうだろうなー。
「ただ『城の住人』になれていなくとも、兵士たちは『城』ではなく町のほうで活動していただきますから、あまり気にすることはないはずです」
城の内部には、立ち入らないということか。
「『城』に、兵士たちの住居は移さないんですね」
「はい。ここの兵士たちは、町の青年団とも協力して、治安を守っています。他にも役目がありますので、こちらに引き抜いてしまうと、町の運営に問題が出ますので」
衛兵を兼ねていたりするようだ。
問題が出るなら、町のほうに残したままにしたほうが良さそうか。
『城の住人』なのに城に住んでいないと言うのも不思議な気はするけれど。
「文官の方で信頼できる方がいるので、その方々はこちらに移動していただきます」
「わかりました」
と、答えた。
本当は職人さんとかにも、城で作業して欲しいとも思っていたんだが……
ただ、ジュナンもいるし、イェタが『城の住人』に与えられる職業に『鍛冶師』などもある。こちらは、あとまわしでもかまわなかった。
「あとは……人よけの結界は、切っていただいたのでしたよね?」
その質問に、うなずく。
「イェタに頼んで、動作を止めてもらっています」
そのため、人よけの結界のせいで、『城の住人』じゃない兵士達が『城』にたどり着けない……なんてこともないはずだ。
「ただ、城の住人になれた兵士には、『弓兵』などの職業を与えるかもしれないので、戦闘能力に差が出る可能性はありますが」
職業は、城の住人にしか与えられないから。
「かしこまりました」
俺の言葉に、彼女がうなずいた。
「あと伝えるべきこととして……イェタ様は、トーマ様の『弟子』として兵士たちに紹介しておりますので。トーマ様と同じ能力を使っていただいて、ある程度は問題ないです」
あー、それは楽で良い。
彼女がポイントを使い、俺が魔力を使って施設を作るとかはできるようだが、けっこう魔力を使った……
「『倉庫』の魔物も、ポイント化して良いのっ!?」
ずっと話を聞いていたのだろう、イェタの嬉しそうな声がひびいた。
……そういえば、カルアスの町に到着したときに倒した百体近いゴブリンは、まだ『倉庫』の中に入れたままだ。
「そうだね……。とりあえず、『倉庫』に入っている魔物をポイント化して、必要な施設も作ろうか」
その言葉に喜ぶ、イェタ。
「やったー! 投石機とかもいっぱい作るー!」
「きゅっ!」
うん……。あくまでも、必要な施設が優先だからね? 兵器も、何かあったとき用に欲しいから作るけど。
兵士たちは町に帰っているし、まだ、明るいうちにすませるか。
イェタ達を連れ、中庭へと移動した。
「出すよー!」
俺が百体あまりのゴブリンを『倉庫』に入れたときは、かなり時間がかかったのだが――
「えいっ!」
『倉庫』にあったゴブリンの死骸全部が空中からあらわれ、ドサドサー、と山積みになる。
「ポイント化するよー!」
はしっこの一体に触れると、百体あまりの死骸が、キラキラとした光の粒子のようになり消えた。
一瞬で終わったな……
あの出し方は、魔力が足りなくて俺にはできない。さすが城の精霊である。
「千十ポイントになったよー! 千六百五十ポイントあまってたから、今は合計で二千六百六十もポイントがあるー!」
「イェタ様は、この城を作るときにも、ポイントを使ったんですよね?」
「うん! 『本城』からここまでの距離だと千ポイント必要だった!」
イェタとユイさんの会話。
「『支城』を作るのにかかるポイントは、この国の中なら、最高でも二千ぐらいだとも書いてあったよ!」
新しく『支城』を作れるようになったとき、そんなメッセージをもらったのだとか。
ダークエルフの森近くだと五百ぐらいのポイントで作れたそうだから、それなりにポイントは使ったことになる。
ただ、残っているポイントは二千六百以上だ。
俺は、ユイさんに言う。
「まだポイントはありますから、ジュナンが使う施設などから、じゅんぐりに作っていきましょう」
ジュナンには、町の保存庫を直してもらう必要がある。
兵士などの食料を保存するための建物で、魔法で動いていたらしい。
「あとは生活に必要な施設や防衛用の施設なんかも……」
ここら辺を設置するときは、獣人たちにも意見を聞こうか。
彼らは、この領地の正式な住民となるための作業をしていた。
書類への書き込みや、魔力を紙に通したりする作業だ。
「今、ジュナンは……?」
「彼女は、いち早く魔力紋の登録を終えていましたね。獣人の方々は、とても苦労していたようですが」
獣人は、魔法関係は苦手だそうだから。
「町の保存庫についての資料を渡したあと、部屋からいなくなっていた記憶はあるのですけれど」
作業でワイワイ騒いでいる部屋から、落ち着ける場所へと移動したのだろう。
大声で呼べば出てくるかな、とか考えていると横から声が。
「きゅっ!」
「ウニちゃんが、ジュナンちゃんの場所わかるって!」
ブラウニーの従魔であるウニには、魔物や人の気配を感じ取る力がある。
「じゃあ、案内を頼むよ」
こうしてジュナンのいる場所へと向かったんだ。




