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56. 俺、城を生やす

 ゴーグ兵士長は炊き出しの準備などのために町の中に入っていった。


 そして町の外、ゴブリンの死骸をイェタにポイント化してもらおうかと考える俺に、ユイさんが話しかけてくる。


「トーマ様。イェタさまにも伝えたのですが、不思議な能力を使うとき、最初の数回だけでよろしいのですが、トーマ様が使うようにしていただけませんか?」


「……『秘術使い』としてのイメージを強くするため、とかですか?」


 うなずく彼女。


「ええ。何回かやっていただければ、あとはこちらでどうにかしますので」


 評判の操作をしてくれているという話だからな。


 じゃあ、イェタにしかできない、死骸の『ポイント化』は後回しか。


「わかりました」


 そう答えた俺は、ゴブリンの死骸に近づき『倉庫』にしまっていく。


 魔力を回復する霊薬を一本だけ消費したが、問題なく作業を終えることができた。


 そうして皆を連れ、カルアスの町へと入った俺たちは、住民への食料の炊き出しを行っていた。


「ならんでくださーい!」


 ヨシュアくんが、住民が持ってきた深めのおわんに、食事をよそう。


「みんな、よろこんでくれてるねーっ!」

「きゅっ!」


 それを見ているイェタや、ウニも嬉しそうだ。


 配っているのは調理場のレシピブックにあった『お(かゆ)』という料理。


 塩と『かつおだし』というもので味をつけたもの。水を大量に使う料理だが、水分補給にも良いと思って作った。


 町の住民たちは、見慣れない食べ物に最初はとまどっていたようだが、おなかが減っていたらしく問題なく食べてくれている。


 別の場所では、他の獣人たちが兵士たちにも同じものを配っている。彼らにも、喜ばれているようだ。


「トーマさーん! 食料用に使っていたっていう『保存庫』見てきたぜ!」


 他の場所に行っていたジュナンが帰ってきた。

 『保存庫』というのは、とある建物の名前だ。


 その中に置かれた、植物や動物の死骸などが、とても腐りにくくなるのだとか。

 『秘術使い』と呼ばれた女性が作ったもので、魔法の力で動いているらしい。


「お疲れさま」


 彼女に、ねぎらいの言葉をかける。


「話を聞きたいから、ちょっと移動しようか」


 町の住民たちに、会話が聞こえないところへと向かった。

 イェタやウニも一緒だ。


 すぐ近くにあった、この町の兵士たちが使っている建物。その一室に入る。


「その魔道具の様子は、どうだった?」


 水筒を『倉庫』から出し、ジュナンに渡しながら聞く。


「なんか、あそこで使われていた魔道具は、別に壊れていなさそうだったな」


 へー。


「ただ、魔道具に、周囲の魔力を吸い取って、それを使うような仕組みが一部で使われていたから……。もしかしたら、吸い取るべき、周囲の魔力が少なくなっていて問題が出ているのかも」


 彼女は言う。


「ここら辺は、もともとは魔力が多い土地だったらしいから、それを前提に作られた魔道具なのかもしれない」


 このあたりは『呪気』が発生する場所だそうだ。しかし、それを『魔力』に変換してくれる力が、この土地自体にあったのだとか。


 その『魔力』のおかげで、ここら辺の大地は肥沃になっていたということだ。


 今は荒野のようになってしまっているから、多分、『呪気』が発生しなくなったか、『呪気』を『魔力』に変換する土地の能力に、なにか異変が起きているのだろう。


「魔力が少ないせいで、『肥沃な大地』は『荒野』みたいになり、その『保存庫』も動かなくなったのか」


「うん」


 ジュナンが、うなずく。


「それで、ちょっとやってみたいことがいくつかあるんだけど、良いかな? 城の工房とか、あそこで作った道具類とかがあれば、直すつもりが壊しちゃうってこともないだろうし」


 ユイさんから事前に聞いていた情報によると、この辺境に、魔道具の職人とかはいないはず。


 対処ができるとしたら、ジュナンだけだ。


「ゴーグ兵士長とか、他の人にも話を聞いて問題なさそうだったらね。あとで俺から聞くよ」


「おおっ! ありがたい!」


 喜ぶ、ジュナン。


 彼女は、魔道具なんかにさわるのが大好きなようだな。


「お礼を言いたいのは、俺のほうだよ。……修理するのに、城の工房とかも必要なんだよね?」


 うなずく、彼女。


「工房で作った修理道具とか検査道具があるから、どうにかなるかもしれないけど、できれば欲しいな!」


 そうか。


「じゃあ、町の人や兵たちへの炊き出しが終わったら、新しい『城』を作ろうか」


 『城』を転移させたあと、あまったポイントで『城レベルアップ』をしていた。

 そのときに使えるようになった能力だ。


「やったー、『支城』ができるよっ!」

「きゅっ!」


 横で話を聞いていた、イェタが喜ぶ。

 何故かウニも一緒に喜んでいるが……


「じゃあ、兵士たちに、飯を配っているヤツらに伝えてくる!」


 ジュナンが、獣人たちの元へと走って行く。


「俺たちは、町の住民たちに炊き出しを行っている獣人たちに、知らせに行くか」

「うん!」


 イェタたちと一緒に外に出た。こっちの炊き出しは、ほぼ終わっていたようだな。


 ユイさんが指揮をとって、片づけをしていた。


「俺も手伝うか」


 重いものや汚れ物の処理をおこなう。


 イェタやウニは、ユイさんを手伝ったようだ。


 そして片付けも終えたころ、タイミングよく、ジュナンが戻ってきた。


「トーマさーん! あっちの炊き出しが終わってたんで、みんな連れてきたぜー!」


 兵士たちに、食事を配っていた獣人たちを連れてきてくれたみたいだ。


 でも彼女の後ろに、ぞろぞろと、この町の兵士たちがついてきているのだが……


「城を建造するための土地に行くとのことで、よくわかりませんが、手伝いに参りました!」


 ゴーグ兵士長の気持ちは嬉しいのだが、イェタの能力を使って城を作るだけだから、手伝いはいらない。


 どうしようかと困っているとユイさんから一言。


「よろしいのではないですか。『秘術使い』としての能力を見せてさし上げれば」


「トーマが『城』を作るところを、みんなに見せるよ!」

「きゅっ!」


 ユイさんのお手伝いをしていたイェタが、そんなことを言いながら、はしゃいだ様子で俺に抱きついた。


 二人で、なにかたくらんでいるのかな……?


 そう判断した俺は、体にしがみついてきたイェタを抱き上げ、うなずく。


「わかりました」


「それでは、町の外に初代スカルシア様……『秘術使い』の館が、建っていた場所があります。そこに移動しましょうか」


 その館は、今は町の中に移されているそうだ。


 イェタの城には『城壁』がある。広いスペースが欲しいので、『城』は町の外に作ることに決めていた。


 城が外にあると、町の運営は少し面倒になるが、『城壁』がないと、作れない施設もあるからな……


「では、案内をお願いします」


 その言葉に「はい」と答えたユイさんが、先導をする。


「町の住民もついてくるのか……」


 ジュナンが後ろを気にしている。


 兵士もたくさんいて、魔物などの気配を読み取ることができるウニもいる。

 ゴーグ兵士長が、兵をうまい位置に配置しているし、魔物が出ても安全だろう。


 ずいぶんと大人数での移動になってしまったが……


「ここです」


 ユイさんが指したのは、館があったとは思えない、見事に何もない土地だった。


 彼女が、俺の腕の中のイェタをちらりと見る。

 イェタがうなずき、目をつむった。


 しばらくし、パチリと目を開けた彼女が、俺にささやいた。


「ポイントを使ったから、あとは魔力を込めるだけで『城』ができるよ……」


 そんなことができたのか。

 最後の仕上げの部分、魔力を込めるところだけを俺がやるらしい。


「じゃあ、ちょっとやってみますから、下がっていてくださいね!」


 城を作るのに良さそうな場所に兵士さんとかがいたので、声をかける。


 さて、どうすれば良いのかな、と思いながら集中すると、なんとなくやり方がわかった。


 この土地全体に、うすく広く、魔力をしみこませれば良いのか。


 気合を込めて……


「うりゃっ!」


 ピカッと光る大地。


 ゴゴゴゴ、という音。


「おおっ!」という驚きの声が、住民や兵士さんから起きた。


「わーい! 『お城』が生えたーっ!」


 イェタが喜んでいる。


 地中から城がせり上がってきたのだが、土とかはついていないな。

 ピカピカのお城だ。


 イェタと最初に会ったときの廃墟のような感じではなく、石壁や投石機などを作ったときの、小さいが立派な感じのお城だった。


「一瞬で、こんな建物がッ! 信じられない!」


 ゴーグ兵士長にも喜んでいただけている様子。


 俺は魔力が足りてよかったと、ただ、そのことにホッとしていたんだ。

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