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54. 新領主の到着

 ベルフォード王子が帰った数日後、森を移動するための霊薬などが完成した。

 これで『城』の皆を連れ、安全に森を出られるはずだ。


 ここから新しい領地へと向かうのは俺とイェタ。

 ドワーフの少女ジュナンに、領地の補佐役の女性ユイさん。

 ルマールさんやヨシュア君など、獣人の全員、十名ちょっと。

 ブラウニーの従魔であるウニ。……要するに、城の全員だな。


 今まで使っていた『城』には誰もいなくなるので、管理をエルナーザさんに任せることにした。

 そのため彼女と、彼女の従魔のブラウニーなどを、『城の住人』に設定してある。


 ちょっと不思議だったのは、彼女以外の、他のダークエルフたちのほとんどが住人に設定できなかったこと。

 エルナーザさんは『城の住人になってみたい、という意志が薄いと『住人』に設定できないんじゃないか』と推測をしていたが。


 何体か、城の住人に設定できない従魔がいたので、そこから結論を導き出したんだろう。


「元気でな!」


 洞窟の外で、ダークエルフの男性に挨拶をされる。


「聖樹さまも、感謝と祝福の念を送っていますよ」


 ふんわりと微笑む巫女様。


 彼女は、エルナーザさんと同い年らしいが、清楚な方だった。


「それじゃあ、用意は良いかな?」


 他の見送りに来ていたダークエルフたちに挨拶をしたところで、エルナーザさんから声をかけられる。


 彼女は、森の外までの案内役だ。


「はい、出発しましょう」


 うなずいて、俺たちは出発した。


 前にエルナーザさんと移動したときは、大きなトカゲに乗ったが、今回は歩き。


 時間はかかったものの、用意した霊薬などのおかげで、あんまり魔物に襲われることもなく進み、数日で、森の外までたどり着くことができた。


「助かりました」


 森から出た草原で、案内をしてくれたエルナーザさんに頭を下げる。


「いや、お礼を言いたいのは、こちらだ。洞窟竜から助けてくれた上に、シルバー・サフなどの貴重な薬草をもらっている。感謝してもしきれないほどだ」


 そう言ってくれる、彼女。


「従魔達が『城』で採った薬草なんかは、『倉庫』に突っ込んでおくからな!」


「……前に言ったとおり、必要そうなものがあれば使ってかまいませんからね」


 彼女に言う。


「すまないな。シルバー・サフを使わせてもらったときは、代わりの何かを入れておくよ」


 別に良いんだけど。


 こちらとしては、『城』で採れた薬草や鉱石などを『倉庫』に入れてくれるだけで、大助かりだ。


 倉庫は共有になっているから、エルナーザさんが『倉庫』に入れてくれたアイテムを、俺たちも向こうで取り出せた。


 逆にいえば、彼女も俺達の入れたアイテムを自由に取り出せるのだが……、そこらへんはあまり心配していない。


 一応、イェタは、誰がどのアイテムを引き出したかの記録も見ることができるみたいだけれど、それがなくともエルナーザさんなら大丈夫だろう。


 ちなみに城レベルアップで、倉庫レベルを一つ上げられるようになっている。可能ならば、新しい城では、それを活用するつもりだった。


 誰がどのアイテムを引き出せるかを決めたり、いろいろなことを細かく設定できるようになっているとか。


 町の兵士などを『城の住人』にするかもしれないから。


 倉庫レベルが上がっても、獣人やジュナンは、城に設置された黒いオーブを触っていないと『倉庫』を使えない様子だったのは残念だったが……


「それじゃあ、また会おう! トーマ君の領地の呪気について調べに行くかもしれないから、そのときは、新しい『城』に顔を出すよ」


「はい。そのときはおいしい食事でお迎えしますよ!」


 ジュナンや獣人たちとも別れの挨拶をし、彼女は、森の奥へと帰って行った。


「それでは、ここからの案内は私の仕事ですね」


 ユイさんは領地までの案内をしてくれるそうだ。


「よろしくお願いします」


「はい!」


 町の冒険者ギルドにより、サリーさんやギルド長のガルーダさんに別れの挨拶をする。

 遠くに行くことを、残念がられた……


 隣国からの逃亡奴隷である獣人たちが国の中を移動できるよう手続きもする。

 ユイさんとも関係がある貴族から、俺が獣人たちをゆずり受けたような形になるのだとか。


 なんか、逃亡奴隷を助けるのもマズいそうだが、ここら辺は冒険者ギルドのガルーダさんや王子も協力してくれて書類を用意してくれたそうだ。


「逃亡奴隷などを、こっそり自分の領民にしてしまうぐらいは問題ないのですが、トーマ様の場合は足をすくわれる原因になりますからねー」


「す、すみません。気をつけます……」


 そうユイさんに言う。

 隣国の人間などと関わらないよう、王子も心配していたからな……


 町で必要そうな物資なども購入し、俺たちは辺境へと出発した。


 獣人には、『弓兵』などの戦闘職を、希望者に与えていた。

 その彼らが戦闘の練習をすることを望んだため、出会う魔物はできるだけ獣人に任せ、そうして二十日ちょっと。


 目指す町まであと数日、といったところまでたどり着いたんだ。


「……ここら辺は、ほとんど荒野のようになっていますね」


 周囲を見回す俺に、うなずくルマールさん。


「日照りのせいか、ところどころにある草木も枯れていますな」


「トーマ、見て! 地面に面白い模様があるよ!」


 イェタが指す先の土は、乾いてひび割れてしまっていた。


「本来は、スカルシア家の初代……秘術使いと呼ばれた方が別荘地としていたぐらいに、良い場所なのですが、ひどいことになっていますね」


 そのユイさんの言葉に、首をかしげるジュナン。


「……なんか、トーマさんの前の管理者は、スカルシア家じゃなかったよな?」


「ええ。三代目か四代目のころに、もっと王都に近い領地と交換してもらったとか」


 そのときに、スカルシア家の領地ではなくなり、別の貴族家の領地になったようだ。


「……今でもひどいことになっていますから、ユモン・スカルシアが領主だったら、もっと大変なことになっていたかもしれませんね」


 彼は、一部でダメ貴族と言われていたような人だったらしいからな。

 ユイさんの評価も、そうなったんだろう。


 そんな会話をしながら、俺たちは毎日歩き続け、とうとう目的地にたどり着いたのだ。


「あれが、トーマ様が領主となるカルアスという町ですけれど……」


 とまどったように、町を指差すユイさん。


「……めちゃくちゃ、ゴブリンに攻められていますね」


 彼女に返答する。


 目の前で、カルアスの町が、百体ほどのゴブリンに攻められていたのだ。


 ゴブリンは、すぐ増える魔物。こまめに狩らないと、こうなってしまう。


 このぐらいの数なら、町を囲む壁があれば問題ないはずだが。


「なんだか知らねーけど、守備側に元気がねーな」


 ジュナンのつぶやきの通り、人間側が、ゴブリンに押されているようにも見える。


 何体か、壁を登って中に入ってしまっていた。


「ヤツら、こちらに気づきましたぞ」


 武人風の老人、ルマールさんの警告。


 俺達に気がついたゴブリンの半分ほどが、こちらに向かってくるようだ。


 ちょうど小高くなった場所にいて、矢を放つ場所としてはちょうどいい。


「……ここで、迎撃しましょうか」


「わかりました! あのカミナリを落とす矢、使っていいですかね!」


 『弓兵』の青年、ヨシュア君にうなずく。


 火がつくのは怖いけれど、枯れ草の数はあんまりない。

 もともと草が生えていなかったか、魔物か何かが食べてしまったんだろう。


 もし火がついても、消火のためのアイテムをジュナンに作ってもらってあった。

 半径数メートルを凍らせる、火や魔物に向かって投げつけるタイプの霊薬だから、それを使えば良い。


「ヤツらが近くまで来ましたぞ」


 ルマールさんの警告の通り、ゴブリンたちが、こちらに向かって坂道を登って来ていた。


 このシチュエーションは、ちょうど良いな。飛び道具を持った敵はいなさそうだし。


「イェタ、道中に入れてあった()()を使えないかな?」


「わかった!」


 彼女が、うなずいて俺の横に来る。


「えい!」


 かけ声とともに、『倉庫』から、ちいさな小屋ほどもある岩を出した。


 それが坂を転がっていくのだが――


「少しスピードがないか」


 もっと坂が急になっているところで使うか、もっと岩を丸くする必要があるようだ。


 ただ、ゴブリンたちは慌てているので、着眼点としては悪くなさそうである。


 俺は魔力の不足で、あの大きさの岩を『倉庫』に出し入れできないから、イェタだけの必殺技だ。


 倉庫に入る量も無限ってわけじゃないから、岩の量にも限度はあるけれど。


「イェタさんに、続きますよ!」


 そんな観察をしていると、ヨシュア君が前に出る。


 三名の『弓兵』たちも一緒だ。


「うちますッ!」


 彼らから、ジュナンが作った魔法の矢が放たれる。


 刺さった場所や魔物に、小さなカミナリが落ちた。


「誘電する力を高めた矢だ! 一本の矢で、たくさんの敵を攻撃できるぜ!」


 向かってきた五十数体のうち、半分以上を倒した矢に、ジュナンは大威張りの様子。


「もう一発、行きます!」


 霊薬を飲み、魔力を回復させた獣人の、さらなるカミナリの矢の攻撃で、こちらに攻めて来たゴブリンたちを殲滅した。


 あとは、町を攻めているゴブリンだけ。


 半分ほどをこちらにひきつけ倒し、さらに町の兵隊達も七、八体のゴブリンを倒している。


 残りは四十数体ちょっとなので大丈夫だとは思うが……


「町を助けに行きます」


 戦闘系の職業を持つ獣人の中から、二名を選ぶ。


「君たちは、イェタや非戦闘員……子供達の護衛を!」


「「はい!」」


「ウニも、こっちに残って魔物の不意打ちを警戒してくれ! おかしなことがあれば、すぐ俺達を呼んでくれよ!」


「きゅっ!」


「他の戦闘能力があるものは俺と一緒だ! ゴブリンの殲滅(せんめつ)を行う!」


「「はい!」」

「おーっ!」


 ……イェタからも、反応があったので、そっと彼女を抱き上げ、ユイさんに渡した。


 これで、イェタが、俺達を追ってきてしまった、なんてことはなくなるはず。


「行くぞ!」


 『戦の角笛』を戦闘員にかけると、みなで町の救助へと向かった。


 ゴブリンの中には、少し良い武器を持っていて、動きが鋭いヤツとかもいた。


 しかし、防御力を強化する『戦の角笛』のおかげで、攻撃されてもダメージはゼロ。さらに、こちらの武器の命中力や攻撃力も上がっている。


 後ろの獣人たちに向かっていくものがいれば、そちらに向かえるように気をつけながらの戦闘だったが、問題なく残りを倒すことができた。

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