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53. スカルシアの名

 王子だと自己紹介してくれた、ベルフォードと名乗った青年。


 彼が、またダークエルフの集落へと戻ってきたようだ。


 エルナーザさんとダークエルフの男性に案内され、俺たちの城へとやって来た。女性を一人連れている。


「待たせたね」


「いえ、むしろ早かったぐらいですね」


 獣人たちも、新しい城へ、俺達と一緒について行くことを望んでいた。


 そのために、安全に森を移動するための、何種類かの霊薬などをダークエルフたちに作ってもらっていた。


 聖樹さまの魔力を使ってつくる薬だそうで、この城の調合室では作れないんだ。


「それなら良かった」


 うなずく、彼だったが。


「ベルフォード王子、ちょっと疲れてますか?」


 旅の疲労かな、と思いながら聞く。


「ちょっと、いろいろあってね。……僕のことはニックネームとか、もっと気軽な感じで呼んでくれて良いんだけど」


 ベル王子とか?


 難しい注文に迷っていると、彼が、一緒に来ていた女性に声をかける。


「ユイ君、例の資料を」


 ライトブラウンの髪に、茶色の目を持つ女性だ。


 ユイという名は、黒神サクが人間だったころ孤児につけたとか、そんな由来をもつ名だな。


 その彼女が「はい」と返事をし、持っていた紙を渡した。


「さっそくだけど、これ。トーマ君に任せたい領地の資料だ」


 紙の束をもらうが、これは地名かな。

 カルアスという町を管理するらしい。


「こっちが領主の証となる指輪だ」


 紋章が入った指輪ももらった。


「カルアスか……どこら辺にある町なんだ?」

「トーマ君には、聖樹さまも感謝しているからな! 我々も、様子を見に行きたいぞ!」


 エルナーザさんとダークエルフの男性が、そんなことを言う。


 聖樹さまはハイ・リッチの封印に、けっこう力を使っていたらしい。そのハイ・リッチを倒したことに感謝しているのだとか。


「えっと……地図がありますね。これです」


 この国でも、辺境のほうにある町のようだ。


 領地扱いとなる土地は無駄に広いが、住民の数は少ないらしい。


「ああっ! ここは魔物は多いが、良い土地のはずだぞ。作物なんかもよく育つはずだ!」


 エルナーザさんが知っている土地のようだが。


「……そんな土地だったんだけど、二年ぐらい前から問題が起こっていてね。日照りなどいろいろあって、ちょっとボロボロの状態なんだよ」


 王子の言葉にビックリする。


 それって俺のような何も知らない人間が管理していい土地なのだろうか。


 エルナーザさんも、何か納得できない様子で――


「おかしいな……。例え雨が降っていなくても、土地が自然に湿り気を帯びる。そんな土地のはずなんだが」


「……不思議な土地ですね」


 俺の言葉に、うなずく彼女。


「この森ほどではないが『呪気』が大地から染み出している場所でな」


 え……


「それだけだと、魔物が強くなったり、暴れだしたり、薬草が育たなくなったりするだけなんだがな。その場所はな、『呪気』を『魔力』に変換する力が土地自体に備わっているんだよ」


 へー。


「このような土地を参考に、我らの聖樹さまも、神々により造られたのだと言われている」


 聖樹さまの『呪気』を『魔力』に変換する能力は、特殊な儀式を行うことで、発動しているみたいだが、ここは、そういう儀式なんかがいらないんだろう。


「土地が、勝手に『呪気』を『魔力』に変えてくれているはずなんだが、その能力が不調になっているのかもな」


 まじめな顔の彼女。


「呪気を放置すると魔物が凶暴化し、最終的に『魔王』という存在が生まれるらしい。トーマ君には世話になったし、我々も人員を派遣しよう!」


「どんどん人手が足りなくなってくなー……」


 ダークエルフの男性が遠い目をしている。


 聖樹さまと一緒に呪気を減らす作業などが残っているし、来るにしても数人ぐらいだろうか。


「来たら、あっちに作ったイェタの城も訪ねてくださいね」


 魔王という存在も気になるし、あとで詳しく聞いておくか。


 人類が滅びかけたという『大破壊』の前には、たまに世界に出現したという伝説があるが、そのぐらいしか知らないから。


「あと、渡しそびれていたけど、こっちは君たちへ」


 エルナーザさんに、ベルフォード王子が別の資料を渡した。


「情報を欲しがっていた……君たちの裏切り者だっけ? それがスカルシア家から持ち出した資料だ。黒神サクの魔道具についての資料とか、呪気についての秘文書などがなくなっている」


「呪気についてはわかるが、サク様の魔道具についてもか……」

「あいつは魔道フリークだからなー。魔動タンクとかも好きだったし」


 エルナーザさんのつぶやきに、ダークエルフの男性が反応している。


 ダークエルフ達を裏切った者……聖樹様の巫女などを罠にかけた人物は、魔法や魔道具について、かなりのマニアだったとか。


 サク様が人間のころに作った、魔動タンクも好きだったのだそうだ。


「僕たちも、がんばって調べたんだけどね。当主のユモン・スカルシアが死んでいることもあって、ちょっと詳細がわからなかったよ」


 王子である、彼の言葉。


 ユモン・スカルシアは、イェタの城を攻めようとしていた貴族だ。

 いつの間にか、死んでいたのか。


「まあ、彼がいないおかげで、スカルシア家の名前をトーマ君に使わせるよう働きかけるのは簡単だったけどね!」


 ……何それ。


 そう思いながら、何気なく、さっきベルフォード王子からもらった資料を見ると、そこに『トーマ・スカルシア』の名が……


 なんか、変な家名がついてる!?


「あー。秘術使いの家か。トーマ君が神器……『城』の力を使っても、あの家ならおかしくは思われないかもな」


「神器の持ち主と知ると、奪おうとする者も出てくるからなー」


 ダークエルフたちは、そんな納得をしているみたいだが。


 領地も広いし、特殊な土地らしいから、何らかの権威付けが必要だったってのもあるかもしれないな。


 冒険者を貴族に取り立てるってのはあるが、俺は高名だったりA級やS級の冒険者だったりするわけではないし。


「一部では評判の悪い家だけど、そのことは(たみ)にはあんまり知られていないし、僕の部下が、トーマ君の評判の操作をしているから安心してね!」


「……領地のカルアスの町で、評判の操作をしてくれているのですか」


「うん、そう!」


 うなずいた彼が、一緒に連れていた隣の女性を示す。


「あと、こっちはユイ君。領地運営の補佐をしてくれる。最初は、僕の部下をつけようとしたんだけど、彼女が最適そうだったんで、他所(よそ)から借りてきた。文官だ」


 王子と一緒に来た女性は、彼の部下ではないらしい。若いのに頼りになるとか。


「ふつつかものですが、よろしくお願いいたします」


 お辞儀をする彼女に、お辞儀を返す。


「あんまり数を用意できなかったんだけど、何人か僕の部下も送ってあるから、使ってやってくれ」


 それは、ありがたい。


「あとの細かい注意事項は、ユイ君に伝えてあるけど――」


 笑顔だった彼が、急に、まじめな表情になる。


「隣国の人間には、関わっちゃダメだよ。例え相手が村人でも、隣国の人間を助けたりしたらダメだからね。それだけは、強く伝えておくよ」


 ……なんか、ずいぶんと、真剣に言われた気がするな。


 彼の表情から、この注意は記憶に残しておいたほうがいいと思ったんだ。

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