52. 王と王子
ベルフォード(王子)から感じられる性格をまろやかにするため、49話を修正しました。
彼のビリー達に対するコメントを、『排除しておくべきだった』から、『この傭兵隊から、追い出しておくべきだった』に変更。
さらに『(ビリー達を)殺してしまうのならば簡単だったのだが』という文を入れてあります。
Side: ベルフォード
ダークエルフの集落からの帰り道――
ベルフォードは、対話をしたトーマという『神器の主』について思い出す。
(ユモンの遺体を持ち帰った後、あの冒険者について報告を受けていたが……、聞いたとおりの性格に見えたな)
部下からの報告を思い出す。
(あれなら、こちらに取り込むのは簡単そうだった)
透明な結晶を取り出し、それを見つめる。
もし、『魅了支配』の魔法を使うなら、まだ『城』の精霊が強くないころを狙う必要がある。
しかし、『魅了支配』には、『聖剣の精霊』が残したアイテムを使う必要もあった。
結晶の形をしているそれは、一度使うと壊れてしまい、アイテムの数も限りがある。
(……まだ、もう少し時間はあるしな)
一番最近の、王が幼いころに現れた神器の持ち主が、強大な力を持った途端に性格が変わったこと。
その、もう一つ前の神器の持ち主が世界に混乱をもたらした人物であったため、警戒しすぎてしまったかもしれない。
(寛大さや信頼を見せつつ、しばらく様子をうかがうか)
そう判断し、彼に任せる領地について考えながら、ベルフォードは王都へと帰還したのだ。
その数日後。
彼は、父親である王と、王城の一室でにらみ合っていた――
「……どういうことですか?」
「何のことだ」
しらじらしい、と思いながら、ベルフォードは説明する。
「トーマに与える領地についてです。父上から横槍が入ったとか」
「ああ、そのことか」
うなずく、王。
「与える領地を、違う場所にしただけだ。日照りなどで大変なことになっている土地だが、彼は『神器』である『城』の持ち主だ。そういう人間にこそ、大変な土地を任せたい」
「……あそこは隣国と接する辺境の土地ですが」
王の目を、正面から見るベルフォード。
「父上は、密偵に、トーマのところに行き、行動を報告するよう命令を出しているそうじゃないですか……。さらに、もし隣国の人間と関わるような人物ならば処分するつもりだとか」
「裏切り者なら、罰を与えねばならぬだろう?」
「……あなたは、彼が、隣国の村人に便宜を図ったぐらいのことでも、処分できるよう根回しもしている。他の貴族が隣国の村人に目こぼしをするのは許しているのに!」
王に詰めより、問いただす。
「どういうことです! 隣国のものを助けたトーマを、処分したいのですか!?」
首を振る、王。
「国に害のない人間か、試しているだけだ。トーマとやらは『神器』の主だろう? すぐに我々でも勝てぬ、強い力を持つようになる。力を得る前に、信用できるか否かを、試さねばならぬ」
いら立つ、ベルフォード。
「試すにしても、まずは、こちらに引き込んでからでしょう! あれは、優しさや寛大さを見せれば、簡単に引き込めます!」
沈黙する王。考えを変えるつもりはないのか。
埒が明かぬ、と判断したベルフォードは、荒々しく言葉を叩きつける。
「そうですか! そんなに心配ならば、彼に『魅了支配』の魔法をかけてきますよ! あの魔法をかけるためのアイテムがありましたね。渡してください!」
すでに国に返還していた、聖剣の精霊が作ったアイテムを要求する。
「ならん。あれは、一度使えば消えてしまう。もう数がない」
その言葉にベルフォードが怒った。
「私には、父上が理解できません!」
腕を大きく振る。
「父上は、ただ、彼を処分したがっているだけなのではないですか! ユモン・スカルシアは彼の『城』に進軍し、死にました! それを恨みに思っているのではないですか!」
その言葉に、王の顔がゆがんだ。
「恨みなど、ない!」
静かだった彼の、怒りの声。
「聖剣の精霊としての力を、最も強く発現させている私だぞ! 子どものような八つ当たりをしているとでも言いたいのか!」
精霊としての能力が、強く表面に現れている。
だからこそ、ユモン・スカルシアへの愛情も大きかったのだが。
「それに、お前が出した、もう一つの要求に許可は出しているだろう! スカルシア家の名前を、その男に貸すという! 憎しみを持っているのなら、そんな許可は出さんわッ!」
王は、心の中にある憎しみに、自分でも気がついていないのか。
その憎しみが、彼の思考を狂わせているようにも見えた。
「私の行動は、全て国を思ってのものだ! わからぬなら、話は、もう終わりだ!」
「父上!」
部屋から出て行く王。
追おうとしたベルフォードだったが、近衛兵に止められた。
(面倒なことになった……)
王族には、聖剣の英雄王の庶子……その子孫達に強い愛情を感じてしまうという、弱点がある。
それを危険視するベルフォードは、この弱点を、『城の精霊』の子どもとの結婚で、薄めようとしていたのだが。
(父上は、この弱点は、放っておいても大丈夫だと考えているからな)
世代を経るごとに、この弱点はじょじょに薄くなっている。
ベルフォードの子供などが、その庶子たちの子孫に感じる愛情は、ベルフォードよりも、少し小さなものになるはずだ。
そのため、百年後か二百年後には解決している問題だと、王は楽観していた。
(説得は、難しいかもしれない)
ベルフォードの目には、トーマは安全そうな人間に見えていた。
評判を調べるのに時間がかかってしまったが、神器を管理させるには良さそうな人材で、お人よしな面はあるものの、それは長所にもなった。
(うまくすれば、国を支えてくれる人物になってくれるかもとも思ったのだが……)
急に状況が変わってしまったことに落胆する。
(さすがに王族についての内部事情については話せないが、トーマには、隣国の人間に関わらないよう強く言い聞かせなくては)
彼につける部下の選出も、急がなくてはならない。




