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51. 聖城イェタ

 イェタが『城の精霊』であることを言い当てた目の前の青年、ベルフォード。


 驚いていると、トコトコとイェタが前に出る。


「はじめまして、イェタだよ! あなたから、精霊の気配がするね!」


「僕は『聖剣の英雄王』と『聖剣の精霊』の子孫だからね」


 笑みを深くした彼が言う。


 聖剣の英雄王……世界的に名が知られている、伝説的な人物だ。この国の初代王だな。


 その子孫ってことは、王族とか、それに連なるような人物ってことになる。


「……『聖剣の精霊』っていうのは、聞いたことがねーな」


 横から、ぶっきらぼうな声が聞こえる。ジュナンだ。


 青年は気を悪くした様子はなく、彼女に答える。


「ああ、そうだね。一般には知られていない」


 うなずく、彼。


「火や水の精霊なんかの自然に産まれたとされる存在とは違う……。神……僕らの場合は『黒神サク』が作った神造精霊といった存在だ」


 黒神サク……はるか昔、伝説の時代に、異世界から来たという『人間』だ。

 その人間だったときに蜘蛛の形をしたゴーレム、『魔動タンク』などを作っている。


 この世界で何かの試練を達成して、神々の一人となったのだそうだ。


 様々な知識を異世界からもたらしたというが、それらは人類が滅びかけたという『大破壊』の時代に、ほとんどが失われたとされた。


「……サク様ってーと、聖剣の英雄王さまに『聖剣』を与えたっつー神様か。その神様が、イェタちゃんの創造主なんだな」


 ジュナンが納得した、というようにつぶやいた。


「ってことは、イェタちゃんも『聖城』ってことになるのかな? 神様から与えられたものは、『聖樹さま』みたいに『聖』がつくこと多いし」


「そうだろうね」


 青年は優しく対応している。


「イェタちゃんを、奪いにきたってわけじゃないんだろ?」


 ちょっと挑発的に、そんなことを聞くジュナンにも表情を変えない。


「わたしはトーマと、ずっと一緒だよ!」


「……ということなんで、僕が望んでも無理そうだ」


 ベルフォードが肩をすくめた。


「そんなわけで、僕は、トーマ君のほうをもらおうと思うわけさ!」


 俺……? と考えていると、ガシッと、イェタにしがみつかれる。


「トーマ……いっちゃうの?」


 うるんだ瞳で、見上げられたんだが。


「いや、どこにも行かないよ」


 彼女の頭をなでてから、ベルフォードという青年に問いかける。


「『俺』というより、『俺とイェタ』をセットで欲しいということですよね?」


「うん、そう。それで、場所はどこか決まっていないけれど、領地を君たちに任せたいと思っている」


「……唐突ですね。領地運営のやり方なんて知りませんけど」


「それは大丈夫だよ。『城』の力もあるだろうし、部下もつける。最初は小さくて、管理も簡単なところから始めて、じょじょに力なんかを証明してくれれば」


 そう言った彼が、首をかしげて聞く。


「聖剣の精霊と同じなら、そこのイェタちゃんも、本能で、いろいろな能力を得ることを望んでいると思うんだけど」


「たしかに、彼女は、城を大きくすることを望んでいますね」


 うなずく、俺。


「そのために、魔物の死骸を集める必要があると思うんだけど……、森の奥だと、それも大変だと思うんだよね」


 彼の言うとおり、魔物を狩ろうにも、ここら辺はやっかいな魔物が多かった。


 人の気配を察知して、近くの魔物をけしかけてくる敵など。


 毒を使う敵や、獲物を地面に引き込んで窒息死させるような敵は、防御力をあげる『城主』の能力、『戦の角笛』もあまり効果がない。


「そうですね……。ダークエルフたちは、聖樹さまのための死骸を集めるので手いっぱいみたいですし」


 一部はシルバー・サフと交換してもらう予定なのだが、だいたいは呪気の処理をするための儀式に使われてしまう。


 エルナーザさんには、慣れれば俺達でも狩りができるはずだと言われていたが、その前に死者が出る恐れもあった。


「領地を運営してくれるなら、兵隊をあげるよ! 彼らを使えば、ここにいるよりも簡単に魔物の死骸を集めるようになる。君たちにも利益はあると思うんだけど」


 ……この誘いは、魅力的だ。


 一応、城転移のための施設をつくったときに、大量の魔物の死骸をダークエルフ達からもらってポイントにしている。


 そのためポイント自体はあまっているのだが、それもいつかは使い切ってしまうだろうと考えていたのだ。ただな……


「『城』の移動……『転移』もできるんだろ?」


 問題は、これなんだ。城の転移ができないんだよね。『城転移』の再使用には四年待つ必要がある。


 しかし、それ以外の方法があった。


「同じような『城』を増やすことができますから、あずかった領地に、新しい『城』を作ることができます」


 こっちに来て、城レベルアップをしたときに得た、新しい能力だ。


 今まで、いくらポイントを貯めても『城レベルアップ』ができず、不思議に思っていた。


 どうやら、ポイント以外にも、いくつかの前提条件をクリアしないと、次の『城レベルアップ』ができないことがあるらしい。


 今回は、『布革工房』という施設を設置したと同時に、『城レベルアップ』もできるようになっている。


 工房などの施設を、一定数、作成する必要があったみたいだ。


「おおっ、そうか」


 うなずく、ベルフォード。


「もし『転移』とか、そういうのができないなら、それでもよかったんだが。そうか、新しい『城』を増やせるのか」


 嬉しそうではあったが――


「『転移』とか、できなくても良かったんですか?」


 疑問に思ったので聞いてみる。


「イェタの、不思議な能力が必要なんですよね?」


「手に入るなら欲しいね。でも、個人的に一番欲しいのは、君たちの子どもなんだよね!」


 ……は?


「聖剣の精霊の子孫である僕たち王族には、少し弱点があってね。その弱点が、次のサク様の精霊では直っている可能性があったんだよ!」


 イェタを指して言う、彼。


「そうなんですか」


 やっぱり王族だったか、と思いながらうなずく。


 税が安かったり、大災害への対処が的確だったりで、一般庶民には、えらく優秀で信頼もできると評判なのだが、彼らにも弱点があるのだそうだ。


 精霊の血が混じっていることによる不具合みたいなのがあるのだろうか。


 あまり知られてはいないが、聖剣の英雄王の庶子……そこにつながる血をもつ貴族家に、みょうに甘い場合があるとか聞いたことあるから、そこら辺かな。


 どちらにしても、イェタの子が必要ということで……、イェタ自身が子どものうちは、あんまり関係ないだろうけれど。


「……でも、何で、それが直っているかもしれないって思ったんですかね?」


「うん。この弱点は、サク様も予想していなかったみたいでね。聖剣の英雄王に、聖剣の精霊を通して、謝りの言葉を残したと伝承にあるんだよ!」


 へー。


「問題が発覚する前に、サク様から聖剣の英雄王に、事前に伝えたんだね! 律儀だね! そのとき対話した『聖剣の英雄王』に、『次の精霊のときは善処できるようにがんばる』って言ってたらしいんだ!」


 ……『善処する』じゃなくて『善処できるようにがんばる』なのか。


 本当に直っているのかと微妙な気分になったが、神の言葉なら信じられるのだろう。


「イェタちゃんの子と、王族の誰かが結婚すれば、その弱点が、少し薄まった子供が生まれる可能性がある! それを試したいんだよ」


 なるほど。


 ただ、イェタが誰と結婚するにしても、それは彼女が育ってからの話になる。ずいぶんと気の長い話だ。


 そんなことを考えていたら、ジュナンから思ってもみなかった質問が。


「……イェタちゃんって精霊だろ? このまま見た目変わんないんじゃないか?」


 ベルフォードは、うなずく。


「半精霊の僕らと違って、彼女たちは、そうみたいだね。大人になる能力は、剣のレベルがマックスになれば解放される予定だったって話だよ」


 そうなのか。


「聖剣の精霊は、別のやり方で、その能力を手に入れたみたいだけど」


 おお。


「なんでも『聖剣の精霊』が(しび)れを切らして、自分の主を襲ったら、子どもができたと同時に大人になれる能力が解放されたって話だから」


 えっ。


「おー」


 そんな風に、イェタが感心していたが……


「イェタちゃん、意味わかってんのか?」


 ジュナンが、俺と同じ疑問を持ったようだ。


「よく、わかんない! でも、コウノトリさんが運んでくる、トーマの子どもは可愛い気がする!」


 ……そんなやり取りをしていたので、意味はわかっていなさそうだった。


 聖剣の精霊と、うちのイェタの性格も、ずいぶん違いそうだな……


「とりあえず、城のレベルを最大にすることを、当面の目的にしようか」


 そうすれば、彼女の見た目年齢を変える力が解放されるかもしれないから。


 俺の言葉に、イェタが「うん!」と、元気良くうなずいたんだ。

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