50. 王子との対面
城を大空洞に転移させてから、三日目。
城のある大空洞からのびる洞窟には、出口が二つある。
一つは森の中へと通じる出口。もう一つはダークエルフの集落へと通じる出口。
後者の洞窟を通り、俺達はダークエルフの集落へとやってきていた。
この洞窟には魔物も出ないから、移動は簡単だ。
集落には、俺かイェタがいれば出入り自由と言われていて……
ここにはアイテムの素材となる、聖樹さまの落ち葉を拾いにきていた。
「おっきーねー」
イェタが聖樹さまを見上げ、嬉しそうに微笑んでいる。
聖樹さまの葉の間からは光が差し込み、俺達の立っている場所をスポットライトのように照らす。
(まるで祝福されているみたいだな)
そんなことを思う俺の横では、ドワーフの少女、ジュナンもいた。彼女も笑みを浮かべ、嬉しそうだ。
「ふはは、スゴい! これだけの聖樹さまの葉っぱがあれば、大爆発するアイテムを作れるぞ! 勝った! 私は勝ったーっ!」
何に勝ったのかはよくわからないが、ぶっそうである。
もうここに来るのは二度目なのだが、ジュナンのテンションは変わらない。
「しかし、やっぱり聖樹さまの皮とかも欲しいんだけど、どうにか剥がせないか」
そんなことも言っていたが。
「はがしちゃダメだよ!?」
あわててジュナンを止める。
声は出せないらしいが、意志がある木だ。さらに、ダークエルフの信仰みたいなのを集めている。
せっかく、この集落への出入りを許可されているのに、そんなことをしてしまったら出入りを禁止されてしまう。下手したら戦争だ。
こんな会話をしていたので、後ろからかけられた声にビクリとしてしまった。
「おっ、トーマ君、ここにいたか!」
「……エルナーザさんですか。お邪魔しています」
ぺこりと頭を下げる。
「俺に、何か用ですか?」
「ああ。実は今、客人が来ていてな。君を探していたのだ」
へー。客人が来ているのか。
「どんな用事なんでしょうか?」
「ああ、その客人なんだがな。数日前まで、この森にあった『城』……その主に会いたいと言っているのだ」
えっ、もしかして、俺たちの城のことか?
「……その人は、どこで『城』の情報を知ったんですかね?」
イェタの城を攻めようとしていた貴族がいたが、その関係者だろうか?
「わからんが、評判がいい人物だから、あんまり警戒する必要もないと思うが。どうする? 会うか? その人物は、こんなものを持っていたそうだ」
渡されたのは封筒。これは冒険者ギルドが発行するものだな。
紙も上質で、魔術で紋様も入れられている。貴族か何かに使うような高価なものだ。
開くと、こんな文書が出てきた。
『トーマへ。
そのベルフォードと名乗る青年は、評判の良い人物だ。
信頼できるはずだが、目的がわからん。そこらへんは自分の感覚を信じてくれ。
ガルーダ』
冒険者ギルドの長、ガルーダさんからの手紙。紹介状かな。人物の紹介は、あんましてないが。
少し注意は促されているものの、評判は良い人物だとか。信頼できるはずとも書いてある。
ダークエルフも似たような意見だったし、顔を合わせるぐらいなら大丈夫だろうか。
「わかりました。お会いしましょう」
ちょっと警戒しながらも、うなずいた俺を見て、彼女はほほえむ。
「では、今から案内しよう。――それと、聖樹さまの皮は剥がないでくれよ!」
ジュナンとの先ほどのやり取りを聞かれていたようだな。
「もちろんですよ!」
ここに残しておくと聖樹さまの皮を剥ぎに行きそうなので、ジュナンも持っていくことに……。イェタを一人で残すわけにも行かないので、彼女も一緒に連れて行くことにした。
聖樹さまにペコリと一礼をすると、それに応えるように風が吹き、ザワリと聖樹さまの枝が揺れる。
……偶然かな? まるで枝が手を振っているかのようだ。
こうして俺達は、エルナーザさんとともに、客人のところへと向かったんだ。
木に囲まれた木製の家。それらが並んだ、ダークエルフの集落を進む。
その途中、鎖で縛られたダークエルフの男性の姿を見つけた。
ダークエルフに数人がかりで持ち上げられ、運ばれている。
「あれは……?」
答えるエルナーザさん。
「さっき言った客人が持ってきた、土産だ。我らの二人の裏切り者、そのうちの一人だな。一番厄介なのには逃げられたらしいが、スカルシア家にかくまわれていた、もう一人を捕まえて持ってきてくれた」
へー。
「目をつむっていて、動く様子はなかったけれど、死んでないのか?」
ジュナンの質問に、うなずくエルナーザさん。
「捕まえた時点で、死の呪いが発動したようでな。仮死状態にして保護したんだそうだ」
多分、情報が漏れるのを恐れて、死の呪いを発動したということだろう。
自分で発動したのか、逃げたもう一人の仲間が発動したのかはわからないが。
「死の呪いを解いて、ヤツの知っていることを全部聞き出したいんだがな。ちょっと解除が難しい呪いみたいだ。時間がかかりそうなんだよ」
エルナーザさんは難しい顔。
「呪気の処理もあるし、やることが山積みだ」
そんな会話をしながら、一つの立派な家に到着した。
「ここだな。客人を迎えるための家だ」
多分、宿泊所をかねているんだと思う。
中に入ると、青年が俺たちを出迎えた。
「はじめまして、僕がベルフォードだ」
イスから立ち上がった彼が、俺とイェタを見る。
「君が『城の主』、そして、その小さい子が『城の精霊』だね」
……『城の主』に会いに来たということだから、ここに来た誰かが城の主だと予想することはできるはずだが。
それをピンポイントで当て、さらにイェタのことを『城の精霊』と呼んだ彼が、ニッコリと微笑んだ。




