04. ポイントにする
ゴブリン二体の死骸を背負子でかつぎ、俺は城の近くまで戻ってきた。
「トーマーっ!」
城の入り口で、ブンブンと手をふるイェタ。
どうやら彼女は、そこで俺の帰りを待ってくれていたらしい。
なんか町から城に帰ってきたときも、こんなやり取りしたな、と思いながら手を振り返す。
「ゴブリンを狩ってきたよ」
彼女のいる城への入り口まで歩き、背負子をおろす。
「……詳しく聞いていなかったけど、こういう魔物の死骸を何に使うんだい?」
その俺の質問に答える彼女。
「ポイントにするの!」
「……ポイント?」
コクリとうなずいた、イェタ。
彼女が、トコトコとゴブリンの死骸に近づき、それにポンと触れた。
「うお!?」
思わず、声が漏れる。
彼女に触れられたゴブリンの死骸。それが光の粒子のようになり、空中に溶けるように消えてしまったのだ。
「わーい、十ポイントだー!」
喜ぶイェタ。もう一体のゴブリンにも触れ、死骸を光の粒子にしていた。
うん……
彼女を魔物狩りに連れて行けば、死骸の持ち運びに頭を悩まさなくて済みそうだな。
危ないから、かなり迷うところではあるけれど。
「……その、ポイントというのにすると、何か良いことがあるのかい?」
「うん! ポイントを使うと、お城を直したり、城壁作ったり、調理場作ったりできるんだよ! 薬草園も五十ポイントで作ったんだ!」
ほー、あの貴重な薬草が生えていた場所は、そのポイントというので作ったのか。
「わたし、立派なお城になりたいの! だから、このポイントがいっぱい欲しいの! トーマも協力してくれるでしょ?」
その彼女に、俺はコクリとうなずく。
「ああ、もちろん。一緒に、立派なお城になろう」
彼女は、その言葉を聞いて、嬉しそうに「えへへー」と笑った。
「……それで、今はどのぐらいのポイントがあって、何か作れたりするのかな?」
その質問に、空中へ目を漂わせる彼女。
「んーと、最初にあったポイントが五十ポイント。それは薬草園で使っちゃったけど、今、トーマからもらった二十ポイントがあって……あと、すっごく前に森で魔物の死骸を見つけていて、そのポイントが五……」
こくりとうなずいた彼女が、質問に答える。
「今あるポイントは二十五ポイントだよ! 調理場か、『オススメ』って書いてある倉庫が作れる! トーマ、次は調理場作ろうよ! 薬草園の甘い草、火であぶると、もっと甘くなるって書いてあったっ! 調理場作れば火が使えるようになるよ!」
うん、どこに書いてあるのかはわからないが――
「とりあえず、調理場には『オススメ』って書いてないんだよね?」
「書いてない!」
「……じゃあ、まずは『オススメ』って書いてある倉庫作ってみようか。……ほら……甘い草を火であぶるぐらい、俺の野宿用調理キットでできるから」
倉庫作成の提案に、『この世の終わりだ!』みたいな表情をしていた彼女。
調理キットで火が使えると聞いた途端、それが一変した。
「トーマ、火をおこせるの!?」
「うん、できるよ」
「おおおおっ、すっごい! トーマ、すごいーッ!」
めっちゃ感動した面持ちで、俺の周囲をぴょこぴょこ跳ね回っているんだが……、この世界の大人なら、誰でもできることだからな……
「……じゃあ、倉庫の作成、お願いできるかな」
「うん! わかった! 建物の中に作る設備みたいだから、こっち来て!」
彼女が俺の手を引っ張り、城の中へ。
「どこがいいかわからないから、とりあえずここに作るね! あとで場所の移動もできるよ!」
城の一室を指差す彼女。
部屋の扉に触り、気合を入れる。
「えいっ!」
キラッと扉が光った。
「できたー!」
彼女がパカっと扉を開けた。
中を見ると、そこには所せましと魔法陣が描かれた窓のない部屋が……
中心部には台座があり、人の頭ほどもある黒い球体……でっかいオーブが鎮座していた。
「……これ、倉庫?」
魔法にうとい俺でも、なんか変な魔力をビンビン感じるんだけど。
魔法陣や黒い球……オーブも、うっすら発光しているし……
「倉庫だよ! あの黒い球にさわれば、この城の住人なら誰でも使えるみたい! 城の主であるトーマなら、城にいなくても、どんなに離れていても、この倉庫を使えるよ!」
ほう……、って、主?
いつ城の主になったんだ? と混乱する俺に、手を伸ばす彼女。
「ちょっと弓借りるね!」
俺の弓を持ち、球の近くまで歩いていった彼女が、それに触る。
「この状態で『収納したい』って思えば、倉庫にアイテムをしまえるよ!」
その言葉とともに、彼女の手から弓が消えた。
「トーマも、『倉庫に何が入っているか知りたい』って念じれば、この『倉庫』に弓が入っているのがわかるって!」
戸惑いながらも、俺は彼女の言うとおりに念じてみる。
うん……説明するのが難しいが、確かに倉庫(……なのかな?)にさっきの弓が入っているのがわかった。
「トーマやわたしは、この黒い球に触れていなくても、倉庫へのアイテムの出し入れができるって書いてある! やってみて!」
念じると、俺の手に弓が現れた。
……ちょっと魔力を消費したか?
「黒い球に触れていれば、魔力は使わないんだって!」
魔力があんまり多くない俺にはありがたい。
「生物は入れられないけど、薬草や果物、折った木の枝なんかは入れられるとも書いてある! 魔物の死骸も入れられるよ! 気をつけてないと腐っちゃうけど!」
なるほど……
「……ちなみに、さっきから何か説明書きみたいなのを読んでいるみたいだけど……それって、どこにあるのかな?」
俺の質問に、彼女は黒い球の方向を指す。
「黒い球の上! ここに半透明の板みたいなのが浮かんでいて、そこに書いてあるよ!」
球の……上?
まじまじと見るが、そんな板はどこにも見当たらない。
「城の設備の上とかに出てくる! 薬草園の薬草も、こういうのが出るのは効果とかわかるよ!」
「……そうなんだ」
ずいぶんと便利な能力だった。
俺にその板は見えないが、多分、彼女にしか見えないのだろう。
しかし、倉庫か……
この能力があれば、死骸の持ち運びが、ずいぶんと楽になりそうだ。
いつの間にか、俺が『城の主』扱いになっていたのはビックリだったけれど……