48. 城転移
・43話冒頭に、(トーマに)傭兵の知り合いがいることを示唆する文を一行追加しました。傭兵などとの戦いを避ける理由を、すこし増やしています。
・45話に「ハイ・リッチが聖樹を狙ってダークエルフの森に侵入し、大空洞に封印された」という情報を追加しました。
どちらも読み直す必要はない変更です。
ハイ・リッチから奪った杖を『宝物庫』にしまう。
「私も負けんぞ!」
そんな言葉を残した、エルナーザさん。
槍を手にハイ・リッチへと駆けていく。
イカヅチに迎撃されることもなく、敵にたどり着いたようだ。
杖がなくなったせいで、魔法の発動が遅くなっているらしい。
魔力を乱す爆弾のおかげで、動けなくもなっている相手――
「うおおお!」
神酒をつけた槍を、ザックザックと突き刺していく。
ハイ・リッチの体やローブに穴があくが、どちらも槍を抜いた瞬間に回復しているようだな。
バーン、と音がして、エルナーザさんがイカヅチで吹き飛ばされた。
「放てーっ!」
ハイ・リッチの周囲に誰もいなくなったのを見計らい、ヨシュア君や、ダークエルフ達の矢が降り注いだ。
俺も、魔石から作った爆弾を投げるぞ。
これで、またしばらくは、敵も動けない状態になる。
「ぐぬぬぬ、聖樹さまの枝から作った槍も、あまり効いてない」
助け起こしたエルナーザさんが、そんなことを言っている。
敵の魔力を見れば、ダメージの蓄積がわかると言っていたから、それで攻撃の効果がわかったんだろう。
爆弾のせいで周囲の魔力も乱れているから、そのダメージの蓄積も見づらくなっているのだとは思うが。
「矢も思ったより効いてないし、これは弱らせて封印コースかな……」
弱気な発言をする彼女に、悪い知らせが届いた。
「エルナーザ、聖樹さまが反応しない」
岩陰に身を潜めながら、知らせを伝えてくるダークエルフの男性。
再封印は聖樹さまの力を使うとか言っていたが……それができないということか?
「封印ができないのか。どういうことだ」
俺とエルナーザさんは、その男性のもとに行く。
「わからん。もしかしたら聖樹さまが弱っているのかも」
「ぬう。最近の『呪気』を処理する量も多かったからな……。もしくは、周囲に漂っている呪気が、聖樹さまに何か悪さをしているのか」
悩んでいる、彼女。
「封印できないのはマズいな……。倒すしか道がなくなる。あのハイ・リッチは、聖樹さまを狙って森に侵入した敵だ。逃がすことはできない」
「……ヤバい敵だったんですか?」
俺の質問に、うなずく彼女。
「アンデッドなのに、聖樹さまを追い詰めた敵だ。同じことをされ、聖樹さまが亡くなり呪気が処理できなくなると、大勢の人が死ぬことになる」
そうなのか。
「聖樹さまの調子がいつも通りなら、再封印もそんな難しくないはずなんだが」
首を振る、エルナーザさん。
「やつを倒すには、もっと圧倒的な攻撃力が欲しい……」
そのタイミングだった――
何か不思議な感触が、俺の体全体を走り抜けた。
「うおっ!?」
思わず声を上げてしまう。
「……どうしたんだ?」
エルナーザさんが首をかしげて聞いてくる。
「イヤ、なんか変な感触がして――」
と、そこまで言ったところで気がついた。
「……能力が増えている?」
『謁見室』という施設を作ったときに、いくつかの能力を使えるようになっていた。
その使える能力が、一つ増えているのがわかった。
「これは……『城転移』ができるようになったのか?」
そういえば、『転移石』を確保して、『宝物庫』に入れていたな。
これで前提条件はそろったから、イェタが城で、『城転移』をするための施設……『大転移クリスタル』を作ったのだと思う。
「……もしかして、ここに城を転移させて、投石機でハイ・リッチを攻撃したりできるか?」
そんなことを聞いてくるエルナーザさん。
「洞窟竜を倒した、爆発する石。あれに神酒をかければダメージは通るだろうし。もちろん、最後の手段だが」
うーん……。もし、それができたとしても、ハイ・リッチを仕留めきれなかったときのことを考えると危険すぎる。
一応、調べてはみるつもりだが。
「転移には広いスペースが必要で……、ここだと石筍や石柱が邪魔で、城転移が発動できないかもしれませんけれど」
そう前置きし、慣れない感覚にとまどいながらも、ためしに『城転移』を意識してみる。
「……あれ? できそう?」
「そうなのか?」
「ええ。思っていたより、転移に必要なスペースが少ないようで」
城の本体だけを転移させ、次に『石壁』や『兵舎』などの周辺施設を転移させる。そんな能力のようだな。
転移した『城』が、周囲の石筍などを除去してくれ、『石壁』や『兵舎』などが転移できるスペースを作ってくれるらしい。
『地下鉱石採取所』も、『石壁』とかと一緒に転移して来るそうだが……
「でもな……」
肝心の、その『城の本体』を転移できそうな場所が、一ヶ所しかないんだよな。ハイ・リッチのいる場所だ。
最初の『城の本体』を転移させる場所だけは、石筍などがない、平らなスペースが必要なよう。
ハイ・リッチのいる場所は、広場のようになっていて、転移には最適な場所になっている。
だが、ハイ・リッチがあそこにいると、転移は発動できない様子で……
それでも、何とか城の転移をできないかなーと試行錯誤していたら、城が空中に転移できることに気がついてしまう。
空中……つまり、ハイ・リッチの真上だが。
「おっ?」
心の中に、直接、情報を流し込まれるような感覚。
『警告! 城は神器です。このまま転移を発動すると、高い確率で、下にいる生物(ハイ・リッチ)が消滅します。よろしいですか?』
言葉にしてみれば、そんな感じの情報か。
『神器』については、あとで調べたいが。
「とりあえず、ハイ・リッチの頭上に城を転移させることはできそうですね。……でも、転移した城が、そこから落下することになるので中にいる者たちの身が危険です」
一メートル半ぐらいの高さではあるけれど。
「それならば、あそこからハイ・リッチを退かせば、城を転移させることができそうか?」
「ええ、多分」
エルナーザさんにうなずく。
まあ、もうちょっと真正面から戦ってみても良いかもしれないしな。
ヨシュア君の『パワー・ショット』とか、俺が城転移について調べている最中に、一度だけ使っていたが、矢が敵の体を貫通していたし。
それを見てもエルナーザさんの顔が晴れなかったということは、あれでも攻撃力が足りないと考えているということなんだろうが……
そんなことを考えながら、俺は、城転移から意識を離そうとしたのだ。だが。
「……あれ?」
「どうした?」
戸惑っていることに気がついたのだろう。
エルナーザさんが問いかける。
「それが……、魔力も注いでいないのに、城転移が勝手に発動を始めてしまっていて」
なんでだ? 操作を間違えたのか?
……いや、違うな。
「これは、誰かが介入をしているのか」
感覚でわかった。イェタが操作しているのだろうか。
止めようと思うのだが、止まらない。
せめて城が転移する場所を、少しでも低い位置にしようと操作する。
しかし、それもできない。
むしろ、転移予定地点が、ぐんぐんと高い位置にいってしまったぞ!
このままだと、この地下空洞の天井スレスレに、城が転移することになってしまう。
三階建ての建物を、五つか六つ重ねたぐらいの高さだが……
「その高さはマズいよ!?」
あせるのだが止め方がわからない。
「あっ、ダメ!」
そうこうしている間に、転移が発動。
ポン、と音を立て、地下空洞の天井近くにイェタの城が現れた。
「おおっ!?」
エルナーザさんの驚きの声とともに、イェタの城が、ハイ・リッチへ向かって落下する。
ドーン、という轟音――
落下した城は、見事、ハイ・リッチを押しつぶしたのだ。
多分、ハイ・リッチは倒した。倒したんだが……
「イェターっ!?」
あわてて城に駆け寄っていく。
「あっ、トーマーっ!」
城の大扉をガチャっと開けたイェタが、こちらに手を振った。
その後ろから、こわごわと外を覗いている住人の姿もあり……
「ぶ、無事だったか!」
あんな高さから落ちて、無事な理由がわからないが、その姿にホッとする。
「なんか、転移先の様子は見えたんだけど、全然『城転移』が発動しないからヤキモキしたよ! 城転移の使い方がわかんなかったんでしょ? トーマの代わりに、わたしが発動してあげたよ!」
えっへん、と胸を張る彼女。
「いや……発動のしかたはわかっていたよ? ただ、空中に転移したら危ないかなーって思ってたんだよ?」
そんな俺の反論に、彼女は首をかしげる。
「なんか『免震構造があるから百メートルぐらいの自由落下は大丈夫だ』って書いてあったけど……、トーマのところには、そんなメッセージなかったの?」
「……なかったな」
「どのぐらいの高さなら、あのアンデッドを確実に倒せるかの情報もあったんだけど」
それもなかったから、俺が取得できる情報より、彼女が取得できる情報のほうが多いみたいだ。
「……まあ、みんなが無事でよかったよ」
それもこれも『めんしんこうぞう』とやらの、おかげだろう。
どんな能力なのかイマイチわからないが、すごいものだということはわかった。
城が周囲の岩や石筍などを消し、『石壁』や『地下鉱石採取所』などの転移がおこなわれるのを感じながら、俺は安堵のため息をついた。




