47. ハイ・リッチ
ハイ・リッチが封印されているという、地下の大空洞へとなだれ込む俺達。
天井から魔法か何かの光が注いでいて広大。
石柱や石筍……地面から天井に向かって生える、ツララのような石が大量にある。
この石柱とかがなければ、イェタの城を、ここにもってこれそうだな。
かなり広いから、もしかしたらイェタと同じような城が複数入るかも。
「いたぞ! ハイ・リッチだ!」
ダークエルフの男性が指すのは、大空洞の真ん中あたり。
そこだけ石柱や石筍が存在しない。
広場のようになった場所の真ん中に、フードをかぶった人影がうずくまっていた。
容姿はフードなどでわからないが……、あれがハイ・リッチか。
手には宝石がはまった杖を持っている。あの宝石が、多分『転移石』だ。
ゆっくりと立ち上がり、その顔を俺たちに見せようとしていたのだが――
「投げます!」
魔石から作った爆弾を投擲。
ボン、という音を立て、それが爆発した。
「おおっ、効いてる! 動かなくなったぞ!」
「ダメージはないみたいだな。爆弾だけじゃ倒せないか」
「矢だ! 神酒をつけた矢を放て!」
口々に叫びながら、立ち上がろうとする姿勢のまま固まっているハイ・リッチに矢を放っていく。
接近戦でも良さそうだが、まずは遠くから攻撃するようだ。
「いやーっ、あの爆弾もすごいが、トーマ君の、この『戦の角笛』もスゴいな! まったく爆弾の影響を受けなかったぞ! ゆるぎもしなかった!」
エルナーザさんが、矢を放ちながら褒めてくれる。
爆弾には魔法をかき消す効果もあったが、『戦の角笛』は小揺るぎもせず、まったく影響を受けなかったようだ。
あれは、城の住人の、戦闘能力を強化してくれる能力なのだが。
「もしかして、イェタさんからもらった魔法って、あの爆弾の影響受けないんですかね! 僕も魔法っぽい能力を手に入れてたんですが、使えますかね?」
そんなことを聞いている『弓兵』の青年、ヨシュア君だが、そんな能力なんてあったっけ?
「おおっ、そうなのか! 私たちの魔法は、もう使えなくなっているが……試してみろ!」
エルナーザさんの言葉に「わかりました!」と応じた、彼。
「トーマさんには初披露ですね! 魔物を狩っていたら使えるようになった必殺技をお見せしますよ!」
そう宣言し、彼が弓を引き絞りながら、「パワー・ショ――」と叫んだときだった。
バーン、という鋭い音が響く。
――どこからか生まれたイカヅチが、ヨシュア君を直撃したのだ。
「ヨシュア君ッ!?」
「ぎゃーっ!? あのハイ・リッチ魔法を使うぞ!」
「動けなくなってるのに!」
「何で、こんな乱れた魔力の中で魔法を使えるんだ!」
「どこでも良い! 陰に隠れろーッ!」
大混乱である。
イカヅチに吹き飛ばされた彼を抱え、近くの岩かげに隠れる。
「何ですか、アレーッ!?」
半泣きのヨシュア君。
けっこう元気で、ホッとする。
「魔法の威力が落ちていたのかな」
そんなつぶやきに、同じ場所に隠れていたエルナーザさんが反応する。
「魔力を乱す爆弾の効果もあるが、彼が無事なのは、多分トーマ君の『戦の角笛』という能力のおかげだな。攻撃力の他、私たちの防御力なども上げてくれている」
そう言った彼女が、ヒョイッと半身を岩かげから乗り出して……
何してんの!?
あわてて引き戻そうとすると、バーン、という鋭い音が。
「フハハハハ! 痛いが、問題ない!」
イカヅチに撃たれ、後ろに吹き飛ばされたエルナーザさんが立ち上がった。
「『戦の角笛』のおかげで、城の住人は、魔法に当たっても大丈夫なようだな! 普通の防御魔法より、はるかに強い! 三人で、杖を奪いに行こう!」
そんな提案をもらった。
杖を奪えば敵は魔法を使いづらくなるし、転移石も手に入るしな……
「わかりました」
うなずく、俺。
「ええっ!? その三人って、僕も入ってますよね!?」
多分、ヨシュア君も入っている。
君と俺とエルナーザさん……後方で矢に神酒を塗ってくれている女の子は入っていないはずだから。
「『戦の角笛』も、効果が消えかけている時はなんとなくわかります。そのときは、また能力を使います!」
「頼んだ!」
エルナーザさんは、ヨシュア君を押して岩陰から飛び出した。
俺も続くぞ!
ひーっ、と声を上げながら走るヨシュア君を追い越す。
敵のイカヅチの魔法が発動し、前を走っていたエルナーザさんが吹き飛ばされる。
ハイ・リッチはすぐ近く。
「オオオっ!」
雄たけびを上げて飛びかかった。
剣を敵の体に突き刺した後、ヤツの杖を握る。
奪おうとするのだが、意外に力が強いな!
「でやーっ!」
そんな叫び声を上げたヨシュアくんが、ショートソードで切りかかる。
ハイ・リッチの腕に武器がブスっと刺さるが、しかし、そこまでだった。
バーン、と音がなり、二人一緒にイカヅチに吹き飛ばされたのだ。だが……
「おおっ! 杖を奪ったか!」
そんなエルナーザさんの言葉。
痛みにうめきながら自分の手元を見ると、転移石のはまった杖があった。
吹き飛ばされたときも、ずっと握りしめていたようだな。
敵は片腕にダメージも負っていたし、魔力の乱れで、ほとんど動けない状態だった。
それもあって割と簡単に奪えたのだろう。




