46. 封印を解く
ダークエルフの魔法により作られた、空中をただよう光の球。
その明かりを頼りに、地下へとつづく洞窟を進む。
しばらくし、目的の場所へと到達した。
「あれは……」
洞窟の先に魔法陣が描かれた扉が見えた。そこには、なにやら呪文を唱えているダークエルフが数人。
エルナーザさんが、その扉を指差す。
「あれがハイ・リッチ封印のキーになっている扉だ。あの先にハイ・リッチがいて、扉を開けば、同時に封印の解除が始まる。魔法で鍵がかけてあるから、今はそれを解いている最中だな」
なるほど。
「ハイ・リッチがいる場所は、かなり大きな空洞だ。聖樹様のお力で保っている場所で、隕石を召喚する魔法ぐらいは軽く耐えるそうだ。派手にやっても大丈夫だぞ」
星を落としたときの衝撃にも耐えるのか。
地下で使える魔法なのかはわからないが……、すごいな。
「ちなみに、森の中で見せた爆弾は?」
「魔力を乱し、魔法生物にダメージを与える爆弾だな。それも大丈夫なはずだ。魔力以外の力が混ざっていて、魔力の乱れとか封印に影響は受けないからな」
……そういや、イェタの城の施設も、この爆弾の影響を受けないそうだからな。
単に頑丈なだけかと思っていたのだが、あれも魔力以外の、何か特殊な力が混ざっているのかな?
「まあ、私は、その魔力に混ざった力を感知できないんだが……」
そんな呟きを漏らすエルナーザさん。
「あの力を感知できれば、聖樹様の声を聞ける巫女……その候補になれたんだがなー」
ちょっと残念そうだから、彼女は、その巫女というのになりたかったのだろう。もしくは、聖樹様の声を聞いてみたかったのか。
どちらにしろ、爆弾を使っても、地下空洞が崩れたりしないのはありがたかった。
「じゃあ、例の爆弾はガンガン使わせてもらいますね」
そう伝える。
「どんどん使ってくれ。転移石なんかも壊れたりはしないはずだからな」
うなずく彼女。
「あの爆弾を使えば、ハイ・リッチにダメージを与えられるかもしれないし、少なくとも動きは封じられるはず。魔法使い系の敵なのに魔法も使えなくなるはずだから、もう楽勝だろ」
ずいぶんと楽観的だ。
「殺せたら、地下の大空洞を薬草園として使えるようになる……。是非、勝ちたいところだな!」
そんなことも言っていたが。
「地下なのに薬草園として使えるんですか?」
「ああ! 聖樹様の力で、明るい、居心地がいい場所になっていたらしい」
そんな答えが返ってきた。
「ちなみにハイ・リッチを殺せなかった場合は、どうにかしてヤツの杖についた転移石だけ奪って再封印だ! 封印は聖樹様に負担がかかるので避けたいところだが」
聖樹様は大事な存在らしいから、できればハイ・リッチを倒したいところではある。
そんな会話をしていたら、横からダークエルフの男性が話しかけてくる。
「会話の最中すまないんだが、エルナーザ。神酒は、どうなっているんだ?」
おっと、あれは『倉庫』の中だ。
「今、出します!」
神酒や魔石から作った爆弾を『倉庫』から取り出した。
「おおっ、空中からビンが」
「若返りの秘薬が、あんなにたくさん!」
周囲から、そんな驚きの声が聞こえるが……ひとつ聞き捨てならない言葉があったな。
「若返りの秘薬……?」
「なんだ、ジュナンあたりから聞いてないのか? その神酒には若返りの効果があるんだぞ」
エルナーザさんの言葉に驚く。
「人間のような老化が顕著な生き物には副作用が強いみたいだから、トーマ君は飲まないほうが良いと思うが。友人についての記憶が消えたり、霊薬の作り方を忘れたりするらしい」
微妙だったな。副作用で、記憶が消えてしまうらしい。
エルナーザさんが、他のダークエルフたちに向き直る。
「とりあえず、こいつを矢とか槍につけてハイ・リッチに刺していくことになるからな! みなも用意してくれ」
そう言って、神酒を配る彼女。
「ハイ・リッチは、刺しても刺しても、傷などが回復していく敵だそうだ! だが、神酒をつけている限りダメージは蓄積する。敵の魔力を見ることができれば、それがわかるはずだ! あきらめるなよ!」
皆が、それに「おうっ!」と応えた。
まあ、魔力を乱す爆弾を使うから、『敵の魔力を見る』のは少し難しくなっているかもしれないが……
ハイ・リッチがいるという地下の大空洞へとつながる扉。
その前で作業をしていた女性がエルナーザさんに告げる。
「エルナーザ、封印の解除が、ほとんど終わりましたよ。あとは扉を開けば、ハイ・リッチと戦えます」
「わかった」
うなずいた彼女が、皆に向き直る。
「では、防御を上げたり、集中力を高める魔法などを使ってくれ! 魔力を乱す爆弾をハイ・リッチの近くで使う。かき消されないよう、しっかりとした魔法をかけろよ!」
そして俺を見る彼女。
「支援魔法は、ハイ・リッチの近くに行けば解けてしまう。しかし、弓矢などで離れて戦うぶんには、どうにか維持できるはずだ」
「はい。ここにくる道中に説明しましたが、俺も、そういう支援系の能力を使えるので、戦闘の前に使わせてもらいます」
城の主としての能力を高める『謁見室』という施設を、城を出る直前『宝物庫』と一緒に作った。
そいつのおかげで使えるようになった能力の一つだ。
城の住人の戦闘能力を強化する『戦の角笛』という力を使えるようになっている。
イェタに頼んで、エルナーザさんも城の住人に設定していたから、ヨシュアくんとエルナーザさんに俺。ついてきてもらった獣人の女性の、合計四人を強化することができた。
獣人の女性は、後方で矢などに神酒をつけるなどの作業をしてもらう予定なので、戦闘能力を強化してもあまり意味は無いのだが……
ハイ・リッチのいる場所が、どのようになっているかなど、エルナーザさんの話す声を聞きながら戦いの用意をする俺達。
ハイ・リッチは転移石を利用したショートテレポートなども使うそうだが、それは聖樹さまに封印されているのだとか。
俺も魔石から作った爆弾を皆に配り、使い方を説明した。
「それでは、行くぞ!」
エルナーザさんが大空洞への扉を開き、封印は解除される。
こうしてハイ・リッチとの戦いが開始されたんだ。




