43. 情報源
町を出て、イェタやウニと草原を歩く。
ユモン・スカルシアという貴族が傭兵などを集めていて、もしかしたら、そいつらが攻めてくるかもしれない。
殲滅をしてしまうのは簡単そうなんだが、ビリー達のような普通の冒険者も雇われているんだよな……
彼らの他に、俺の知り合いの傭兵や冒険者が雇われているかはわからないが。
「攻めてきた人間を殺さないで、どうにかできるのか?」
「うん! いつもの板が出て、なんか『大転移クリスタル』っていう施設を作ればいいみたい!」
「……今まで、聞いたことがない施設だよな?」
俺の確認に、うなずく彼女。
「何回も何回も城レベルアップを繰り返して、けっこう後のほうで作れるようになる施設なんだって!」
……そんな城レベルアップを繰り返している時間は無さそうなんだが。
「なんか、『宝物庫』に伝説級のアイテムを入れると、そのアイテムに応じた施設が開放されることがあるみたい!」
なるほど。
その伝説級のアイテムとやらを手に入れれば、今の城レベルでも、彼女の言う『大転移クリスタル』という施設を作れるようになるのかな。
『宝物庫』は、城の主とイェタ専用の『倉庫』みたいな能力と聞いていたが、それ以外の能力もあったようだ。
「その施設を作るのに、どんな物品を手に入れればいいのかはわかっているのかな?」
「うん! 説明が文字化けしていて読めないところが多いんだけど、『大転移クリスタル』なら『転移石』ってアイテムを『宝物庫』に入れれば良いみたい!」
彼女が続ける。
「いろいろ制限はあるみたいだけど、その施設があると『城』をまるごと、どこか別のところにテレポートさせられるようになるんだって!」
……城をどこか別の場所に移動させることができるのか。
文字化けってのがよくわかんなかったけど。
「とりあえず、その能力があれば、傭兵達からはとりあえずは逃げられそうかな」
「施設を作るのに、大量のポイントも必要みたいだけど……」
つまり『転移石』を手に入れる必要と、どこからか魔物の死骸を入手する必要があるのか。
「きゅっ!」
会話の途中だったが、いつの間にか森の近くに来ていたらしい。
ウニが何かを伝えようとしている。
「エルナーザさんが、すぐ近くにいるって!」
エルナーザさん……ウニの元主人は、俺達に急用があるらしかった。
「きゅっ!」
ウニの指差す先、森のほうから、その彼女が出てきた。
「おおっ、良かった! トーマくんと会えたか!」
「今日は、どうしたんですか?」
俺の質問に、どこか言いにくそうな彼女。
「うむ、それなのだがな……。例の裏切り者がいただろう?」
ダークエルフの巫女を罠にかけ、ユモン・スカルシアとも関係があると予想されるダークエルフのことだろうか。
「そいつに君たちの城の場所などがばれていたかもしれない」
あー、もしかしたら、それでかな。
「ユモン・スカルシアが傭兵を集めているという情報を冒険者ギルドでもらいましたから、そいつのせいかもしれませんね」
そんな前置きをして、彼女にガルーダさんからもらった情報を伝える。
「多分、我らのせいだな……すまない」
謝る彼女。
「一人、呪気を使った洗脳をされていてな。あんな使い方ができるとは思っていなくて……」
ずいぶんと予想外のことをやられたようだ。
「巫女さま以外には、君たちの情報はあまり伝えていなかったのだが、それでも城の位置や、ここがシルバーサフの供給元であることが漏れてしまった」
彼女の言葉から、俺の名前なんかは伝わっていないのかもしれないなと考える。
「そいつは、なんで俺たちの城を狙っているんですかね?」
「我らの巫女が、シルバーサフなどを使い『呪気』を清めているんだが……。多分、あいつは、それを止めさせたいんだと思う」
「シルバーサフの供給元になる俺たちの城を狙ったってことですか?」
「推測だが……。単純に、君たちの城に興味を持っただけかもしれないがな」
「そうですか……。……ちなみにエルナーザさんは『転移石』というアイテムのことを知っていますか?」
「……知っているな」
おおっ!
「我らの集落の近くに『ハイ・リッチ』というアンデッドが封印されている。我らの集落を襲った敵で……たしか、そいつが持っていたはずだ」
「それが、必要なんです!」
難しい顔の彼女。
「……といっても、そいつから『転移石』を奪うには、封印を一度、解く必要がある。貴重な秘薬を使って、ようやく弱らせて封印した敵だそうだから」
彼女が訊ねる。
「さすがにトーマくん達でも、ゴールド・サフは作れていないだろう? あれは我らの薬草園でも育てることができていなくて……」
ゴールド・サフ……聖なる金色に輝くお酒ができるサフは、イェタの薬草園にあった!
「それがあれば、『転移石』が手に入るんですか?」
「ああ。だが、あれは自然にしか生えてこない……我らダークエルフでも二十年に一本ぐらいしか手に入らない貴重なサフだから――」
「そのサフあります! 『転移石』を奪うのに協力してください!」
逃がさないぞ、という風にエルナーザさんの手をがっちりとつかんで、俺は頼んだのだ。
「あ……ああ。我々のせいだからな。できるだけのことはさせてもらうが……。……本当に、ゴールド・サフ、あるの?」
彼女から、そんな言葉を引き出した。




