41. 名も告げず
魔動タンクを倒し、しばらく後――
「いやー、助かりました!」
俺は両手を握られ、子供の父親らしい人からお礼を言われていた。
「本当に倒したのか……」
「こんなに堅いのになー」
魔動タンクをペタペタと触っている人もいるが。
困ったな……
村から離れたところで魔動タンクを倒せていたら、『倉庫』を使って、簡単に回収できたんだが、今は人目がある。
どうしようかと、その人たちを見ていると声をかけられた。
「あのゴーレムは、どうされるつもりなのですかな?」
この人には自己紹介をしてもらっていた。
村長さんらしい。
「一応、持ち帰るつもりでしたが……」
「おー、ということは、ギルドのほうで『運び人』か何かの手配をされているんですかな?」
荷物や魔物の死骸を運ぶ仕事をする冒険者などのことだが。
「えっと、まあ、そのような感じで」
言葉を濁す。
「そうですか」
うなずく村長。
……とりあえず、この人に頼んでみるか。
「あの……魔動タンクの近くに他人がいるのを、あまり好かないのですが」
竜の死骸からウロコを盗まれたり、そんな問題もある。
俺の行動は、冒険者として、とくに不思議なものではないはずだが……
「ああ、強い魔物の死骸などは財産でもありますからな。わかりました。あの者たちを帰らせて、ここら辺りに村人を来させないようにしましょうか」
そう言った村長が、他の人々に号令をかけると、皆は村に帰って行った。
よし……
あたりを見回す。
一応、視線は林で隠れているな。
「……人は、もう、いなさそうかな?」
ウニに訊ねると「きゅっ!」と、うなずかれる。
「よし、じゃあ、イェタ。魔動タンクを『倉庫』に入れられるかな?」
「試してみるっ!」
彼女がタッチすると、『魔動タンク』が消えた。
うん、もう、この村に用はない。
「怪しまれて、いろいろ聞かれる前に、逃げようか!」
魔動タンクは、運び人か何かが来て、いつの間にか運び去ったんだと勘違いしてくれるさ……!
俺は、急いで村を立ち去った。
村人たちに、名前は告げてないし、彼らが詳しく調べようとか思わなきゃ大丈夫だろう……
「さて……、この街道からだと、町のほうが近いんだけど」
「町、行ってみたい!」
イェタの言葉。
城に向かうと、途中で夜になりそうだから、好都合ではあるんだが……
「……ウニは、町は大丈夫かな?」
「きゅっ!」
元気のいい返事だが。
「みんな行くなら、ウニちゃんも行くって!」
じゃあ、町で宿をとろうか。
ついでに冒険者ギルドで、魔動タンクの討伐も伝えよう。
トコトコと道を歩いて、町についた。
「おおっ、人がいっぱいいる! でも建物は、わたしのほうがスゴい!」
建物たちにライバル意識を燃やしているイェタ。
多分、城と周囲の建物を比べているんだろうが……
「……とりあえず、冒険者ギルドに行こうか」
ウニを肩の上に乗せ、イェタと手をつなぎ、人々の中を歩く。
「あっ、あそこで、アメが売ってる!」
指を差して、そちらに行こうとするイェタ。
しかたないな……
「……夕食が食べられなくなるから、一個だけね」
店でアメを買う。
「あっちの、もしかして本屋!?」
彼女は絵本とかも好きだから。
「……ちょっとだけのぞいてみようか」
適当な本を見つくろって、そこを出た。
「あっ、トーマ、あれ子猫じゃない!? かわいーっ!」
絵本を買って出たところで、にーにー鳴いてる白い毛玉を発見。
どっかに行っていた親猫が迎えに来るまで、子猫を、なでくりまわすことになった。
そんな感じで、たびたび立ち止まり、いつもは三十秒ぐらいで通り過ぎる場所を、三十分ぐらいかけて歩いたよ……
「ここがギルドかーっ!」
到着したギルドの中、元気いっぱいに、あたりを見回すイェタ。
B級昇格試験の魔動タンクを討伐したことを知らせたいのだが、今日は受付嬢のサリーさんが見当たらない。
ギルド長のガルーダさんを呼んでもらおうかと考えていたら、肩の上に乗せていたウニが鳴き声をあげた。
「……きゅっ?」
「どうかしたのか?」
俺に「きゅーっ!」と答える彼女。
うん、わからないな……
イェタを見る。
「なんかエルナーザさんが、こっちに向かってるんだって!」
ウニの元主人……ダークエルフの女性の名前だ。
「町に用事があるのかな?」
「わたし達に用事があるみたいよ! 急用だって!」
「急用か……。出迎えに行ったほうが良さそうな気がするけど」
そんな会話をしていたら、「あっ!」という驚きの声が聞こえてきた。
見ると、俺を指差しているサリーさんの姿が……
いつの間にかギルドの奥から出てきたらしい。
「ギルドに来てたーっ!」
冷静な、彼女らしくもない声だな。
その声を聞いて、さらにガルーダさんも出てきて。
「ナイスだ! 連れ込め! こっちに連れ込め!」
何ごと? と思いながらも、俺はイェタと一緒に、いつもの個室に引きずられるように入ることとなった。
エルナーザさんも急用があるみたいだし……一体、何事なんだろうな。
サリーさんは真剣な表情で……。それが俺を、すこし不安にもさせた。




