40. 魔動タンク
村の近く、草原にポツリとあった林。
その中の広場で、木の上に逃げた子供を見上げながら、前足を高く上げ威嚇するようなポーズを取る蜘蛛のゴーレムを見つけた。
あれが『魔動タンク』か。小屋ぐらいの大きさがある。
全身金属でできており、脚を地面に振り下ろすたび、ガシャンガシャンと言う鋭い音があたりに響いていた。
子供は無事だが……
「それにしても、なんか様子がおかしいな」
がんばって体を伸ばせば、木の上の子供に、脚が届きそうなんだが。
周囲でオロオロしている村人もいるが、『魔動タンク』は彼らを無視していた。
「なんか、あの『魔動タンク』、子供を殺す気はないみたいよ!」
その言葉に振り返ると、イェタだ。
ウニを抱えている。
「たんに、悪いことをした子供を脅かしているだけみたい! 小石を投げつけたぐらいなら、戦闘にはならないんだって! 剣とかの武器も用意すると危ない!」
……いつもの、彼女にしか見えない、不思議な板が出ているのか?
城の設備以外でも、情報が出てくることがあるのか。
「……じゃあ、あの魔動ゴーレムは、ほっとけば、いずれ沈静化するのかな?」
「五日間ぐらいで止まる!」
……長いな。
「それ以外に、止める方法は?」
「なんか、最初の『魔動タンク』が作られたころの言葉で、あの子が『ごめんなさい』って言うと止まるみたい!」
たしか『魔動タンク』が作られたのは伝説の時代と言われていた。
人類が滅びかけたという『大破壊』の前の時代。
今と言葉が違ったはずだし、イェタの板に出てないなら、その言葉をわかる人は少なそうだ。
「犯罪者の基準とか、あの『魔動タンク』はいろいろ時代遅れになっているから、野放しは危険だって! 討伐推奨って書いてあるよ!」
なるほど。
「むき出しになっているエンジンや、カメラを狙うといいって! 体正面についてる、青や赤に光ってる宝石みたいなのがカメラだよ!」
よくわからない単語もあったが。
「なら、戦うしかなさそうか」
そう判断した俺は、ポケットの中の、魔石から作った爆弾に触れる。
握りこぶしほどの、白く濁った結晶――
魔力を込め、爆発するように念じながら投げると起動する。
周囲の魔力などを乱し、ゴーレムなどの魔法生物などに大ダメージを与えたり、動きを止めたりするアイテムだ。
作ってもらったこいつは、伝承にあるよりも爆発力が小さいそうで、そこは、ちょっと不安要素なのだが……
「気をつけてね!」
イェタにうなずき、俺は『魔動タンク』に近づいていった。
周囲でオロオロしていた村人たちが、こちらに気がつく。
ついでに、子供を脅していた『魔動タンク』も気がついて……
体を斜めにかしげ、『なーに?』という風に、こちらを見ているんだが。
何で、こんな可愛いポーズを仕込んだんだ。
そんな疑問を作成者に抱きながら、ポケットの中の結晶……爆弾に魔力を込めていく。
「戦闘を行います。離れて」
警告を聞いた村人たちが、あわてて遠くに行ったのを確認。
だが、魔動ゴーレムと子供のいる木の距離が近い。
このまま爆弾を投げると、子供にも影響が出そうで……
たしかあの子は、小石を投げつけたから、あんな風に脅されているんだったか。
イェタによると、そのぐらいなら戦闘にならないそうだし。
ためしに石を拾い、やつに向かって全力で投げてみる。
「おっし!」
怒った『魔動タンク』が、俺に向かってノッシノッシと歩き出した。
子供のいる木と、『魔動タンク』の距離が離れたぞ――
「くらえや!」
結晶を取り出すと、『爆発しろ』と念を込め、そいつを投げつけた。
胴体に当たった、それが『ボン』と音を立て爆ぜる。
――戦闘の幕開けだ!
こうして自らを奮い立たせながら、追加の爆弾を用意。さらに片手に弓を取り出したのだが……
「……あれ?」
なんか『魔動タンク』の様子がおかしいな。
ガクガクと、体を震わせている。
戸惑っていると、そのうちに体全体の力が抜け、ガシャンと地面に倒れ伏せてしまった。
体正面についている宝石……イェタが『カメラ』と言っていた部分の光も、消えていて……
冒険者ギルドでもらった資料によると、機能停止しないと、この光は消えないって話だったんだが。
……よくわかんないけど、今のうちに、弱点を攻撃しとくか。
そんな風に、カミナリの矢を用意していたらイェタから言葉がかかった。
「なんか『魔動タンク』を倒せたって!」
……えっ?
「あの魔石から作った爆弾、ずいぶんと効果が高いものだったみたい! 普段なら数発必要だけど、一発で倒せたって書いてある!」
そうなの?
ジュナンが、『爆発の威力が、聞いていたものと違って、小さい』と悩んでいたアイテムだったのだが。
爆発力とは逆に、ゴーレムなんかを攻撃する能力は高くなっていたらしい。
イェタの工房を使って作ったから、優良なアイテムができたのだろうか。
肩透かしを食らったような気分なのだが……まあ、簡単に倒せたのなら良かったのか?
「……とりあえず、あの子を木からおろさないとな」
気を取り直した俺。
村人達が喜ぶ声を聞きながら、木の上の子どもに近づいていった。