39. 二人旅
魔動タンクをどうやって持ち帰ろうか考える俺に声がかけられる。
「……なら、わたしが一緒に行こうか?」
言ったのはイェタだ。
「わたし、『倉庫』を使うのに、そんな魔力いらないから、たぶん、小屋ぐらいの『魔動タンク』も入れられるよ!」
「おおっ!」
イェタの言葉に、ジュナンの顔が輝く。
俺を期待したように見ているんだが……
ここまでキラキラした目で見られるとダメとは言いにくいな。
どうせニ日ぐらいで帰る予定だったし。
「わかった。じゃあ、イェタと一緒に村へ行って、『魔動タンク』を持ち帰るよ」
「やったぜ!」
すごく喜んでいた。
「お礼に魔石から作る爆弾も、カミナリを落とす矢も、がんばって量産するからな! ……ちなみに、この矢って獣人たちに少しあげてもいいかな?」
そんなことも聞かれたが。
「もちろん、かまわないけど。何に使うんだ?」
「おう! なんか、戦士……トーマさんがニ、三日いなくなるのが不安みたいだな。夜が怖いって言ってた。なんで、お守り代わりに、渡しておこうかと思って!」
……イェタの城にいれば大丈夫だと思うが、森の奥で過ごしたことがトラウマになっているのだろうか。
『兵士』の職業で戦闘能力をかなり取り戻したルマールさんや、『弓兵』の職業を持つ青年もいるのだが、まだ信頼を得られていないようだ。
「もう一人……『兵士』か『弓兵』の職業を、誰かに付与するか。もしくは『魔動投石機』あたりを、もう一台作ると安心できるかな?」
城の敷地外だと動かなくなってしまう兵器達だが、城の敷地内なら最強の能力を誇る。
「ああっ! 目の前で洞窟竜を倒した武器だし、『魔動投石機』が良いかもな。今は投石機が一台に、連弩が二台ある。もう一台足せば、城の四方に設置できるぜ!」
俺の言葉に、ジュナンがうなずいた。
まあ、『魔動投石機』は車輪がついていて、ゆっくりとだが前後左右に動ける。石壁とかに設置してある『魔動大型連弩』も、左右に動けて城を一周できる。
今の状態でも、四方八方の敵に対応できそうではあるが……
「あとは、あの兵器が『城の住人』とかでも使えるかどうかだけど」
イェタを見ると、彼女にうなずかれた。
「『城主』じゃなくても、事前に設定しておけば使えるみたい!」
なら、ルマールさんかジュナン、『弓兵』の青年なんかに任せればいいだろうか。
今日は、ルマールさんたちは採掘をしていて、狩りはしていないはず。
しかし、俺がゴブリン三体とイノシシの魔物一体を倒している。
帰りにも、鹿の魔物一体とオオカミの魔物二体を倒しているから、合計で五十ポイント。
前に使わなかった五ポイントも足すと、五十五のポイントがある。
五十ポイントの魔動投石機は、問題なく作れるはずだった。
「じゃあ、ちょっと、この件について獣人たちに相談してくるか……」
獣人に、それを伝えに行ったところ、かなりホッとした表情をされてしまった。
ずいぶんと、不安がっていたようだ。気がつけてよかったな。
翌日――
「早く帰ってきてくださいね……」
そんなことを言われながら、キュッと手を握られた。
これが女性なら嬉しかったんだけど、俺の手を握っているの、『弓兵』の青年なんだよね……
俺がいなくなることを心配している筆頭が、彼だったらしい。
「で、できるだけ、がんばるよ」
そう彼に告げる。
石壁の門で見送る獣人達にも「よろしくお願いします」と頭を下げて、『魔動タンク』が出たという村へと出発した。
魔動タンクを『倉庫』に入れる係りのイェタ。
それとイェタを連れているときに、魔物に襲われるのも避けたいため、ウニも一緒に来てもらった。
ウニは人が多いところが嫌いな様子だが、ちゃんとついてきてくれている。
このウニのおかげで、魔物には一度も出会うことなく、森を抜け……
そして草原を見たイェタが、目を丸くした。
「わーっ! 木がない!」
……そういえば、彼女はずっとあの城にいたんだっけか。
こういう風景を見るのは、生まれて初めてなのかもしれない。
遠くを見たりで、「うわー!」とか「おーっ」とか声をあげている。
話を聞いたところ、地平線が見えることや、草たちが風でいっせいに揺れる様子が珍しいようだ。
しかし、あっちこっちに目をやっていて、少し目を離すと迷子になっていそうで……
「……イェタ、手をつなごうか」
差し出した手を、きょとん、とした顔で見る彼女。
しばらくして意味を理解したのか、「うん!」と嬉しそうにうなずいていた。
これで、『気がついたら、イェタが、どこかに消えていた』なんてことは防げるはず……
魔物の警戒はウニに任せると、あとはイェタの歩幅にあわせ、とことこと村へと進んだ。
「家がいっぱいあるねー」
「きゅっ」
魔物よけの石の塀がある村。
塀の向こうには、屋根などが見えた。
門は……あそこか。
なんか人々が右往左往しているが。
「すみません、冒険者ギルドで依頼を受け『魔動タンク』……、蜘蛛型のゴーレムの討伐に来たのですが」
そんな言葉を投げた途端、視線がいっせいに集まってきた。
なんだ? と思っていると、中年の男性が、俺の腕を取る。
「こちらに来てください!」
グイグイと引っ張られるまま、村から離れる方角へ進む。
「ど、どうされたんですか……?」
「子供が、あの蜘蛛のゴーレムに石を投げつけまして! 襲われているんです!」
げっ、それはマズい。
よく耳をすませれば、鉄のゴーレムが暴れるようなガシャンガシャンという音も聞こえてきて……
「あっちですね!」
その問いに、うなずいた男性を残し、音の方向へと駆け出した。




