37. 失伝霊薬
ビリー達のため、預けていた王金貨などを返してもらい、冒険者ギルドを出る。
町で獣人たちの生活必需品や、お土産を購入。魔物を倒しつつ、城まで帰った。
「トーマ、お帰りーっ! ポイント八十になったよーっ!」
石壁の門で出迎えてくれたのはイェタだ。
今日は、イノシシの魔物一体と、鹿の魔物一体。
帰る途中に、オオカミの魔物二体とゴブリン三体を倒している。
「俺のだけで五十ポイントだから……。ルマールさん達が三十ポイント分の魔物を倒したのか」
「うん! 午前中にゴブリン一体! 午後にゴブリン二体を持ち帰っているよ!」
それで三十ポイント。
彼らの狩りは、好調のようだな。
「トーマは、町はどうだった?」
「いい感じだったよ。……それで、今度B級昇格試験を受けることになったんだけど、ジュナンに作って欲しい矢があるんだよ」
「ジュナンちゃんなら、たぶん、工房だよ! 来て!」
イェタに連れられ、ドワーフの職人、ジュナンのところへと向かった。
「おっ、トーマさん、帰ったかー」
木工工房で矢をいじっていた彼女が、部屋に入ってきた俺を発見する。
「調子はどうだ?」
「大体、道具の使い方は把握したな! トーマさんの弓とか剣も、問題なく鍛えなおすことができそうだぜ!」
おおっ、それはスゴい。
時間があるときに、お願いしたいな。
「トーマさんは、それについて聞きに来たのか?」
「あっ、いや、そうじゃなくて……ちょっと頼みがあるんだけど」
俺は魔動タンク……黒神サクが作った蜘蛛型のゴーレムについての資料を取り出した。
「こいつを倒したいんだよ」
「魔動タンク……サクのゴーレムか。魔石から作る爆弾があれば、簡単に討伐できるそうだが」
ん? 魔動ゴーレムに効果がありそうな、カミナリを落とす矢が欲しかったんだが。
「魔石から作る、爆弾?」
「うん。小規模な爆発と同時に、周囲の魔力をかき乱して、ゴーレムとかリッチとかの魔法生物の動きを止めたり、大ダメージを与えるアイテムだな」
……周囲の魔力をかき乱すってことは、魔法も使いにくくなるのかな?
ガルーダさんも、大昔は、もっと簡単にこいつを倒すアイテムがあったと言っていた。
それが、この『魔石から作る爆弾』なのだろう。
「魔動タンクでも一個投げれば動きが止まり、もう一個か二個投げてやれば倒せるって話だ」
「それは、スゴいな」
「ただ、原材料の一つの作り方が失伝しているから……。今、その爆弾を保存しているのは、魔術師ギルドぐらいなんじゃないかな」
魔術師ギルド……
研究資料用として持っているんだろう。
「そこじゃ、ちょっと手に入れられないか」
「うん。まあ、失伝した原材料……とある霊薬なんだが、そいつの作り方さえわかれば、他の部分は伝承もある。けっこう簡単で、私も覚えているから、この爆弾は作れるんだけど」
首を振る彼女。
「その霊薬――赤く輝く液体の中、小さな稲妻のようなものが走る霊薬なんだけど……。それは誰も再現できていないんだよ」
……ん?
赤く輝く液体の中、小さな稲妻のようなものが走る霊薬?
それ、どっかで、見たことあるぞ……
たしか、唐辛子の霊薬を濃縮したものが、そんな特徴を持っていた。
どんな風になるのか、川原で、その霊薬が入ったビンを割ったことがある。
大炎上して大変だったが……
「……なー、ジュナン。その霊薬って空気に触れたら、こう……すごく燃え上がったりするのか?」
「おっ、なんだ、トーマさんも知っていたのか。そうだぜ! 博識だな!」
間違いなく、それだ。
えっと……、唐辛子の濃縮霊薬は……『倉庫』の中か。
「それって、この霊薬じゃないかな? 唐辛子の霊薬を濃縮したらできたんだけど」
「はっはっは、トーマさんも冗談が過ぎるぜ。唐辛子なんかから、あの霊薬ができるわけが――」
そう言いながら霊薬を受け取った彼女が無言になる。
「こ、こここ、これは……」
手が震えた彼女。思わず霊薬を落としそうになり――
「うおーっ!?」
ビンごと、彼女の手を支える。
落として割れたら大惨事だ……
「トーマさん、多分、これだよーっ!」
ずいぶんと興奮している。
「さっそく試してみなくっちゃ! あっ、材料に魔石も使うから、それも欲しいんだけど……!」
「うん、わかった。明日、町へ行って買ってくるよ」
「頼みます! それと、特殊な道具も必要で……それは多分手作りできるんだけど、必要なデミル鉱石と……、宝石も足りないかな」
そう言うジュナン。
「その、鉱石や宝石は、町で買えるのかな?」
「デミル鉱石は、ダークエルフたちに頼まないと」
そうか。でも彼女たちは、いつ来るかわからない。
イェタの作る施設、鉱石採取所なら採取できるか?
「イェタ、『地下鉱石採取所』を作れるかな」
「うん! 八十ポイントあるから、七十五ポイントのこの施設は作れるよ! 今、作る?」
「頼むよ!」
ジュナンと一緒に、部屋の外に出たイェタを追う。
廊下の行き止まり。
「作るよー!」
宣言の後、床がピカッと光り、そこに地下への階段ができた。
下に降りていくと、どこか自然の洞窟を思い起こさせるような部屋がある。
地面には瓦礫のような石や岩が転がっていて……
「地面に転がっている石とかが全部、何かの鉱石だよ! 宝石なんかも採れるって! 金や銀、魔力のない宝石ぐらいまでなら、ここから採れる!」
おう……
「鉱夫の技術が必要だけど、壁を掘れば魔力を持つ鉱石や宝石を採掘できる! 城から離れる方向に掘っていくほど良い物が出て、一番奥ではオリハルコンも採れるって!」
「おっ!?」
ジュナンが、ものすごい反応している。
「採った鉱石は一日たてば補給されるし、壁や床に掘った穴も、一日たつと元に戻るよ!」
……オリハルコンは、掘るのに城から離れる方向に向かっていかなきゃならない。
なのに、壁とかの穴は、一日たつと埋まっちゃうらしい。
貴重な鉱物は、採掘しづらいようになっているのだろう。
「よっしゃ、燃えてきたぜ! オリハルコンを掘ってやる!」
ジュナンが、そんな決意表明をしていたのだが、必要なのはデミル鉱石と、なんか宝石だったよね……?
オリハルコン目指すなら、魔動ゴーレムを倒すためのアイテムを作ってからにしてくれると嬉しいな……




