36. B級昇格試験
ダークエルフ達からの情報を、ギルド長のガルーダさんに伝えた。
「なるほど……、そんなことになっていたのか」
うなずく彼。
「トーマの言うとおり、やっかいなやつとユモン・スカルシアがつながっているみたいだな……。だが、森の薬草不足が解消するかもしれないってのは朗報だ」
「そうですね……」
そんな会話をしていたら、ガチャリと扉が開きサリーさんが入ってくる。
薬草の鑑定が終わったらしい。
持っているトレイには王金貨六枚と、金貨や銀貨。
いつもは王金貨三枚ぐらいの報酬なのだが、ダークエルフからもらった薬草も渡したため、その倍の報酬となったようだ。
「今日のぶんで、トーマさんに頼んでいた薬草は全て納入となりましたよ」
彼女の言葉。
レドヒール草の葉百枚など、どんな薬草がどのぐらい欲しいのか、リストをもらっていた。
それを全部、ギルドに渡し終えたようだ。
「おおっ、スゲーな。半年ぐらいで終わってくれればと思っていたんだが、半月もかからなかったか」
ガルーダさんが感嘆していたんだが、半年かけて良かったの?
「これだけあれば、あとはどうにかなります。ただ、常に品薄の庶民に必要な薬草もありますから、ここら辺を、たまーに持ってきてくださるとありがたいですね」
サリーさんから新しいリストを渡された。
こっちは、たまーに持って来れば良いらしい。
「トーマからもらったダークエルフ達の情報についても礼をしたいんだが……。金は、いるか?」
ガルーダさんから聞かれたが……
「……使い道がないんですよね」
ちょっと前なら、王都やドワーフの町に良い武器を買いに行く手もあった。しかし、今はドワーフの職人、ジュナンがいる。
彼女が城の工房で作る武器のほうが高性能だろう。
「じゃあ、それについてはこっちで何か考えるわ。あっ、あと、これも渡しとくな。ビリーの借金のときに、手助けしてもらった礼だ」
……たしか、ビリー達の一件は、俺からの依頼でギルドが動いたことになっていた。
『貢献度の高い冒険者からの依頼』ということにして、ガルーダさんが動きやすいようにしたんだ。
「俺は何もやっていないですけどね」
そう言いながら、ガルーダさんが差し出していた紙を受け取った。
「これは……」
B級昇格試験と書かれた紙。
「トーマが、B級昇格試験を受けられるようにしたぜ!」
おおっ。
「ついこの間、C級に上がったばかりなんですが、いいんですか?」
「おう! パープルサフを鼻薬に使ったときにな、ついでにこの件も押し込んでみた!」
賄賂を使って、どうにかしてくれたらしい。
「ギルドが用意した依頼をこなすだけで試験クリア。試験の監視員もついてこない。貴族なんかと同じ形式の試験内容だ!」
……箔付けのために冒険者になる貴族もいるんだが、彼らは、違法な毒物を使ったりして強い敵を倒し、冒険者ランクを上げたりする。
そういう毒物なんかを使いやすいように、またズルをしやすいように、監視員などがついてこない形式の試験があるのだろう。
ガルーダさんは、俺が毒を使ってオーガなどを仕留めていることに勘付いているのかもしれない……
「まあ、B級に上がってなんか問題があったら、言ってくれればC級に戻すからな」
ガルーダさんの言葉に「はい」とうなずく。
B級になると、ギルドもいろいろな便宜を図ってくれるようになるし、いろいろなことができるようになる。
もしかしたら、城の獣人たちを、この国の正式な住民にしてあげる手助けもできるかもしれない。
ここは、がんばりどころだろう。
「昇格試験は、どんなものになるんですかね?」
「おう! 普段はいくつかから選べるんだが……今は一つしかないな。『魔動タンク』という名のゴーレムの討伐だ」
訊ねた俺に、新しく数枚の紙を渡す、ガルーダさん。
「近くの村に出現したみたいなんだが、人はあまり襲わない敵だから、時間的余裕はあるな」
……『あまり』ということは、ちょっとは襲うのか?
できるだけ早く倒したほうが良さそうか。
渡された紙には、敵の情報が記されている。
蜘蛛の形をした、自己増殖もできるゴーレムなのだそう。
敵の数は一体だけ。しかし、小屋ぐらいの大きさがある。
全身がほぼ金属でできているのだが、イカヅチ系の魔法なんかを、ゴーレムの弱点となる場所に当てて倒すのだそうだ。
高価だが、そういうイカヅチのようなものが発生するアイテムがあり、それを使って倒す場合もあるらしい。
なんでも、伝説の時代、黒神サクが作ったとされるゴーレムだそうで……
聖剣の英雄王に聖剣を与えたりした神様だが……。たしか、異世界から来たという伝承もあったかな。
「……やっかいな敵ですね」
俺の言葉に同意するガルーダさん。
「ああ……。大昔は、もっと簡単にこいつを倒すアイテムがあったって話なんだがな。今は、魔法使いの力を借りるか、高いアイテムをいくつか用意して倒すことになる」
……金はかかりそうだから、貴族向けの依頼ではあるのだろうか。
「時間を置けば、他の依頼を手配できるが……」
ガルーダさんに、首を振る。
「いえ、これでかまいません。お金はありますし、イカヅチが発生するアイテムにも心当たりがありますので」
ドワーフの職人、ジュナンが、当たった場所にカミナリのようなものを落とす矢を作っていた。
あれを使えばいいだろう。




