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34. 狩り

 森での狩り。


「きゅっ! きゅっ!」


 いつも通り、従魔のウニが森を先導していたのだが――


「おっ、あそこに鹿の魔物の足あとがありますな!」


「きゅっ!?」


 ルマールさんが、ウニよりも先に魔物の痕跡を見つけてしまった。

 『足あとを見つけるのは得意』と言っていたが、本当だったようだ。


「こちらですぞ!」


 彼の先導により進んでいく。


(……見つけたな)


 イノシシの魔物だ。

 気がついていない青年に、手で魔物の存在を示す。


 今日の俺は、サポートをメインにするつもり。

 ルマールさん達の様子を見たいからだ。


 青年が、弓矢を構え、魔物に近づいていく。だが……


(あっ)


 枝を踏む青年。いい感じにパキっという音が、森に響いた。


 イノシシと目が合う。

 こちらが新米冒険者だったりで、弱いと見ると襲ってくる魔物なのだが……


「逃げられましたな」


 ルマールさんの言葉。

 青年が慌てて矢を射ていたが、外れていた。


 弓矢はうまくなったようだが、それ以外の部分は元のままなのか……


 あの魔物は、こちらが相手に気がついていないときや、人数が少なかったりしても襲ってくることがある。


「……もしかしたら、俺がいなかったら、うまい感じに襲ってきてくれたかもしれませんが」


 ルマールさんと青年の二人だけであったら、人数も少ない。

 そのまま戦闘になった可能性もあった。


「いえ、その分、安全になっています。彼にとっては最初の狩りですから、このぐらいがちょうどいいかと……。それに、トーマ殿がいれば『倉庫』という不思議な力も使えますからな!」


 なるほど。


「獲物に関しては、逃げられる前に矢を当てればよいだけ。足音を立てずに魔物に近づけるように、今日は、こやつをビシバシ鍛えますぞ!」


 その宣言のとおり、ルマールさんは、魔物を見つけては青年をけしかける作業をこなしていった。

 青年も慣れてきたのか、鹿の魔物一体とゴブリン二体を倒していたな。


 矢が刺さったまま逃げる獲物とかがいたのはもったいなかったが……

 本当は、麻痺毒なんかを貸せばいいんだが、誰かに見つかると俺に迷惑をかけるかもしれないと遠慮されてしまった。


 普通の人々が毒を持つのは禁止されているからな。ずっと森の中にいるのなら、問題にはならないと思うのだが。


「さあ、次に行きますぞー! おっ、あそこに足あとがありますな!」


 ……ルマールさんは、こういうのを発見するのが本当にうまい。

 魔物を発見する役割のウニが、落ち込んでいるほどだ。


 だが、そんなウニが役に立つときがくる。


「きゅっ……?」


 止まって、ある方向をじっと見ているウニ。


「どうしたんですかな?」


「これは、強い敵がいるときの反応ですね」


 ルマールさんの疑問に答える。


「オオカミの魔物の群れですかな?」


「……ウニが、あまり緊張していません。多分、ゴブリンの群れじゃないですかね」


「おおっ、それはちょうど良い! 森でゴブリンから逃げる練習をしましょう! 今日はトーマ殿がいますから、無茶もできます!」


 心配そうな青年を引き連れ、ルマールさんが魔物がいる方向へ。

 初日から厳しいな、と思いながら一緒について行き、彼らの訓練に付き合った。


 六体のゴブリンの群れから逃げる途中、青年が木の根に足をとられて転んだりしたが、無事に一日の狩りを終えた。


 ウニも襲おうとしているオオカミの魔物の群れを事前に察知したりと有能なところを見せていたな。

 群れになると、けっこう強い魔物だから、刺激臭のする唐辛子の霊薬で追い散らしたが。


「初日にしては、まあまあですな!」


 満足そうなルマールさん。


 今日青年が狩った獲物は、鹿の魔物一体とイノシシの魔物一体、ゴブリン二体。

 逃亡の練習に使ったゴブリン六体も、練習終了後、俺が仕留めているので、ポイントもそれなりだ。


「トーマーっ! ポイントが百十になったよーっ!」


 石壁にある門で、城に帰還した俺達を、イェタが迎えてくれた。

 ルマールさんのお孫さんの姿も見えるな。一緒に帰りを待っていてくれたようだ。


「あとジュナンちゃんが、当たった敵にカミナリみたいなのを落とす矢を作った!」


 カミナリ、みたいなの?


 ジュナンとは、鍛冶工房を任せているドワーフの少女のことだが……


 不思議に思いながら、イェタが指差す先を見ると真っ二つになった、黒焦げの木の姿が。


「ピュって撃ったら、バーンってなって、ゴーって燃えた! すごいの!」


 多分、当たった敵にカミナリっぽいものを落とす矢を、あの木に向かって放ったのだろう。


「他にも、違う効果を持つ、魔法の矢を作ったみたい!」


 へー。


「どんな効果なのかな?」


「ん? えっと……、……なんか、きれいな紋章がついてる矢だったよ!」


 覚えてないらしい。


「ジュナンに、話を聞きに行こうか」


「わかった! こっち!」


 イェタに連れられ、鍛冶工房へと向かった。

 ルマールさん達も一緒だ。


「おっ、トーマさん帰ったかー」


 俺が入ってきたことに気がついたジュナンが振り返った。


「なんか、当たった敵にカミナリか何かを落とす矢ができたって聞いたんだが……」


「ああ、小さなカミナリみたいなのを落として、ついでに敵を火だるまにする矢ができたんだが」


 首を振る彼女。


「魔力をけっこう使いそうなのと、作るのに時間がかかるから、あんま作ってないぜ。材料も、あんまないしな!」


 なるほど。


「今日いっぱい作ってたのは、こっちだ」


 彼女から矢を渡される。矢の先端――矢じりの部分に紋章が入っている。


「毒の効果を強くする紋章を刻んでみたんだ!」


 へー。


「本来は、おまじない程度の効果しかないはずなんだが、この鍛冶工房で作ると魔力が宿るみたいでね! 塗った毒とかの効果が、大体、二倍ぐらいになったぜ!」


 二倍ってことは、四本の毒矢で倒せる敵なら、二本で仕留められるようになるのか。


「この毒の効果を高める矢は簡単に作れて、しかも使い捨てじゃない! オススメだから、使ってみてくれよ!」


 そう言った彼女が、矢を二十本ぐらい俺に渡してくれた。

 これが全部、例の毒の効果を高める矢なのだろう。


「ずいぶん作ったんだな……。これって町で売っているところを見たことないんだけど」


「職人が作った武器に、魔力や神からの祝福が宿るのはめったにないからな! この矢には値段はつけられねーぜ!」


 サムズアップで応える彼女。


「まあ、魔石なんかを埋め込んで、似たような効果がある矢は作れるかもしれないから、実際はそうでもないかもしれないけどな!」


 なるほど。

 超一流の冒険者や金持ちの貴族なんかは、持っているかもしれないな。


「イヤー! どんなものを作っても、それに魔力が宿るらしい、この鍛冶工房はデタラメだぜ!」


 そんなことを言って、彼女は笑っていた。

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