33. 兵舎
「『兵舎』は外に作る施設だよ!」
イェタにつれられ、城の外へ。
「作るよーっ! えい!」
彼女が指差した土地がピカッと光る。
石壁の内側……城の敷地内に、建物ができた。
二階建てで、少し大きめの宿屋ぐらいのサイズ。
練習に使うのだろう、木の剣や木の槍が入った箱、矢の的のようなものが外にあった。
観察をしていると、イェタから声をかけられる。
「あっ、トーマ。住人に『職業』っていうのを与えられるようになったよ! でも、ポイントが必要みたいだけど……」
……『職業』?
「よくわかんないけど、それはどういうのなんだい?」
「なんか、与えた『職業』に応じた戦闘技術を使えるようになるって書いてあるよ!」
へー。
「今、与えられる『職業』は『兵士』と『弓兵』の二つ! 『兵士』は近接戦闘の技術とかを! 『弓兵』は弓やボウガンなんかを扱えるようになるみたい!」
「ふむ……彼は、どちらも苦手なのですが。弓を扱えるようにできるのならば、性格的に、そちらのほうが向いているかもしれませんな」
俺とイェタの会話を聞いていたルマールさんが、さっき『皆を守れるようになりたい』と言っていた気弱そうな青年を指差した。
「どっちの職業も、取得には五十ポイント必要だよ! この獣人さんに、『弓兵』の職業を与えるの?」
チラッと青年を見ると、彼にうなずかれた。文句は無さそうだ……
「お願いするよ」
「わかった! えい!」
ピカッと光る獣人の青年。
ちゃんと『城の住人』として認識されていたようだな。
多分、『弓兵』の職業が得られたのだろう。
見た目からは、変わったところはわからないが。
「じゃあ、この弓矢を使ってみてくれるかな?」
俺が差し出した弓矢を、恐々と受け取る青年。
「あれを狙ってみようか」
兵舎の外に設置してある、弓の的らしきものを指差す。
「はい」
うなずいた青年が、矢を射始めた。
「……かなり当たるな」
「彼の弓の腕は、からっきしダメだったのですが……。しかし、これなら狩りも、はかどりそうです!」
ルマールさんも満足そうだ。
弓矢は俺の予備があるし、獣人たちで持っている者がいた。
あれを借りれば大丈夫だろう。
「……ちなみに、俺も、職業を得られるのかな?」
気になって、イェタに聞いてみる。
「一応『城主』が『職業』みたい!」
そうなのか……
「なんか、『城主』にも、剣や弓の腕前を良くする効果があるようなんだけど、トーマは、もともと武器の扱いがうまかったから効果が出てないみたい!」
なるほど。
「あと『城主』は特別で、『鍛冶師』とかの生産系の職業なら追加で取得可能なんだって! デュアルジョブが可能だって書いてあるよ!」
デュアルジョブの意味が少しわからなかったが、すごそうである。
「『謁見室』の施設で『城主』の力は、さらに強くなるよ!」
いつか作ってみたいな。
「ちなみに今ので残り二十ポイントになったから、もう作れる施設はない!」
「……じゃあ、今日はこれでおしまいか」
俺はルマールさんを始めとした獣人たちを見る。
「後日、『宿舎』も作るかもしれませんが、あの建物を住居として自由に使ってください。もちろん、昨晩使われた部屋を、そのまま使うのでもかまいませんが」
「おお! ありがとうございます! それでは、さっそく中を見させてもらいますぞ!」
わいわいガヤガヤと建物の中へ。
二人部屋が大量にあり、城のものに比べると小さいが、共用の風呂やトイレなど、一通りのものはそろっているようだ。
武器や、外に出ていた木剣などの練習道具を置くんだろうな、と思われる部屋もあった。
「では、今日からこちらの建物を使わせてもらいましょうか!」
「……城の調理場なんかも、勝手に使ってかまいませんからね」
ルマールさんに、そう告げて、あとは彼らに任せることにした。
そして翌日――
俺は、城の外で、狩りの支度をしたルマールさんと、『弓兵』の職業を得た青年を見ているのだが……
「僕、うまくできますかね……?」
そんな不安そうな青年を励ます、ルマールさん。
「なーに、失敗しても最悪、死ぬだけ! 心配しなさんな!」
いや、全然、励ましてなかった。
青年の顔色が悪くなっている。
「俺もついて行くから、大丈夫ですよ」
そう言って、彼をなぐさめることとなった。
今日は、この青年とルマールさんの狩りに、ついて行くつもりだ。
薬草採取の日でもあったが、そちらはイェタやジュナン、他の獣人に任せる。
昨日来なかったダークエルフの女性も、約束どおりなら、今日来るかもしれないのだが……
薬草などの受け取りはジュナンたちに任せることにした。シルバーサフも必要ならまだ採れるので、それについての伝言も頼んである。
「じゃあ、イェタ、後は任せたよ」
「うん!」
「皆さんも、よろしくお願いします」
見送りに来ていた他の獣人たちにも後を頼み、従魔のウニも連れ、ルマールさんや『弓兵』の青年と狩りへ出発した。




