32. お手軽
ジュナンの工房を作るため、城の中を歩く。
「イヤー、それにしても『倉庫』っていうんだっけ? イェタちゃんが、空中から魔物の死骸を出したときはビビッたぜ! しかも、それがキラキラとした光になって、消えるんだもんな!」
興奮して話す、ジュナン。
イェタは、彼女の前で、死骸のポイント化をしていたようだな。
「それは、それがしも見てみたかったですな」
一緒についてきたルマールさんの発言に、彼の孫が「すっごくキレイだったんだよー!」と、はしゃいでいる。
そして俺達のしゃべる声を聞き、他の獣人たちも出てきて……
けっこうな大人数で目的地へと到着した。
「じゃあ、ここに作るよー!」
とある空き部屋を指すイェタ。
今日は、ルマールさんが持ち帰ったゴブリンの死骸も一体ポイントにしている。
ゴブリン四体とオーガ三体、鹿の魔物二体に、イノシシの魔物二体で、取得できたポイントは百八十……
使っていなかったポイントも十五残っているから、今もっているポイントは百九十五だ。
けっこうな量のポイントだが、特に新しく作れるようになった施設はない模様。
城レベルアップもなく……。ポイントが足りないのか、他の理由かはわからないが。
とりあえず、ジュナンが欲しがっている工房系の施設、『鍛冶工房』を作るつもりだ。
イェタによると、工房の施設を使うことで、俺の剣や矢を強化できるかもしれないとのこと。
残ったポイントは、獣人たちが寝泊りできそうな『宿舎』『兵舎』のどちらかなど、まだ決めていない。
「それじゃあ、『鍛冶工房』の作成を頼むよ!」
「わかった! えい!」
空き部屋の中に入ったイェタが気合を入れる。
部屋がピカリと光り、『鍛冶工房』ができた。
火はついてないが、いくつかの炉がある。
「青銅の鉱石があるな。数は少ないが鉄鉱石もあるのか……」
部屋を検分するジュナン。
「この機械が製錬をするための炉だよ!」
でっかい『機械』とやらを指差すイェタ。
「ここに鉄とかの鉱石を入れて……」
上部の『投入口』と書かれているところに、ポイポイと鉱石を投げ入れるイェタ。
「ここを押すと!」
チン! と音が鳴って、機械の下部からゴロンと小さな鉄のインゴットっぽいものが転がり出てくる。
「簡単に鉱石から金属が取り出せるみたい!」
おう……
「すごいな」
機械下部の受け皿に出てきた、鉄のインゴットを触る俺。
「今は完全に不純物が取り除かれたインゴットが出てくる設定になっているけど、何段階かにわけて不純物を取り除くこともできるよ! その設定のときは、灼熱した鉄塊とかがゴロンと出てくる!」
「……それは、何か意味あるのかな?」
俺の質問に、うなずくイェタ。
「鍛冶師の人が、燃える鉄塊の形を整えるためにトンカチで叩いたりするんだけど、そのときに金属へ魔力が宿るんだって!」
なるほど……
多分、その魔力が宿った金属で剣とかを作ると、より質のいい物ができるのだろう。
「青銅の鉱石や鉄鉱石は、毎月ある程度供給されるみたいだけど、他の鉱石は自分で手に入れるか、違う施設を利用して手に入れてって書いてあるよ!」
イェタが、そんな説明をしてくれた。
たしか『地下鉱石採取所』というのがあったからな。あれを使うのだろう。
「不可思議ですなー……」
「そうだね、おじいちゃん……」
ルマールさんを始めとする獣人たちも、わいわいガヤガヤと感想を言い合っていた。
肝心のジュナンは、何か遠い目をしているが……
『ありえないものを見てしまった……』みたいなことを考えているのかもしれない。
「設備とかの使い方がわからなかったら聞いてね!」
そんなことをジュナンに言っていた。
「トーマ! 他は、どんな施設作る? また工房? それとも『宿舎』や『兵舎』?」
残り百四十五ポイント。
迷っているとジュナンから言葉がかけられる。
「矢を作るぐらいなら、『木工工房』がなくても大丈夫そうだぜ!」
工房はなくても大丈夫そうか。
じゃあ、獣人たちが過ごすための『宿舎』や『兵舎』かな?
「『宿舎』や『兵舎』……というのも、同じような不思議な施設なのですかな?」
首をかしげるルマールさんに答える。
「えーと……たしか、城の住人に技術なんかを与える施設でしたね」
「『宿舎』は鍛冶や霊薬作成なんかの技術を! 『兵舎』は戦闘技術を与えてくれる!」
イェタが補足してくれる。
「あ……あの」
そんな会話を交わす俺達に、声がかけられる。
気の弱そうな、獣人の青年だ。
「それなら、僕、皆を守れるようになりたいんですが……」
「俺も!」「わたしも!」
続いたのは子供二人で。
「おおっ! それでこそ、我らの部族のもの! それがしも、森の歩き方や足あとを見つけるのは得意ですからな! ともに戦ってくれるものがいれば、魔物の死骸集めに貢献できます!」
ルマールさんが満足したようにうなずいていた。
狩りに行くのは、あきらめてなかったんだな……
また、怪我しないか不安なのだけれど。
「じゃあ、『兵舎』を作ってみましょうか?」
そう提案した。




