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31. 二体のオーガ

「きゅっ」


 ブラウニーの従魔、ウニに導かれ、森の中を歩く。

 ウニが、早速、獲物を見つけた……


 あれはイノシシの魔物か。


 肉は食料になる。

 獣人たちのために一体、狩っておこう。


 食べるものに、毒が混じっていたらマズいから……

 俺は、毒を塗っていない矢を取り出すと、魔物に向かって放った。


 突き刺さる矢。逃げようと走り始めたイノシシだったが、追加の矢を当てると途中で倒れた。


 地面でもがいている魔物に近寄る。そいつに、とどめを刺した。


「よし」


 『倉庫』から染料を出し、死骸にバツマークをつける。

 このマークをつけた死骸は、ポイント化しないようイェタと取り決めていた。


 けっこう大きい魔物だから、肉はこれぐらいでじゅうぶんか。

 あとは毒を使ってしとめることにして……


「この調子で行こうか」


「きゅっ!」


 さらに森の中をうろつき、ゴブリン三体を倒す。

 ウニの動きが止まったのは、その三十分ぐらい後だった。


「きゅっ……」


 警戒し、一方向をじっと見ている。

 この様子は……


「オーガか」


 しかも一体だな。

 オーガが二体以上のときは、ウニはその場から逃げようとする。


「狩ってくる。ここで待っていてくれ」


「きゅっ……」


 濃縮毒を塗りつけた矢を取り出し、木々の中を進む――


(あれか……)


 体に、いくつかの古傷が残るオーガ。


 鹿の魔物の死骸を、生でバリボリとむさぼっている、そいつに狙いを定める。

 放たれた矢――


 体に突き刺さったその痛みに、ヤツが悲鳴を上げた。


「グオオオッ!」


 こん棒を振り回すヤツから逃げ回りつつ、矢を放つのだが……


「あいつ、強いな!」


 俺の放った毒矢を、次々と棍棒で打ち落としていやがる。

 野生で長く生き残った魔物は、こういう風に強くなることがある。


 まったく当たらない毒矢にあせりを覚えていたら、耳慣れた鳴き声が聞こえてきた。


「きゅっ!」


 ウニの姿だ。

 なんだ? と思っていたら、彼女の指差す先から、新たなオーガの姿が。


 ギャーッ! 二体目が来たーっ!


 逃げ回るうちに、運悪く二体目のオーガと鉢合(はちあ)わせしてしまった。

 もしかしたら、あの戦い慣れたオーガが、俺をここに誘い込んだのかもしれないが……


「グオオオッ!」


 二体目のオーガも、俺と戦うことを決めたようだ。


「くそーっ!」


 半泣きになりながら、二体目に向け毒矢を放つ。

 こっちは最初のオーガと違い、普通のオーガだ。

 一つは棍棒に防がれたが、他の毒矢は問題なく突き刺さった。


「グオオッ……」


 ドサリと倒れた新手のオーガ。


 あとは、あの強いオーガだけ!


 そう思ってやつを見ると、なんかフラフラしてるぞ?


 どうやら最初に突き刺さった矢の毒が、ようやく回ってきたらしい。


 追加の毒矢を放つ。


 六本ぐらいの矢を放ち、半分ぐらいは棍棒で防がれたが、問題なく残りの毒矢を突き刺すことに成功。

 倒すことができたんだよ。


 この森は、ちょっと油断すると危なくなる……

 気を引き締めつつも狩りを続け、追加でオーガを一体倒した。


 それからはあまり良い獲物が見つからず、毒を使い、鹿の魔物二体とイノシシの魔物二体をしとめたところで、狩りは終了となった。


 城へと帰還。

 すると、石壁の門のところに、半泣きのイェタが――


「トーマっ! トーマーっ!」


 しがみつかれた。


「ど、どうしたんだ……?」


「る、ルマールさんが大怪我して……」


 武人風の老人……ここら辺で狩りをしていたはずの獣人だ。


「ルマールさんは……?」


「こっち!」


 彼女に案内され、ルマールさんが安静にしている客室へと入った。


 部屋の中には何人かの獣人が。

 イェタと仲良く話をしていた子もいる。彼女は、多分、ルマールさんのお孫さんだな。


「ルマールさん! 大丈夫ですか……?」


「おお、すみませぬ。思ったより体がなまっていたようでして。ゴブリンごときに遅れをとってしまいました」


 ……正式な剣術を習った貴族の青年とかでも、複数のゴブリンを相手にして殺されることがある。


 コツさえつかんでしまえば簡単な敵なのだが、逆に、そのコツをつかんでないと面倒な敵なのだ。


「ですが、なんとなく体の動かし方は思い出しましたからな。明日の狩りこそは――」

「おじいちゃん、もう、やめてーっ!」


 お孫さんに泣いてしがみつかれていた。

 親しい者が亡くなった子も多いのだろうし……


「ルマールさんは、城で子供たちやイェタを守っていてくれますか?」


 彼まで死んでしまってはショックだろう。

 言われたルマールさんはションボリしているが、周囲の女性や子供はホッとした表情だった。


 まあ、ちょっと話を聞いたところ、ゴブリンの死骸はもちろん、食用となる魔物肉も持ち帰っていたようなので、森の浅い場所なら狩人として活躍できそうだったのだが。


 麻痺毒あたりを貸せば、ここら辺でも問題なく狩りができそうか。

 渡そうとしたら、万が一にでも誰かに見つかると、俺に迷惑がかかるからと拒否されてしまったのだけれど。


 一般の人とかの毒の所持は、国が取り締まっているからな……


「ルマール爺さん、薬だぞー!」


 話をしていると、ドワーフの少女、ジュナンが部屋に入ってきた。


「あっ、トーマさん、帰ったかっ!」


 彼女が、こちらに詰め寄ってきた。


「いやーっ、イェタちゃんに案内されて使わせてもらったんだが、あの『調合室』ってのはデタラメだな! 回復薬を作ったんだがよ! いつもなら十日かかるはずのものが一時間でできたぜ!」


 ……やっぱり、そんな施設だったのか。


「よくわかんなかったけど、『鍛冶工房』とかもできるって聞いたんだけどさー」


 上気した頬で、上目使いに聞く彼女。

 ……表情は色っぽいのだが、言ってる内容は色っぽくないな。


「それも、もう聞いたのか……。一応、ジュナンに使ってもらおうかと思って、作るつもりではあったよ」


「おおっ!」


 歓声を上げる彼女。


「いやー、嬉しいね! 行くあてもないところを拾ってくれた上に、そんな施設も貸してもらえるなんて、一生ついてくよトーマさん! 愛してるぜ!」


 ……ジュナンも不法入国で、さらに奴隷のしるしが見えやすいところにある、けっこう大変な身分だ。


 茶化したように言っていたが、その言葉からは、みょうな真実味が感じられた。

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