30. にぎやかな城
「情報は、そちらの好きにして良いぞ! ……獣人たちについては、逃亡奴隷だから、あまり話さないで欲しいが」
ダークエルフの女性に、今もらった情報を、どの程度、冒険者ギルドに伝えていいか聞いたところ、そんな返答をもらった。
獣人たちのことは、かくまうつもりだったから、俺も話さないつもりだった。
「あっ、ただ、形式的なものではあるが、巫女からの許可は得たいかな……。明日の夜か、遅くとも明後日にはここにこれるから」
「伝えるのは、そのときまで待ってくれということですかね?」
うなずく彼女。
……情報も大事だが、ダークエルフからの信頼も大事だ。少し迷ったが。
「わかりました」
そう返答する。
「ありがたいな。では、トーマくんの欲しがっている薬草についても聞きたいのだが」
そう要求され、彼女に、人の町で必要とされている薬草の種類を伝えた。
これで、ほとんどの用事を済ませた彼女……。約束した結界への細工などを済ませると、自分の集落へと帰っていった。
夜の森を突き進むらしい。
残ったのは、ドワーフの少女が一人に、十名ほどの獣人たちだ。
いつもは静かな城だが、彼らの会話があるせいで、にぎやかに感じる。
イェタも、犬獣人の少女と仲良くなったみたいだな。
「ねーねー、トーマさんってイェタちゃんのお兄さんなの?」
「お兄さんじゃないよ! トーマは、わたしのご主人様だよっ!」
「ご、ごしゅじんさま……?」
そんな会話が聞こえてくるが、城主だから、ご主人様なのだろうか?
イェタには命を助けてもらったから、ご恩返しをしているつもりなのだが。
大丈夫だと思うが、変な誤解がうまれないようにフォローしとくか……
彼女たちに口をはさもうとしたところで、ガシっと腕をつかまれた。
「なあなあ、トーマさん。あの投石機とか連弩とか、もう一度動かしてくんねーかな? どんな仕組みになっているか見たいんだ」
ドワーフの少女……ジュナンという名前だったか。
「……明日の朝で良いかな?」
元気な子もいるが、ウトウトしている子もいる。
石の爆発とかうるさいし、あまり大きな音を立てて起こすのもかわいそうだ。
「じゃあ工房とか、あの兵器を作ったときの道具とかでもいいや! 天才的な職人が、一体どんな道具を使ってどんな仕事をしているか見たいんだよーッ!」
「いや、あれは特殊な作り方をしていて……。ここに道具とかはないんだよ」
その言葉を聞いて「そうか」と残念そうにする彼女。
「……ジュナンは、そういう、物作りに興味があるのか?」
俺の質問にうなずく彼女。
「私は、これでも職人だからな!」
へー。
「鍛冶もできれば、木工もできる。革製品も作れて、少し苦手だが布製品も大丈夫だ! 錬金術もかじったから、霊薬や薬も作れるぞ!」
すごいな。
「何でもできるんだな」
「ああ! 好きだったし、魔道具なんかを作るのに必要な知識も集めたからな! いつか、魔道具の工房を持つのが夢だったんだよ!」
なるほど……
「まあ、腕に奴隷の刺青が残っているから、この国では、なかなか難しい気はするんだが……」
どこかの工房に弟子入りするにしても、逃亡奴隷と見抜かれたら、そこで終わりだからな……。……でも、かなり努力していたようだからな。
鍛冶工房ぐらいはイェタも作れたはず。
ジュナンに、それを任せてみたら面白いかもしれない。
たしか鍛冶工房や布革工房などに必要なポイントが、それぞれ五十ぐらい。
今あるポイントは十五だから、狩りをしなければならない。
「トーマ! トーマ! みんなを寝る場所に案内していい?」
イェタが話しかけてきた。
獣人たちの様子を見ると、眠そうにしている。
イェタと元気よく話していたはずの子も、眠りに落ちてしまったようだ。
「客室なんかがあったよね?」
「住人用の仮眠室もあるよ!」
「じゃあ、ベッドは足りるかな」
全部で十名ちょっとのお客様だから。
彼らを、休める場所へと案内した。
そうして翌日――
武人風の老人、ルマールさんが狩りの支度をしている。
「だ、大丈夫ですか?」
「問題ないですぞ。この城でお世話になるのです。オーガ相手では足手まといにしかなりませぬが、ゴブリンが相手ならばどうにかなります!」
そんな主張をする彼。
俺が魔物の死骸を集めていることを知って、協力を申し出てくれたのだが……
「お、おじいちゃん。でも、この森、罠を使えないって」
「やめたほうがいいよ……」
女性や子供達に、そんな風に止められていて、心配でしかたがない。
獣人たちはもともと同じ村の出身だそう。親しいものをたくさん亡くしている。心配なのだろう。
「……やっぱり、俺も一緒について行きましょうか? もしくはウニがいれば、かなり簡単に狩りができますけど」
「トーマ殿は、従魔殿と一緒にオーガを狙ってください」
ウニを差し出したのだが、断られる。
……他の獣人が一緒についていってくれればいいんだけどな。
ほとんどが非戦闘員で、ゴブリンの集団相手だと足手まといになる。
さらに洞窟竜に追われ続けたせいで、森に恐怖感を感じている様子。
彼は、一人で狩りに行くべきと判断したようだ。
「まっ、ルマール爺さんも唐辛子の霊薬とかもらったみたいだし、大丈夫だろう。ゴブリンもいいけど、食いもんも欲しいな! イノシシとかの魔物肉とってきてくれよ!」
ジュナンが、そんなことを言っていたが、俺も毒なしでイノシシの魔物を狩っとくべきかな。
ウニがいれば獲物は簡単に見つかる。
「ところで、魔動投石機とかは、こっちで勝手に見ていいんだよな? 壊さないからよ!」
ジュナンが、昨日見たいと言っていたものだ。
「うん。一応、イェタのものだから、彼女に確認してね」
「おう!」
元気良くうなずいていた。
「それじゃあ、トーマ殿、参りましょうか!」
ルマールさんに連れられ、城を出ることになった。
「トーマー! いってらっしゃーい!」
「おじいちゃん、気をつけてねー……」
そんなイェタや獣人の子供達の声に見送られ、城を出発。
「それでは、わたしは、こちらへ行きますぞ!」
森の中を元気に歩くルマールさんを、ちょっと心配しつつも見送り、ウニと一緒にオーガの狩りへと向かった。




