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29. 逃亡奴隷

 石壁の中に彼らを招き入れ、そして野外用の調理キットを使い天ぷらを作った。


「何これ、おいしい!」

「サクサクする!」

「うまい! うまい!」


 獣人たちにも好評のようだな。

 それを食べながら泣いている子供さえいたから……、よほどおなかがすいていたのか。


 ダークエルフの女性も「ほう、これは……」とつぶやいていたり、ジュナンという名のドワーフの少女も黙々と口に天ぷらを詰め込んでいた。


「きゅーっ、きゅー!」

「おいしいねーっ!」


 ウニと名付けたブラウニーも喜んでいるし、イェタも笑顔を見せていて……

 朝、彼女達によりリクエストされていた天ぷらだったが、材料を買っといて良かったよ。


「それでは、改めてお礼をさせていただく。それがしはルマールと申すもの。見ての通りの獣人族になります」


 食後。人心地つき、みなで焚き火を囲む中、武人風の老人が頭を下げた。犬の獣人だ。


「あなた方は……」


 何者かと聞こうと思ったんだが、大体わかっているんだよな。


 子供の獣人の中に、顔に刺青をされたものがいた。隣国で、奴隷の体のどこかに入れられる模様と同じ。

 多分、そこからの逃亡奴隷なのだろう。


 不法入国ってことになるが……


「獣人を蔑視する国から逃れてまいりました」


 俺の予想を裏づける、ルマールさんの発言。


「トーマ君……」


 それに続くようにダークエルフの女性が話しかけてくる。


「彼らのことで頼みがあるのだが……。……しばらくの間でいいので、彼らを、この城にかくまっていただけないだろうか?」


 どう答えていいか判断できず困っていると、彼女がさらに押してくる。


「もちろん報酬は払うぞ。魔物の死骸は無理だが、珍しい薬草に、薬木(やくぼく)、鉱石、霊薬、男性を夢の世界にいざなうドリアードの従魔! なんなら、私が一晩付き合おうか?」


 一晩付き合うって……


「トーマ! トーマ! 城の住人が増えるの!?」


 イェタは嬉しそうにしているから、別に彼らをかくまうのは問題無さそうだが。


「彼らを城でかくまうのはかまいませんが、ずいぶんと肩入れしているんですね」


 不思議に思って、疑問をぶつけてみる。


「ああ。話すと長くなるのだが、ちょっと前まで、ダークエルフの巫女とともに、私も隣国の奴隷商にとらわれていてな……。ここにいる彼らと協力し、どうにか逃げ出したのだが」


 ……そういえばシルバーサフの不足の他、巫女が不在で、薬草の育成を良くする魔法の儀式ができていなかったという話もあったな。


 隣国の奴隷商に捕らわれていて、儀式ができなかったようだ。


「獣人たちを、我らの集落に住まわせようとしたのだが、仲間の説得に失敗してな……。先ほどの洞窟竜から逃げるときにも、彼らに多数の死者が出てしまって……、責任を感じているのだ」


 ……獣人たちには男性が少ない気がしたのだが、もしかしたら戦える者はほとんど、あの洞窟竜に立ち向かって行ったのかもしれない。

 勝つことはできないが、時間稼ぎぐらいならできるだろうから。


 落ち込んでいる様子のダークエルフの女性を、武人風の老人、ルマールさんがなぐさめる。


「ただ不運だっただけだ。あなたの仲間も死んでいる。気にすることはない」


 周囲で、その話を聞いていた子供達は悲しそうにしていたから、なかなか納得できるものではないのかもしれないが。


「しかし、奴隷商からよく逃げられましたね?」


「魔法を使い、どうにかなったよ」


 俺の質問にうなずく、ダークエルフの女性。


「まあ、我々を罠にかけたダークエルフは、もっと腕が良いのが悔しいところだが……。それこそ人間の世界なら、大魔導士と呼ばれてもおかしくないぐらいでな」


 ……能力の高い敵ってイヤだな。


「そのダークエルフは……?」


「仲間とともに逃げられた。あいつのことだ……どこか別の森か、人の来ない荒野にでも潜んでいるのだろう」


 なるほど……


「この森に舞い戻ってくれば、多分、我らも気がつけるとは思うのだがな」


 敵対するものがいるこの森に、戻ってくる可能性は低いのだろうか。


 そんなことを考えていたら、彼女が聞いてくる。


「それで、獣人たちを受け入れてくれることや、シルバーサフに対しての報酬なのだが……」


 うん、どうしようかな。


「……とりあえず、報酬は薬草、薬木(やくぼく)、鉱石、霊薬あたりから欲しいですね」


 そう要求をする。


「薬草園があるので、薬草はあまりいらないのですが、一部人間の町で足りなくなっている薬草があるので、それをいただきたいです」


 冒険者ギルドでもらった、不足している薬草のリストがあったから、あれを渡せばいいだろう。


「俺の欲しい薬草が、もし、あなた方のところでも不足しているようなら、要求は取り下げます」


 イェタの薬草園から、いくらでも採れるから……


「あとは、シルバーサフを差し上げますので、森の薬草不足を解決する儀式は早めにやっていただきたいですね」


 その言葉を聞いた彼女が、うなずいた。


「無論だ。効果が出るまでしばしの時間がかかるが、その『儀式』は我々にとっても必要なもの……。必ずやおこなわれるだろう」


 よかった……。冒険者ギルドのガルーダさんも、森の薬草が不足していることについて情報が欲しいと言っていたからな……

 彼も、このことを知れば喜ぶだろう。


 とりあえず、どこまで話していいかわからないから、そのことも彼女に聞いておこう。

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