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02. 大量の報酬

 しばらくし、感情の高ぶりが落ち着いたらしい彼女が俺から離れる。


「じゃあ、これからよろしく! わたしはイェタだよ!」


 イェタ……?


「それは、君の名前かな?」


 コクリとうなずく彼女。


「イェタか……よろしく。俺の名前はトーマだ」


「トーマ! よろしく!」


 にぱっと大輪の花のような笑顔を見せた。


「それじゃあ一緒に暮らすお部屋に案内するね!」


 手を引っ張って、どこかに連れていこうとするのだが……


「あっ、ちょっと待ってくれ。依頼人を待たせているから……今は一刻も早く、町に行かないと」


 あわてて彼女を止める。


「うん……? 今から町にお出かけするの?」


 首をかしげる彼女。

 俺のわき腹を指して、言う。


「トーマ、血をたくさん流していたから、危ないよ」


 ……傷は癒えたものの、たしかに、まだ万全の体調ではない。

 体力が減っていて、森の中を行くのは少し危険かもしれないが……


「でも、依頼人の子供が病気で死にそうで……、この薬草があれば命を救えるかもしれないんだ」


「ふーん、そんなに心配するなんて……。依頼人さんは、トーマのお友達か何かなの?」


 訊ねる彼女。


「え……? いや……、そういうわけではないけど……」


「……知り合いとかじゃないの? じゃあ、何で、そんなに必死になって……恩人だからとか?」


「え……? えーと、そういうのでもないな」


「……じゃあ、赤の他人? 依頼に失敗すると大変なことになったりするのかな……?」


「そ、そんなこともない……。でも、これは仕事として請け負ったことだからね……」


「ああ、なるほど」


 納得した、とうなずく彼女。

 どうやら冒険者としてのプロ意識をわかってくれたかと思ったんだが……


「トーマは、お人よしなんだね!」


 そんな結論を出されていたよ。

 誰かが死ぬかもと思えば、がんばる人のほうが多いと思うんだけど……


「じゃあ、トーマには、これあげるよ! トーマが欲しがっていた薬草だよ! あと、こっちはレドヒール草と滋養強壮に効く薬草! 疲れたときとかに食べれば、少しはマシになるからね!」


 身をかがんだ彼女。地面から草をいくつか採取したようで、それを差し出してくれた。


「あ、ありがとう……」


「魔物には気をつけてねーっ! いってらっしゃーい!」


 ぶんぶんと手を振る彼女に見送られ、こうして俺は城をあとにしたのだ。


 北の方角を教えてくれる方位針(コンパス)という魔道具を頼りに木々の中を進み、やっかいな魔物にもあうことなく森を抜ける。


 町の冒険者ギルドについたときには、もう日が落ちかけていた。


「トーマさん!」


 ギルドの入り口で、声をかけられた。

 見ると、薬草採取を依頼した中年の男性だ。


 ここで俺の帰りを待っていた様子。


「ど、どうでした!」


 勢い込んで(たず)ねてくる彼に、俺はにこりと笑って背嚢の中身を見せた。


「ご依頼の薬草は、無事、発見できましたよ」


 薬草を見た男性が、歓声を上げる。


 ここまで喜んでくれると俺も嬉しいな、と思いながら、彼をギルドの受付へと誘導した。


 薬草担当の女性へと声をかける。


「依頼を達成したので、物品の受け渡しをしたい。依頼人も、ここにいる」


 俺はギルドから預かっていた依頼書、そして薬草を見せる。


「……よく、見つかりましたね」


 女性が驚いた声をあげ、チラッと俺のわき腹のあたりを見た。怪我をした部分だ。

 今は夕日の時間帯で、うすぐらい。そんな中、彼女は俺の服についた血に気がついたらしい。


 俺がギルドカードを渡すと、それ以上何もいう様子もなく、薬草の検分を始めた。


 魔道具の照明を灯す彼女。

 薬草の状態などに問題がなければ、そこで依頼達成。俺の仕事は終了だが……


「問題ありませんね」


 彼女の検分が終わり、俺への報酬が渡された。金貨一枚と大銀貨二枚の十二万エーナ。

 薬草の量が多かったので、報酬も大銀貨二枚、二万エーナ多くなった。


 目の前で、ギルドから依頼人へ、薬草の受け渡しが行われた。


「あ、ありがとうございます……ッ!」


 依頼人の感極まったような声。


「あとは薬師にこれを届けるだけですッ! トーマさん、ギルドの方も! 本当にありがとうございましたッ!」


 頭を深く下げた彼。別れの挨拶をしたと思うと、ギルドから駆け出していった。

 病気の子供に薬を届けなくてはならないから、とにかく時間が惜しいのだろう。

 治るといいんだけど……


 それを見送ると、俺はギルドの女性に向き直り、背嚢から別の薬草を取り出す。


「あー……それで、こっちの薬草も見て欲しいんだが……」


 レドヒール草と、あとイェタが滋養強壮に効くと言っていた薬草の二種類を見せる。


 採取した薬草は、処理をしないと状態が悪くなる一方で……

 やり方は知っているが、天日干ししたり時間がかかるため、買い取ってもらおうと考えていた。

 調合したほうが効果ははるかに高くなるし、死蔵しているよりも、売ったほうが人の役に立つ。


 手に入れたお金は、傷を治す霊薬(ポーション)などを買うのに使い、あとはイェタへのお土産に使う予定だった。


「これは……レドヒール草と、カーマ草ですか……。どちらも貴重な薬草ですね」


 さっきよりも慎重な手つきで、カーマ草の検分を始めた彼女。

 カーマ草というのは、たしか媚薬の原材料の一つ……、そして精力剤として使われる薬草のはずだ。


「……滋養強壮に良いともらった草なんだが……その草が、カーマ草なのか?」


 俺の質問に、ちょっと頬を赤くする彼女。


「ええ、体力回復にも優秀な薬草なのですが……。ただ、下半身も元気になってしまうので……」


 なるほど……


「最近、こういう貴重な薬草が全然採れないようで、薬がなくて死ぬような人も出てるんですよね……」


 レドヒール草を取り扱いながらの彼女の言葉。そのレドヒール草の検分も、もうすぐ終わりのようだ。


「……うん……問題ないようですね」


 ひとつうなずいて、立ち上がった彼女。薬草を持ってギルドの奥へ。そしてトレイにお金を乗せて戻ってきた。


「こちらが薬草の代金になりますが……」


 目の前に出されたトレイの上には、やけにでっかい金貨が。……大金貨か?

 ギルドの報酬で見たのは初めてだ。

 枚数は、大金貨六枚に、金貨八枚。六百八十万エーナか……

 俺の予想より、はるかに多い。


 渡した薬草は、レドヒール草の葉が八枚、カーマ草の葉が十二枚ぐらいだったはずなんだが。


 俺の常宿が一泊五千エーナ、銀貨五枚ぐらいの価値である。

 二年ほど仕事をせず、宿に泊まって、大衆食堂で飯を食いながらごろごろできるぐらいのお金を手に入れていた。


 驚いている俺に、うちわけを話してくれる彼女。


「レドヒール草の葉が一枚で大銀貨五枚、五万エーナ。今はこの薬草もあまり採れておらず……、金貨一枚十万エーナでの買い取りになっています」


 二倍の買い取り価格か……


「カーマ草も貴族の方が買い求められているために値上がりしておりまして……、葉っぱ一枚で大銀貨五枚五万エーナが、金貨五枚五十万エーナでの買い取りになっています」


 ……十倍かよ。カーマ草の値上がりがすごかったようだ。

 どちらも森の深部じゃないと採取できないものだから……、今年は薬草があまり採れないこともあって、付加価値がかなりついてしまっているんだろう。


 俺が死にかけながら達成した薬草の採取依頼、その報酬が十二万エーナ。

 その五十倍を超える、六百八十万エーナを、あの城からこの町に歩いてくるだけで得てしまった。

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