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27. ダークエルフの事情

 石壁の外、門の周囲には、洞窟竜から逃げていた人々がいた。


 ダークエルフの女性が一人に、ドワーフの少女が一人。

 あとは獣人……人間の姿に獣の耳を頭上に持つ人々だな。全部で十人ぐらい。


 猫やウサギっぽい人もいるが、犬の獣人が半分以上で、ちょっと女性や子供が多めの気がするが――


「迷惑をかけた……」

「きゅー……」


 集団の一人、ダークエルフの女性が頭を下げる。

 セミロングのヘアを持つ、褐色の肌を持つ美人さんだ。


 保護していたブラウニーの主人……というか母親みたいな存在なのだそうだ。


「トーマ、ブラウニーちゃんも反省しているから許してあげて!」


 イェタが、この女性を呼んだブラウニーを弁護している……


 ブラウニーは、魔動投石機の威力とかを知っていたからな。

 テレパシーか何かで主人の危機を知り、この城なら、あの洞窟竜を倒せると思って、自分の主人を呼んだのだろう。


 ――ただ、そのことよりも気になっていたことがあって。


「……あの洞窟竜は、なんだったんですか?」


 さっきまで洞窟竜の死骸があった場所。そこを、俺は気にしていた。


 あの魔物、俺がとどめを刺した途端、ぶくぶくと黒い泡のようになって、消えてしまったんだ……


 あんな現象、見たことない。

 魔石も素材も得られておらず、もちろんイェタのポイントにもなっていない。


「……あの魔物は、森の呪気に侵されていた。呪気にやられた魔物は、死んだとたん泡になって消える特徴がある」


 そんなダークエルフの女性の言葉。


「通常の状態であれば、洞窟竜は森の奥から出たがらない。しかし、呪気にやられると凶暴になるからな。それで、ここまでずっと追いかけられてしまった……」


 ……この人々は、森の奥から、ここまで逃げてきたらしい。


 普通の人間なら無理そうだが、高い身体能力を持つ獣人と、魔法の達人のダークエルフの組み合わせでどうにかしたのだろうか?

 子供もいるし、難しそうな気がするが……


「通常であれば、呪気は、我らの『巫女』が魔法の儀式を行い、この森の薬草などを育てるための魔力に変換している。……ただ、ちょっと『巫女』がこの森を離れていた時期があってな。それで呪気が溜まりすぎてしまった」


「……じゃあ、これから、あんな魔物がもっと現れてくるってことですか?」


 俺の質問に、首を横に振るダークエルフの彼女。


「『巫女』は、もう帰ってきているから、それは大丈夫だ。だが、シルバーサフという薬草の不足でな、『呪気』を『魔力』に変換する儀式が最低限しかできていない……。薬草不足の回復は時間がかかるだろう」


 ……そういや、シルバーサフって、魔法なんかの儀式に使われる薬草だって聞いたな。


 それにガルーダさんも『森の薬草は、ダークエルフの『巫女』の魔術儀式により、繁殖力を強化されている』とか言っていた。


 シルバーサフの不足により、その儀式ができていないってことか。


 そのせいで呪気が溜まり、さらには森の薬草も不作になっているみたいだ。


「……じゃあ、シルバーサフさえ手に入れば、この森の薬草不足も解消されるんですかね?」


 シルバーサフなら、四本ぐらい収穫してある。

 ギルドに納品するため持っていったあと、背嚢に入れっぱなしだ。


「ああ……だが、事情があってシルバーサフの数が足りないんだ。せめて後三本ほどあれば、まあまあ楽になるのだがな……。シルバーサフを育てていた薬草園に侵入した者がいたりと、いろいろあって……」


「えっ、ダークエルフの薬草園に侵入者があったんですか?」


 それは重要度の高い情報だった。


 イェタの人よけの結界は、ダークエルフの薬草園を隠す結界と、同じぐらいの能力だ。

 その侵入者は、俺達の城へも侵入できる可能性がある。


「……我らの裏切り者が手引きしたのだと思っているのだが、そうだ。薬草園に侵入者があり、薬草を盗まれた」


 彼女が、うなずく。


「サフ草には手をつけられていなかったから、侵入したのはダークエルフではない気がするが……。無理な侵入をされたせいで、そのサフ草もダメになってしまった」


 そしてイェタの城を見る。


「……そういえば、この城にも人よけの結界があるな? 不審者が、この城に来ないか不安なのかな?」


 うなずく、俺。


「我らの裏切り者もどこかに逃げたまま、捕まえられていないからな。よし、結界の力を強くすることはできないが、少し細工をしようか? 命を助けられた礼にもならんが……」


 問いかけてくる彼女。


「やったっ、わたしの結界がすごくなる!」


 イェタは乗り気みたいだな……


「……知らない人に結界をいじられるのも怖くはあるんですが」


「大丈夫だよ! 自分の結界に変なことされたらわかるし、ブラウニーちゃんも、ダークエルフさんは良い人だって言ってるよ!」


 ……まあ、イェタも、不思議な力を持っているからな。

 そこまで主張するなら大丈夫なのだろうか。


「じゃあ、お願いします……」


 頭を下げる。


「あっ、でも仕事してもらうんですから、報酬は出しますよ。シルバーサフあげますね」


 背嚢に入れっぱなしだったシルバーサフをダークエルフの女性に渡した。


「えっ」と声を漏らしたあと、袋の中のシルバーサフを見てかたまっている彼女。


 ダークエルフの薬草園の侵入者は、サフには手をつけていなかったってことだから、俺が侵入者と勘違いされることもないだろう……

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