ダンちゃんの力
「このピーマンをあげるよ」
俺はピーマンをよけた。
「それはダメ。私は長老に教わったわ。こっちの世界のピーマンは、ナポリタンに入っているものか、チンジャオロースに入っているピーマンしか食べてはダメだと」
ジュノは答えた。
「えっそうなの?じゃあ俺もやめようかな」
俺は言った。
「でも食べずに置いておくと、向こうに戻せないわ。わかったわ。神獣クラスのものを召喚しましょう。その子に食べさせる」
ジュノは言い、何かの呪文を唱え始めた。
(ぴゅみえどみてるでおぎょきとうふえうふもうひこえれゆしゅう)
まばゆい光と共に、
ジュノくらいの大きさの緑色のダンゴムシみたいなものが現れた。
「うわ……、
なに?このダンゴムシみたいなの?」
俺は尋ねた。
「これは神獣クラスのダンゴムシ。
ダンゴムシで連続300回転生すると、この神獣クラスのダンゴムシになれるの」
ジュノは答えた。
神獣クラス。
ようやくファンタジー的なスペックが来たことに胸が躍った。
「それでこのダンゴムシは何ができるの?」
俺はワクワクしながら尋ねた。
「ピーマンとか、苦手なものも食べてくれるし、部屋のハウスダストやほこりを食べたり、溜まった花粉やカビとかも食べてくれる。不要品も食べてくれるわよ。」
ジュノは答えた。
微妙なスペックだ。
「なんか……、微妙なスペックだね」
俺は言った。
「何を!失礼な人ね。この子さえいれば、家中ピカピカよ。まぁ見てなさい。そこゴミ箱ね」
ジュノは指をさした。
「うん。そうだ」
俺は言った。
「この子にゴミを食べさせるわ。ダンちゃん。あのゴミ箱の中身を食べなさい」
ジュノは言った。
(ぱうぉー)
ダンゴムシは雄たけびをあげて、ゴミ箱に向かう。
(ずるずるずる)
ダンゴムシはゴミ箱を押している。
ゴミ箱はずるずるとフローリングの上をすべっていく。
「あの……、
あの子。高いところ昇れないの?」
俺は尋ねた。
「違うわ。高い所は昇れる。でもダンちゃんのパワーが強すぎて、ゴミ箱が負けているの。
ちょっと逆からゴミ箱を押さえてみて」
ジュノは答えた。
俺はゴミ箱を押さえる。
するとダンゴムシはするすると垂直のゴミ箱を昇っていく。
おおっスゲー。
そしてゴミ箱に入り、
中のゴミを食べだした。
ポテチの空き袋。ティッシュ。使い捨てのマスク。
ポリ袋、紙ごみ。
いろんなものが、ダンゴムシによって食べ尽くされていく。
「これ地味にスゲーな」
俺は言った。
「そうよ。地味にスゲーのよ。ちょっと地味にって、ひどくない?」
ジュノはむくれた。
「ごめんごめん。神獣クラスっていうとどうしても、すごい魔法が使えるとか、そういうイメージがあるから。ゴミを食べるだけってどうなのよとか思ってしまうんだよ」
俺は答えた。
「ふふふふふ。わかってないわね。このダンちゃんのすごさを。ダンちゃんのすごさはね。汚れやホコリも食べることなのよ」
ジュノは答えた。
「それはさっきも聞いたけど、そんなの掃除すればいい話だよね」
俺は尋ねた。
「ふふふ。なに言ってるの?あなた自分の部屋がどんな状態か知ってる?」
ジュノは答えた。
「どうって?普通の部屋だろ」
俺は尋ねた。
「違うわ。ホコリも溜まってるし、小さい虫もいる。ニオイだってするわ。
あなた何年掃除してないの?」
ジュノは指をさした。
引きこもる前に、母親が掃除したっきりだから、10年以上か……。
まったく気が付かなかった。
「10年以上かも」
俺は答えた。
「じゃあ見てなさい。ダンちゃん。この部屋をキレイにして」
ジュノは叫んだ。
(ぱうぉー)
ダンゴムシは雄たけびをあげて、部屋の隅に向かう。
「なんで、ダンゴムシは隅に向かうんだ?」
俺は尋ねた。
「あの子はね。ダンちゃんって名前なの。ちゃんとダンちゃんって呼んであげて」
ジュノは言った。
「そうなんだ。ダンちゃんは、なんで部屋の隅に向かうの?」
俺は尋ねた。
「それはね。部屋の隅は魔窟なのよ」
ジュノは答えた。
「魔窟?」
俺は言った。
「そう、魔窟。すべての汚れや穢れや虫などは、隅に集まるわ」
ジュノは答えた。
(ぐぅー)
お腹が鳴った。
「とりあえずダンちゃんに任せておいて、俺らは飯食うか」
俺は言った。
ジュノはうなづいた。
俺はジュノに、
人参と少しの米をあげた。
玉葱も渡そうとしたが、
断られた。
「ニオイがきつい食べ物は妖精は食べないわ」
ジュノは答えた。
10分ほどで、
俺らは食事を終えた。
「ご飯は足りた?」
俺は尋ねた。
「十分よ。ねぇダンちゃん。こんどこっちのお皿お願い」
ジュノは言った。
「お皿を食べさせるのか?」
俺は尋ねた。
「違うわよ。付着しているソースとかの汚れよ。ダンちゃんは基本何でも食べるけど、たまにこういう味を食べさせると喜ぶのよ。いわば人で言うコーヒーなどの嗜好品のようなものね」
ジュノは答えた。
ダンちゃんは、すごいスピードでこっちにやってきて、
お皿の上に乗っかった。
ダンちゃんが通るところがピカピカになっていく。
「これすごいな。ピカピカだ」
俺は言った。
「そうでしょ。スゴイでしょ。私たち妖精はお風呂に入らなくても、ダンちゃんに汚れを食べさせて、キレイにすることができるの。
あなたもダンちゃんに汚れを取ってもらうといいわ」
ジュノは答えた。
ダンゴムシに汚れを食べられる。
それは考えただけでも気持ち悪い。
「それはさすがに……」
俺は断った。
「そう。じゃあ私は一足先にさっぱりするわ。じゃあダンちゃんお願い」
ジュノは言った。
おいおい。
ここでまさか、服を脱ぎだしたり……。
俺は目をそらす。
(きゃは、きゃはははは、もうくすぐったいダンちゃん)
声が聞こえる。
俺は我慢しきれず、
少しだけ覗く。
するとそこにはジュノが着衣のまま横たわり、その上をダンゴムシが前後にローラーのように動く姿があった。
「あの……、服のままで大丈夫なの?」
俺は尋ねた。
「もちろんよ。これだと服の汚れも、身体の汚れも両方キレイにしてもらえるわ。ただ少しくすぐったいけど」
ジュノは答えた。
俺は何かに期待した自分が恥ずかしくなっていた。




