魔除けのツボの住人達
俺は書き込みを継続した。
……
5 :さすらいの自宅警備員:
・俺は遠隔から街や村を救う。
・チート的なアイテムとかはない。
・異世界の人間に指示できる。
・一度に指示できる回数は3人まで。
・指示は夢のお告げという形(無視する奴も多い)。
・データ量に制限がある。
・一つの街や村につき、指示できるのは1回につき3人まで。
・魔王軍に攻め込まれている。
・王国だが、王直轄の軍は少なく、残りは貴族の私兵達。
・情報統制に軍を使っている様子。
・6000の街や村があり、うち1000は前任者の時に壊滅。
・前任者は300人以上、精神的にムリで辞めた。
・俺は未経験。
6 :名無しのツボ民:
おいおい。
ネタだと思ってたら結構リアルに作りこんでるな。
ネタにしても面白い。
でもこの設定ムリゲーだろ。
7 :さすらいの自宅警備員:
そうなんだ。
ムリゲーなんだ。
でも頼む。
なんか取っ掛かりが欲しい。
8 :名無しのオカルトマニア:
OSINTという概念がある。
オープンソースインテリジェンス。
外交や諜報活動の用語で、
オープンにされている情報を徹底的に集めて、
そこから判断に結びつけていくということ。
何事も情報収集が命というのは間違っていない。
9 :さすらいの自宅警備員:
情報収集か……。
どんな情報が必要?
10 :すらいむ:
えぇい。釣られてやる。
まず魔王軍が何を食べているかだな。
食料源がわかれば、兵糧攻めができる。
……
俺はデスクを離れた。
「なぁ。魔王軍達の食料ってなんだ?」
俺は尋ねた。
「生き物全般よ」
ジュノは答えた。
「つまり……。奴らは食料を求めての侵攻なのか?」
俺は尋ねた。
ジュノはうなづいた。
俺は事実を伝えるのかどうかを30分ほど悩んだ。
仕方ない。
伝えよう。
……
11 :さすらいの自宅警備員:
魔王軍の食料源は生物全般だ。
12 :すらいむ:
そうか……。
兵糧攻めとかじゃなくて、
兵糧を獲りに来ているのか。
それはキツいな。
13 :名無しのオカルトマニア:
魔王軍の指揮系統はどうなんだ?
人間の軍隊のように、何か指揮官がいるのか?
……
俺はデスクを離れた。
「なぁ。魔王軍には指揮官のような者がいるのか?」
俺は尋ねた。
「では見てみましょう。こっちよ」
ジュノは指をさす。
俺はそこに触れる。
(ああっ……)
魔王軍の映像が流れる。
そこには、
指揮官のような者が写っていた。
「わかった、ありがとう。魔王軍の情報はどの程度だ?」
俺は尋ねた。
「映像で見られるだけよ。詳しい情報はわからない」
ジュノは指をさした。
顔が紅潮し、息も切れている。
俺は映像を切った。
……
14 :さすらいの自宅警備員:
映像は見られるのだが、全てはそこから判断しなければいけない。
見たところ魔王軍に指揮官のような者はいた。
15 :名無しのオカルトマニア:
そうか……。
魔王軍の指揮系統が整っているとなると、
組織だった動きをする可能性があるということだな。
厄介だな。
16 :名無しのツボ民:
どっかの領主と騎士団長あたりに夢を見させて、
指示したらどうだろう。
権力者なら、効果あるんじゃないか?
17 :すらいむ:
それは思った。
騎士団長だけじゃなく、副団長とかにも見せたら、説得力があるかもしれないな。
……
俺は考えた。
この2人のいうことは的を得ている。
俺はジュノを見た。
ジュノはうなづいた。
……
18 :さすらいの自宅警備員:
わかった。やってみる。
……
俺はそう書き込んだ。
俺は一つの下級貴族に目をとめた。
領地の規模も小さく、領民も少ない。
失敗してもダメージが少ない。
そう思った。
データ量に制限があるため、
あまり複雑な指示は送れない。
数時間考え抜いて、
「魔王軍の危機に備えよ」
とのメッセージにした。
夢を見せる相手は、
領主
騎士団長
副団長
の3人だ。
「決まった。どうすればいい?」
俺は尋ねた。
「これね。じゃあここに記入して、ここにチェックを入れる。そしてこのボタンを押す」
ジュノは答えた。
俺は言われた通りに記入し、チェックを入れる。
そしてボタンを押す……。
(はぁあぁぁぁー)
ジュノが身体を抑えている。
きつそうだが、俺は見ているだけしかできなかった。
数分後、
ジュノはようやく解放された。
「大丈夫か?」
俺は尋ねた。
「平気よ。送れたわ」
ジュノは答えた。
(どぅくん)
俺の頭の中に、映像が流れ込む。
手を差し伸べた彼らが滅びゆく映像だ。
なに?
失敗した。
なぜ?
3人とも相談もせずに、
ただの悪夢だと酒を飲んで忘れた。
なんてことだ。
気が付くと、その領地は赤く染められていた。
俺はしばし、呆然とした。
自分の無力さに、ただただ嫌気がさした。
「簡単じゃないな」
俺は呟いた。
「えぇそうよ。
簡単じゃない。
しかし、あの映像を見せられるのはキツいわね」
ジュノは横たわりながら、涙を流していた。
俺はただ頷いた。
さてどうしよう。
どう書き込みをしよう。
俺は掲示板を開いた。
……
19 :すらいむ:
なぁおい。
俺さっき、一つの領土が滅びる映像が頭の中を流れたんだけど、あれは1と関係ないよな。
20 :名無しのオカルトマニア:
俺も見た。
夢を見たやつが3人とも、
悪夢だと思って、酒を飲んで忘れていた。
21 :名無しのツボ民:
まったく同じ映像を見た。
領地が侵攻され、
農地は踏みつぶされ、
生き物は食われた。
おい。
これガチなのか?
……
「おい。これはどういう事なんだ?」
俺は尋ねた。
ジュノは考え込んでいる。
「可能性としては、あなたが掲示板で結んだ縁がきっかけで、相手に画像が届いたってことよ」
ジュノは答えた。
そんな事があるのか……。
俺は掲示板に再び書き込む。
……
22 :さすらいの自宅警備員:
実際にやってみた。
失敗だった。
君らがいうように、俺も同じ映像を見た。
だからリアルだ。
それがこっちの現実だ。
恐らく、俺が掲示板に書き込んだことで、君らに俺と同じ画像が届いたってことだと思う。
すまない。
君らにも負担をかけてしまって。
このスレはもう閉じるよ。
……
そう書き込んだ。
すると、
すぐにレスがあった。
……
23 :すらいむ:
バカ野郎。
閉じるな。
お前ひとりで抱えるな。
こんなもの見せられたら、後には引けねぇ。
24 :名無しのオカルトマニア:
そうだ。
これはきっと俺らにもつながることだろう。
俺も一緒に戦うぞ。
25 :名無しのツボ民:
面白いじゃないか。
俺も手伝うぞ。
……
俺はスレ民達の意外な励ましの言葉に、
ふとジュノを見た。
ジュノは、涙を拭いていた。
その時、
なにか俺の中で、目覚める音がした。




