七十七話『戦士を名乗る奴等に、ロクなやつはいない』
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人間を超越した力でこちらへ走ってくるカガミは、周りに幾つもの赤い短刀を渦巻く。いつでも飛ばす準備は出来ていると言わんばかりに、生々しい怪物と共に前進してくる。狙うは、レッド。長い杖でレッドを殺そうと突き進むカガミ。
ヒロムは、大佐の前に立ち、正留、サユリ、ブラック、大佐の四人を庇う。
「あいつと対話したい!なぜかそう思うんだ」
ヒロムを見て、大佐はレスキューフォンを強く握る。
『はァァァァァァァァァァァ!』
ヒビキとグリーンが同時に、カガミに取り憑く化け物に蹴りの攻撃を繰り出すが、短刀が二人のいる方向へ飛び、行動を邪魔する。
飛び跳ねて受け身の姿勢を取るグリーンとヒビキ。
『でぃやァァァァァァァァァァ‼』
イズミとトウマが銃弾とマイナスエネルギーのレーザービームをラビット・フレーバーのような化け物に向け放つが、数発当たり化け物が身体を捻るもののこれも効果はほとんどない。
それどころかカガミの目は虚無を映し出すばかりだ。
ブラックは前を向く。
「身体が痛む、足が…動かねぇ、腕が、痺れる、それでも、俺は止まりたくない!」
「ありがとな少年!」
ブラックの声の後、ヒロムの視界に映ったのは英雄の勇ましい後ろ姿だった。
グリーンの戦う姿と、戦場に向かっていくブラックの姿。
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カガミに必死に訴えるレッドの姿がヒロムの視界の中で重なる。
「ッ…ッァァァァァァァァァァァァァ…」
鳴き声に似た悲鳴を上げるカガミ。
イエローが大佐やヒロム、サユリや正留がいる場所にレーザー光線を放つ。
大佐と共にレーザー光線を避ける三人。
軽率なイエローの行動が目に入ったカガミは、
「はッ…」
と一瞬目を覚ましかける。
自分は、今まで何をしてきたんだろう。
自問自答をするカガミだったが、
「くッ…」
と片手で喉元を強く抑えた。
もう自分は、正義じゃない。完全悪にもなりきれない。
狂ったままにサユリを襲撃しようと一歩ずつ近づいていく足を、踏ん張るように止める。
処刑台に行きたがる少女を、彼女自身の自我が食い止めるような、映画のようなワンシーン。
アコーディオンの軽快な音色が、カガミの想像の中で鳴り響く。
「トメ…テ…オネガイ…トメ…テ…」
カガミの心の中を映し出すかのように、化け物が繰り返す。
トウマが、「こいつ…止めてって…」と化け物が言っている事を繰り返す。
イエローも化け物に連動するかのように、
「ッ…ッ…」
と泣き崩れるように行動を制御した。
ブラックが、「…ネックレス…」とイエローがつけているネックレスを見て呟く。
ブラックは黒紫の剣で、イエローのネックレスを取り外す。
黒ベースの衣装から、普段の黄色い衣装に戻るイエロー。
そんなイエローにブラックは、ホワイトの言葉を思い出しながら、
「おかえり」と涙交じりの声で言った。
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「…このバケモン、あの女の子の方向狙って歩いとる」
と指をさしながら呟くイズミ。
「機体は無い、ここで終わりか」
とグリーンが諦めかけた時、
「いいや、まだカギはあります!」
と赤色の剣を握りしめながらレッドが言った。
「大佐さん!」と遠くにいる大佐を呼ぶレッド。
サユリ、ヒロム、正留もレッドのほうに顔を向ける。
ブラックはイエローの肩に手を乗せながら、歩みを進めて行く。
イエローは、「俺…今まで何して」と少しボーッとした声で呟いた。
大佐が、「みんな!」とレッドたちがいる場所へと走って行く。レスキューフォンを片手に。
カガミは化け物と共に空中を舞った。
「馬鹿!集まるのは危険だ!」
と手を伸ばすトウマ。
『グオオオオオオオオオオ‼』
化け物の咆哮が、地鳴りのように轟く。
「くッ…」
靡く風を顔の前に添えられた両腕で避ける戦士たち。
ピーッ!ピーッ!
大佐のレスキューフォンから、高い通知音が鳴る。
ホノカは、「ようやく救われるな、カガミ」と呟いた。
黒猫も何処かからノロノロと歩いて現れる。
「本当にやれるのか」と大佐に尋ねるトウマ。
大佐は、「…助けたいって気持ちに共鳴しているんだ、やる価値はあるよ」と続ける。
レスキューフォンを掲げる大佐。
その後ろに、ブラック、レッド、グリーン、イエロー、トウマ、イズミ、ヒビキ、サユリ、ヒロム、正留が待機する。
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レッドは叫んだ。
「弐式火神!いつかお前は全てがシナリオ通りだと言った‼だけど‼助けたいと思う心が、無条件に誰かを愛したいと真っ直ぐに思う心が重なり合った時‼人は奇跡を起こせる‼ 歪んだ愛で出来上がったシナリオなんて簡単に覆すことが出来る‼」
レッドの持論を聞いたカガミに取り憑く化け物は、
『グオオオオオオオオオオオオ!』と呻き声をあげた。
レスキューフォンを掲げる大佐。
「全ての戦う者の魂よ、俺たちに奇跡を‼正しさと力を‼」
レスキューフォンは光に包まれ大型の槍に変形する。
それと共に、ホワイト、ブルー、ピンクの魂を先頭に多くの『誰かを大切にしたい、誰かを無条件に愛したいと願っている魂』が徐々に複製され、戦士たちの心とつながって行く。
カガミに取り憑く化け物は、『グオオオオオオオオオオオオオオオオ!』と悲鳴を上げた。
『はァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!』
戦士たちをはじめとする無数の魂が共鳴する。
高い波動が、カラフルなレーザー光線をカガミに放っていく。
「ッ⁉」 と目を見開くカガミ。
カガミの身体は化け物と分離し、化け物は消失。
空間は歪むようにイルミネーションエリアから元の遊園地へと姿を変えて行く。
眠った状態のカーガ、マナ、佐野本部長が遊園地の広場の中央に座った状態で現れ、
「親父…!」
と一目散に大佐が駆け出していく。
複製された無数の魂が、ホタルのようにぷかぷかと夜に浮かぶ。
カガミは、「あぁ…」と力無く座り込んだ。
変身を解いた江藤が、カガミに話しかける。
「カガミさん」
「僕はあなたを許す事はない。でも…誰かを守りたいって気持ちは、わかる。僕があなたと同じように理不尽な立場に立たされてしまったら、あなたと同じ選択をしてしまうかもしれないから…だから僕は否定した。あれは僕を否定するためでもある言葉…僕は学びが足りなかった。一方的に非難する言葉ばかり言って…ごめんなさい」
カガミに片手を差し出した。
カガミは、「…」と切なげな表情を浮かべ、その手を取る事を躊躇う。
そんなカガミに、ブラックが電柱に凭れかかりながら、
「そりゃ記憶もねぇわけだ、そもそも俺たちが実在しないなら」
と理由がわかりすっきりした表情を浮かべていた。
ブラックは微笑む。「取ってやれよ。憧れの人、なんだろ?」カガミは、レッドの手を取って立ち上がる。
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イズミはトウマと顔を合わせながら、「これはよかったんか」と呟く。
トウマは、「まァ、俺たちの仕事は終わりだな」と時計を見ながら返した。
「じゃあ今日はリビングでなんのゲームする?」
とヒビキは一歩歩きだす。
「スマ●ラ‼」「ス●ラトゥーン…」
思い思いに返すイズミとトウマに、ヒビキは、
「いつも一緒じゃなーい‼」なんて言って歩いていく。
ヒロムは、「大冒険したな正留」と正留の頭を撫でた。
正留は、「戦士のお兄ちゃんとレスキュー隊のお兄ちゃんが守ってくれたから何も怖くなかった‼」と微笑む。
握手を終えたカガミとレッドは、別方向に走り出す。
カガミが真っ先に向かった先は、サユリがいる場所。
時間が無いのか、少しずつ空間も、人々の形も剥がれ落ちて行く。
空間が剥がれて行く中で、カガミはサユリを抱きしめる。
サユリは、「な、なに⁉」と驚きの表情を浮かべる。
ガラスのように割れて崩れ落ちて行くヒロム、正留の顔。
「来世でも、必ずお前を迎えに行く、今度こそ、やり直そう。今度こそ、お前と対等な関係に…」
とカガミが呟いたところで、ホノカが、
「転生の時間だ」とカガミを迎えに来た。
黒猫も、「長い道のりだったな」と続ける。
空間がパキパキッと音を鳴らしながら崩れ落ちて行くのと同時に…
カガミの身体は五月のような心地よさと、浮遊感を感じるのだった。




