七十六話『人間は自分の信念を否定されたら簡単に曲がるんだよ』
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「おい‼おい正留!」弟を探してイルミネーションがある場所へ走るヒロムを、サユリが「ダメだよヒロム!避難してって…!アナウンスかかってたじゃん!」と止めながら追いかける。
「ったく!出来るわけないだろそんなの!俺の弟を見捨てて!」と言いながら戦士たちが戦闘している場所へ駆け出すヒロム。
爆風が吹き荒れる。ミシミシとした木々が揺れる音が、サユリとヒロムを襲う。
「クソッ!母さんも見当たらないし!」と舌打ちするヒロムに、サユリは「駄目、いくら助けたいって思ったって危険を冒してまで助けにいくのは違う!ここはいったん引くしかない!」と彼の服の裾を引っ張りながら訴える。
燃える木々。轟音と共に黒い戦士の身体が宙を舞い、ヒロムやサユリが隠れる茂みがある場所へと飛んでいく。銃弾、レーザー光線。あまりにも危険だ。
「誰か…飛んで…」と目を見開き怯えるサユリ。
サユリはブラックが倒れている場所へ銃弾を避けながら駆け寄る。
「サユリ‼」サユリを追いかけるヒロム。
飛んで来た銃弾がサユリの頬を掠める。ヒロムはマイナスエネルギーのレーザー光線を交わすべく蹲る。
ブラックを支えるサユリ。
「あいつを…弐式…火神を止めてくれ」と身体の節々の痛みを堪えながら言うブラック。
ヒロムは、「なんだ…これ」とヒーローの姿を前に強烈な違和感を覚える。自分がここに存在していないような、そんな違和感を。
「ちくしょう…」と悔しそうにするブラック。
「ダメだ、ヒーロー!」と涙声で訴えるヒロム。
「ヒーロー、辞めてくれよ、俺の弟を見捨てて死なないでくれ!」
ヒロムはブラックの肩を支えて立たせる。
「こんな場所で死なせない、走馬灯を見ている頃だと思うが、正義を滾らせてるお前を俺は放っておけない!名前も顔も知らないヒーローがこんなにボロボロになるまで戦ってるんだ、だから!俺は諦めない!正留を…必ず助ける!」
見ず知らずの子供に言われたブラックは、「ふは…、よくできたガキだ」と笑みを零す。
「こんな悪い事してるやつ…一体誰なんだよ…」と言うヒロムに、ブラックは「弐式…弐式火神」と続ける。
「はッ…」ヒロムは短い呼吸をした。ヒロムの鼓動が早くなる。
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「ッ!はッ!」一方、杖を振り回しながら戦うカガミ。レッドは炎を纏った赤い剣で対抗する。だがそのレッドを、イズミとトウマの銃弾の嵐が妨害する。
ヒビキと一対一で戦っていたグリーンは、「ダモクレス・インフェルノ・カタストロフィーーーーーーー‼」と絶叫しながらヒビキに攻撃するが、背後から破壊光線を食らってしまう。
衝撃で赤い閃光が点滅する。
「ッぎゃあああああああああああああああああ!」と悲鳴を上げるグリーン。
グリーンのヒーロースーツは裂かれ、背中が丸出しになる。
その状態で花々の上に倒れ込むグリーン。
同時に駆け付けたサユリが、「もうやめて‼」とカガミに訴える。
レッドに杖を振りかざそうとするカガミの腕にしがみつくサユリ。
「ダメ、ダメよ、これ以上の争いは何も生まない、ただ犠牲者を増やすだけ!お願い、もう止めて、これ以上手を汚さないで!」
サユリの訴えに、「なぜ…お前が⁉」と動揺するカガミ。
その様子を遠くから見たホノカが、意味深に口角をあげる。
手が止まるカガミに、「お前の正義は!僕が否定する!」と叫びながら炎を纏った剣でレッドが襲いかかる。
このままだとサユリが炎の渦に巻き込まれてしまう!
カガミはサユリを抱きかかえて飛び出す。
「なぜ…お前はここに来ないはず!すべては完成されたシナリオなのに!」カガミは目を見開きながら動揺する。
サユリは、「正留くんを助けに来たの、それと、私はこの無意味な戦いを、連鎖する悲劇を、止める!」と言いながらカガミを睨みつける。
「はァッ…」息を荒くさせながら立ち止まるカガミ。
「なぜかね、本能で思うの。ここであなたを止めないといけないって。あなたを見ると罪悪感に蝕まれて…」声を震わせるサユリに、
カガミは、「サユリ…お前は…本来のお前は…俺と同じ…人殺しの十字架を背負う人間のはずなのに…なぜそんな事を言える…?」と途切れ途切れにサユリに言う。
サユリは「人殺しの十字架?」と首を傾げる。
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「くッ…」と痛みを堪えながら立ち上がるグリーン。ヒロムも合流する。
イエローが、ジェットコースターのレールの上からヒーローたちを見下ろす。
「ッ…俺のサユリは…俺を否定しない…」カガミは座り込みながら呟く。
「俺のサユリは…もっと…狂気的で…俺の全てを肯定して…地獄まで俺についてくるような女だ。俺を否定すべきはお前じゃない!うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ⁉」
カガミは絶叫と共に、漆黒の渦に飲み込まれる。
「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
どこか苦しんでいるようにも取れる悲鳴が、カガミの背後からラビット・フレーバーよりもグロテスクな、目玉が取れ、内臓が飛び出たような見た目のウサギを出現させる。
生気の無い目になるカガミ。
その生々しい化け物のような姿を見たサユリは、「ヒッ…!」と両手で口を覆う。
化け物は、敵も味方も関係なくマイナスエネルギ―のレーザービームを放つ。
『きゃああああああああ!』
同時に飛ばされてしまうグリーンとヒビキ。グリーンは壁に強く背中を打ち付けられる。
爆発音に遠くで正留と待っていた大佐は、「正留くん!」と正留を抱きしめる。
ヒロムも、サユリも、ブラックも爆風に飛ばされる。
大佐から見て数メートル先まで飛んでしまうヒロム、サユリ、ブラック。
イズミは地面に頭を強く打ち付けられる。
「なんやねん、なんやねんあれ!」と化け物の指さすイズミに、トウマが「見たこともない地球外生命体だ」と冷静に呟く。
ヒビキは飛ばされたグリーンに、「アンタ、起き上がれる?」と手を差し伸べる。
「くッ…」と苦しみながら起き上がるグリーン。
「嗚呼、私は何度でも立ち上がる…」とグリーンはヒビキの手を取った。
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「もう争っている場合じゃない、全員で弐式を止めなきゃいけない段階に入った」無差別に人がいる場所へレーザー光線や銃弾を放つカガミを見ながら呟くヒビキ。
グリーンは、「でも、どうやって」とヒビキに問う。
「それが見当たらないから困ってんでしょ⁉」とヒビキは声を張り上げる。
グリーンは「…」と息を呑む。
一方、レッドは「レッド・ブラッド・マディ・ストリーム!」と核兵器並みの火炎放射をカガミに繰り出す。
だがホノカが、「斬」と二回手拍子したことにより、その攻撃は消失した。
「くッ…マディストリームが効かない!」と攻撃を躊躇うレッドに向かって化け物から無数の刃物が繰り出される。
「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ⁉」
レッドのヒーロースーツが切り裂かれて一部の肌が露出する。鮮血がポタポタと流れるレッド。
その様子を見ていた大佐が、レスキューフォンを静かに見つめる。
「…画面割れが…」
携帯の割れた画面が、綺麗に無くなっていた。充電ランプの点灯が、チカチカと黄色く光る。
「これは…」と呟く大佐。
確実に、皆が誰かを助けたいと思う気持ちが、蓄積されている。
「鍵、見つかったな」とブラックは笑う。
イルミネーションの切り変わりのタイミングだ。
イルミネーションがピンク色から青色に切り替わる。
何も知らない、綺麗な点灯はどこまでも幻想的で、現実感を欠くものだった。




