四十八話『この世でたった一人になったらつまんねーだろ?そーゆーこと』
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光太郎が仮住まいの家から出てくる。
その様子を、茂みに隠れたムクロが激写していた。
「佐倉光太郎。二十七歳。江藤新一。十六歳。ハツネ。十四歳。…つまらない。家族ごっこなんかして、何になるの?家族なんて、邪魔。制限が増えるだけ。一人でいるほうがよっぽど自由。」
ムクロは呟く。
後ろにいたダーククイーンが「それは本当か?世界って案外面白くてな。突き放すような人間が自分の事を裏では心配していたり、その逆も然り。見え方や価値観は百人いれば百通りだ。」とムクロの呟きに小声で返した。
ムクロは「だから不幸も生まれる」と静かな瞳をダーククイーンに向ける。
「お妃様…あなたはズレてる」とムクロは暗い表情を浮かべる。
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ダーククイーンは「私の言葉はきれいごと。か。そうだな。生物の人生は業の清算のためにある。どれもこれも、魂の勉強だ。大半の人間はお前が言う通り不幸だ。否定なんてしない。だが人間の因果を外れ楽ばかりの身になると、それは退屈だ。なぜだと思う」と戦士たちの仮住まいの様子を眺めながらムクロに問いかける。
ムクロは「…刺激が足りない」と答えるが、
「違う。本当の楽ってやつは全てが自分の想い通りになるんだ。自分を否定する人間がいなくなる。私はあの男から学んだ。拒否される事も時には必要なんだ。だが…。あまりにも過度なものは一人で抱える必要は無い。八方塞がりに見えるとき、それは自分の視野が狭くなっている時だ。必ず切り札はどこかにあると言うのに、それを認識できない人間が世の中から順番に外れていく。本当の寿命はまた別の話だがな。」
ダーククイーンの持論を聞かされたムクロは「生きていれば必ず報われるようになっているんですか?」と尋ねる。
ダーククイーンは「いや?そんなにうまくは行かないさ。自分の環境さえ構築してしまえばこっちのもの。だがそのハードルが高すぎるんだ。」と答えた。
ムクロは「お妃様、先程この世の因果を外れたと仰っていましたが…」と問いかける。
ダーククイーンは「あ」と口を滑らせたと言わんばかりに目を丸くする。
ムクロは「…」と不思議そうにダーククイーンを見つめる。
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「私は死神だ」
ダーククイーンは口角を上げて自分が何者なのかをムクロに伝えた。
ムクロは「え?」と首を傾げる。
ムクロにだけ見えるようにダーククイーンはフードを脱いだ。
緑髪のロングヘアが風に揺れる。
「お妃…様…」と目を見開くムクロ。
誰よりも早くダーククイーンの姿を見てしまったムクロの第一声は、「綺麗…」だった。
「見惚れたか?」嗤うダーククイーン。
ムクロは「いえ…」と首を振り立ち上がる。
「ダークマスター様がなぜあなたを妃に迎えたのかがわかります」とダーククイーンに片手を差し出しながら言うムクロ。
ダーククイーンは、「嗚呼…」と目を逸らした後、「ただの私の我儘だ」と答える。
「それにあいつには想い人がいるんだ。私よりもよっぽど綺麗なお嬢様がな」と少し嫉妬も交えたように続けた。
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「いくぞ」とマントのフードを被り歩いていくダーククイーン。
アジトへ帰る道中、ムクロは「好きなんですか。ダークマスター様の事」とダーククイーンに尋ねる。
ダーククイーンは「……だったらどうする?」と挑発するような笑みを浮かべながら問い返した。
ムクロは「…」と少し困ったような表情を浮かべる。
「安心しろ、私はあの男に対して一ミリたりとも好意は無い」と答えた。
ムクロは「じゃあ」と少し期待で胸を弾ませる。
「いっただろう?あいつには想い人がいる。と。」とムクロに言ってその先を歩いていく。
「それにあいつはおすすめしないぞ…絶対束縛が酷い」と過去に起こったいろいろな事を思い出しながら続けた。
ムクロは「ダークマスター様の事に詳しいんですね」と言うムクロに、ダーククイーンは、「あんな男に詳しくなったってなんの意味もない」とつまらなさそうに答えた。
二人の後ろ姿はまるで姉妹のように微笑ましく並んでいた。
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漫画誌を持って帰ってきた光太郎とダーククイーン、ムクロはすれ違う。
「…」光太郎が横に視線を向ける頃には、ムクロとダーククイーンはどこかに立ち去り消えていた。
光太郎は、「今知ってるやつがいたよーな」と呟くが、気にせずに仮住まいの家の中へと入っていった。
「暗いですね…。曇り空になってきた」
窓際で小説を読んでいる江藤が呟く。
光太郎は「今日は何?ラノベ?」と江藤に尋ねる。
江藤は「純文学です。海外の有名な作家さんの。」と光太郎に答えた。
「本読みキャラもいいけどな、ツッコミメガネならアイドルの追っかけでもやっとけよ」と光太郎は江藤に言った。
江藤は「別に興味ないです。アイドルなんてたいして知りません。邪魔なんでどっか行ってください」と機嫌を損ねながら光太郎に言う。
光太郎は「へいへいわぁ~ったよ」と江藤に言って自分の部屋へ戻っていった。
大量の菓子が入った袋を両手に帰ってきたハツネが、「ただいまぁ~」と江藤に言うが、空気の悪さに、「え?」と動揺する。
それとほぼ同じタイミングで、ドオオオオオン‼と一発大きな揺れが発生した。
「なんや⁉」
ハツネはすぐさま冷蔵庫に菓子を入れる。
「ラビット・フレーバーだ…‼この足音はラビット・フレーバーしかない‼」
江藤も本に栞を挟んで飛び出していった。
「ちょっと待ってや‼」
ハツネも手を伸ばして江藤を追いかける。
光太郎は、「ったくなんだよラビット・フレーバーって確定したわけでもねぇだろ…」
と呆れながら子供二人の後を追いかけていくのだった。




