第37話 黒ギャルのケジメ(意味深)
「ということで、槇原さんのことをよろしく頼むわよ」
つまりは、槇原さんと二人きりになるということだぞ。
俺は構わないけど、流石に槇原さんに悪いだろ、それは。
「乗換案内のアプリとかを見れば分かるんじゃないのか?」
「そういうの見るの苦手なんだよ。平谷……マジで、頼んだ!」
「良いのかよ、それで……。俺は構わないけど、嫌だろ、俺と二人きりになるなんて」
「あん? 言っている場合かよ。私を路頭に迷わせる気かよ!」
「いや……そんなことは決して……」
こんなところでカーストトップの威圧感、出さないでくれよ。
虎に睨まれる小動物よろしく、陰キャモブの俺はビビっちゃうよ……。
「ということで、よろしく頼むわね、平谷君」
順調に外堀を埋められている。
どうやら、槇原さんを最寄り駅まで送っていくことになってしまったらしい。
「じゃあね、平谷君、槇原さん。また明日学校で」
「おう、じゃあね、名月さん」
「今日は本当にお世話になった。あんがとな、名月ちゃん」
反対方向の電車に乗る名月さんとはここでお別れ。
ついに、カーストトップの黒ギャル様と二人きりになってしまった。
「…………」
「…………」
無言のままホームで電車を待つ俺と槇原さん。
っていうか、気まず!
陰キャモブの俺が、カーストトップの黒ギャルに、どういう会話すればいいんだよ!
絶対趣味とか合わないし!
『間もなく電車が到着します』
これほどまでに、電車の到着に感謝した瞬間はないだろう。
電車は通勤・通学時間と重なっているため、満員だった。
いつもだったら憂いるところだが、今回に限っては会話する必要が無いので好都合だ。
「あー、ねみー、だりー」
ギャルらしいことを言いながら、舟をこぎ始める槇原さん。
陽キャという種族は友達付き合いがある分、陰キャよりも遥かに体力を使うからな。疲労度が違うのだろう。
「(うっ……!)」
そこで思わぬ弊害が。
ウトウトして身体を揺らしているせいで、槇原さんの無防備な胸元が俺の眼前へと迫っている。
常時第二ボタンまで開けているせいで、槇原さんの美しき胸元がくっきりと見える。
これは……リアル、ラッキースケベか!
名月さんみたく、ワザとラッキースケベを仕掛けてくるとは、また違う。
思わぬところで天然モノのラッキースケベに遭遇した俺は、身体が熱くなる。
ここで俺の良心が発動。
名月さんとはドスケベフレンドだが、槇原さんとはそういう関係ではない。
視線を胸元から窓へと移す。うん、家の灯りが綺麗だ。クールダウンに成功。
思わぬハプニングがありながらも、一度乗換をして、何とか槇原さんの家の最寄り駅へと到着した。
というか、カーストトップの黒ギャル様の最寄り駅を知ってしまって、良かったのだろうか。
「ここからなら、家に帰れるよね?」
「ああ。今日は送ってくれて、ありがとな」
「うん、気を付けて帰ってね」
すっかり目を覚ました槇原さんは、俺に別れを告げる。
ドスケベがバレてビンタされた時のことを考えれば、こうして一緒に、しかも彼女の最寄り駅まで送っているなんて、未だに実感が湧かないな。
「ちょっと待った」
帰ろうとした矢先、不意に槇原さんに呼び止められた。
「な、なに……槇原さん……?」
なんか、ちょっと怖いな。
自分のテリトリー(最寄り駅)におびき寄せて、カツアゲされるとかか……?
カーストトップの黒ギャル様だから、あり得る話だ。
いや、今日一緒に過ごした槇原さんなら、そんなことはしないと思うけれども。
ビクビクしていると、槇原さんは理解不能なことを言い始めた。
「平谷。私をビンタして」
「……はい?」
彼女の言っていることが、何一つ分からない。
「うちの親の教えなんだ。『人は常に平等であるべき』って」
「なかなかいい教えだね。でも、それとビンタが何の関係があるんだ……?」
「痛みも苦しみも平等であるべきってことだ。誰かが痛めつけられていたら、痛めつけた相手にそれと同じくらいの痛みを与えるべき。そして、逆に誰かを痛めつけてしまったら、自分がそれ相応の痛みを受けるべき」
「なるほど……そういうことか」
その理論に基づくと。
槇原さんは俺にビンタを浴びせてしまった。
だから、逆に槇原さんは俺にビンタを浴びせられなくてはならない。
「そういうことだ。やれ、平谷。覚悟は出来ている」
「いや、ちょっと待ってくれ。それは前提が違うぞ。俺はきみにドスケベを働いてしまった。その代償としてビンタを受けた。だから、この時点で『平等であるべき』というルールが成立している」
「確かにそうとも言えるが、平谷は私に直接危害は与えていないだろう? そのルールは成立しない。平谷、私をおもんばかる気持ちは嬉しいが、これは私のけじめだ。我が家のルールを破りたくないんだ。さあ、やれ!」
「ええ……」
本当に正義感が強すぎる……!
「さあ、こう……バチンと!」
「流石にできない」
女性に手を上げる、ましてやカーストトップの黒ギャル様に手を上げる、なんてことは天地がひっくり返ってもできない話だ。
「仕方ないな。じゃあ、代わりに……胸を揉め! あんたはドスケベなんだろう」
「はあああああああ! 何を言っているんだ、きみは!」
どうやったら、そんな話になるんだよ!
自分なりのけじめをつけようと必死になるが余り、あらぬ方向へ行ってしまっている。
「良いから! 覚悟は出来ている! 人に暴力を振るってしまった、私なりのけじめだ!」
「分かった……分かった、分かった。じゃあ、こうしよう。きみが俺に対して“借りを作る”っていうのはどうだ?」
「借りを作る、か。なるほど、分かった。なんか、あったら、言ってくれよ」
「お、おう」
「じゃあな、平谷」
「うん、じゃあね」
槇原さんは俺に元気よく手を振って、別れた。
あー、普通に可愛い。
しかし、まさかカーストトップの黒ギャルが陰キャモブに、借りを作る日が来るなんて思わなかった。
…………というか、今、美少女黒ギャルの胸を揉むチャンスを逃した⁉
別れた瞬間に、そんな後悔が出てくるあたり、俺はなんてドスケベで最低な人間なのだろうか。
ただ、今は名月さんとだけドスケベなことがしたいんだ。
第一章完結です。第二章が完成次第、また会いましょう。




