第3話 クールで真面目な名月夏輝さん
平谷ドスケベ事件以降、俺はドスケベを封印した。
本能を心の奥底に閉じ込め、モブキャラとして空気のように過ごしていた。
そのおかげで、クラスの連中に忘れ去られ、色々言われることは少なくなった。
そうこうしているうちに、高校二年生になってしまった。
うちの学校、災難なことにクラス替えは行われないので、肩身の狭い思いを余儀なくされることに変わりはない。
「本日は委員会決めです。委員会所属希望の生徒は立候補してください」
教壇には、担任教師である間宮摩耶先生が立っている。
薄幸美人と形容されるような奥ゆかしい印象がある、20代半ばくらいの真面目で若い女教師だ。
その美貌から主に男子から人気の高いが、生徒とプライベートな話は一切しないので、謎の多い先生である。
それと、スーツを着込んで目立たないが、かなり胸は大きいとお見受けする。俺でなきゃ見逃しちゃうね。
……いかんいかん、ドスケベはもう卒業したんだ。
もう、あんな目に遭うのはごめんだからな。
間宮先生が次々と委員会の名前を告げ、その委員会を希望する生徒が次々と立候補していく。
俺はその様子をぼーっ、と眺めている。
委員会なんて目立っている陽キャたちにやらせればいい。
俺みたいな陰キャモブが立候補したところで迷惑がかかるだけだ。
「図書委員を立候補してくれる人、他にいませんか?」
どうやら、なかなか決まらない委員会があるらしい。
うちの学校は各委員会に必ず二人所属しないといけない決まりがある。
教壇には間宮先生の他に、一人の女子生徒が立っていた。
彼女のパートナーが決まらないらしい。
確か、彼女の名前は……。
「誰か、名月夏輝さんと図書委員会に入ってくれる人はいませんか?」
そうだ、思い出した、名月夏輝さんだ。
艶やかな黒髪を三つ編みでまとめ、知性を想起させる黒縁メガネをかけた女子生徒。クール、真面目、地味、大人しい、陰キャのといったキーワードが当てはまるだろう。
だが、染み一つない純白な肌、眼鏡越しに見える吸い込まれそうなくらいの大きな瞳、細く高い鼻筋。
メガネと三つ編みでデバフがかかっているが、それでもクラスで上位に入りそうなくらいは可愛いとは思う。
とはいえ、彼女はクラスでは目立った存在ではない。
というのも、口数少なく、特定のグループにも属しておらず、いつも読書をしているせいでどうにも近寄りがたい。
男子グループでも「名月さんって意外に可愛くね?」みたいな話にはなりはするものの、そのオーラに圧され、お近づきになった男子生徒は皆無だ。
良く言えば、クールで真面目な優等生。
悪く言えば、取っ掛かりにくいぼっち陰キャ。
そんなところだろうか。
「あの……先生。推薦しても、よろしいでしょうか?」
名月さんは、そんな提案をしてきた。
「はい、構いません」
間宮先生は彼女の提案を許可。
友達でも推薦するのだろうか……?
確かに、友達と同じ委員会に入れば心強いだろうけど。
だが、前述のとおり、名月さんは特定の人と仲良くしているイメージが無いので、誰を指名するのか見当がつかない。
「平谷並介君を推薦したいです」
は……?
俺は耳を疑った。
今、名月さんは俺の名前を言ったよな……?
まさかの名前にクラスが騒めき立つ。
俺という存在がクラスで公になったのは、あの事件以来のことだった。
「平谷君、名月さんの推薦がありましたが、受け入れてくれますか?」
「え……あの……その……」
口が上手く回らない。
いきなり指名されて、クラスメイトの視線を一身に浴びるなんて、モブの俺には耐えられない。
……というか、そもそもなんで名月さんは、俺を指名したんだ?
話したことなんてないし、接点もない。
というか、俺を認識していたこと自体、ビックリだし。
「よろしくお願いするわ、平谷君」
名月さんは俺と目を合わせ、語り掛けてくる。
……これは、断れない空気だ。
「平谷君、大丈夫ですね…………?」
「…………はい」
同調圧力に屈した俺は、首をしっかりと縦に振ったのであった。
……まあ、委員会活動の中でもわりと地味で緩いイメージがある、図書委員ならモブな俺でも務まるかもしれないが。




