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秋に咲く華  作者: 風花月
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24/24

情報網

 夕方になって、ようやくマーロン師がやってきた。ウィレイも意識を取り戻して、起き上がっていた。

「すまない、遅くなって」

 

 夕食前のひととき、皆サロンで一休みしていた。

「いらっしゃいませ、マーロン師」

 ウィレイは立ち上がり、しとやかに一礼した。それを見て、アリストスも慌てて立って礼をした。

 オウトゥクスは手を挙げて、歓迎の意を示した。

「師よ、どうでしたか?」

 オルフェは、国の様子を訊いた。

 マーロンはソファーに腰掛けると、背もたれにバフッと背を預けた。

「そうだな……つい怒って結界を解いたが、入り込む隙を狙っていた連中がすぐに気づいたらしく、もう入り込んでいる。主に王宮内や王領にだがな」

「なるほど……それ以外の地はどうでしょう?」

「そこは、ほれ、さすがに哀れなのでカバーしておいた。今のところ大事ない」

「それは良かった」

 オウトゥクスは紅茶を一口飲んだ。

 ベルーラが心配そうに言った。

「王家の皆様は……ご無事なのでしょうか」

 マーロンは半目になって答えた。

「まあ、ご無事であろう。……王と皇太子は。少なくとも皇太子は無事なはずだ。何も澱んだ思いがないからな。王妃のところには、恐らく小物が入り込んだことだろう。そいつが何を仕掛けてくるか見ものだが」

「まぁ……仕掛ける先は、我が家でしょうか?それとも国に?」

「そいつの正体によるかな。国から堕とされたなら、国に。だが、世界を引っ掻き回したいとき考えているなら、こちらにだろう。もしくは、各御方に。何にしても、あっさり入ってきたところを見ると、前々からこちらの綻びを気をつけて探していたのだろう。厄介な問題を起こさねばよいが」

 オルフェは、父を見た。

「探しましょうか」

 オウトゥクスは、じっと何かを考えながら答えた。

「もう少し、動きを確かめたらな。焦って動くと、

よいように使われる可能性もある」

「そうですね」

「当面は、その『しでかしそうな奴ら』を見張ることだ。何の目的なのか。誰をどうしたいのか」

「わかりました。……王家に探りを入れますか?」

「そうだな。……人はまずい。羽虫を使おう」


 アリストスは、「羽虫」に反応した。

「羽虫をどうするのですか」

 オウトゥクスは、アリストスを見た。

「ああ、そうだね。そなたは知らないのだった。何かを探るとき、我々は人を使うことが多いのだが、情報を多岐に渡って集めたいときは、羽虫を使うのだよ。虫の記憶を使って記録するのさ」

「虫にそのようなことができるのですか?」

「できねば使うまい。虫を使うメリットは、見たことをそのまま記憶するため、状況が把握しやすくなることだ」

 ウィレイが口を挟んだ。

「下つ国でいったら、監視カメラの虫サイズ版みたいなことよ。ああでも、それを使えるのは、極一部の術者だけだけど」

「人だと、働きかけることがあるときは、便利だ。だが、身元が割れる危険性がある。虫ならば、結界をすり抜けることも可能だし、潜んで現場を隈なく撮ることができるのだよ」

「撮ったら、どのようにするのですか?」

「そうだな……」

 オウトゥクスは周りを見回した。マーロンはスッと立ち上がると、カーテンの上の方にいたコガネムシのような虫を捕まえた。

「この館内に一旦虫除けをかけた方がいいかもな。こいつはどこの回し者なのか」

 オウトゥクスはマーロンから虫を受け取ると、術式を組み立てた。

「丁度いいところに。アリストスよ、この国ではこうするのだよ……情報を集めるために。そして、術者の能力によっては、誰が仕掛けたのかまで確かめることができる」

 出来上がった円陣の中に虫を置くと、立体の映像が浮かんできた。それは、マーロンが来る前からのこの部屋の様子であった。各々の声まではっきりと聞こえてくる。

「これは……」

 アリストスは驚いた。ビデオやカメラなどないと思っていたが、それを不自由に感じさせないアイテムがある……虫という。だがそれは、普通にその辺りにいる全ての虫を疑ってかかるようなのでは?いろんな虫をそういう目で見る必要があるということか。

「やれやれ、わずかな時間の隙に入られたのだな」

 マーロンが呆れ顔で言った。

「すみません……対処が遅れたようです」

 ウィレイが謝った。

「いや、そなたは頑張りましたよ。一人で結界を張ったではありませぬか」

「お母様……」

 ベルーラがウィレイの頬をそっと撫でた。

「気にすることではありません。それより、どこからの贈り物ですかそれは?」

 オウトゥクスが、新たな陣を組み始めた。

「む…………」

 陣に、文字が浮かび上がってきた。

「これは……」

 皆がその文字を見つめた。

「「「王家か」」」

 しかし、とオルフェが首を傾げた。

「こんなに早く、こちらに寄越しますかね?そこまでの宮廷魔術師って、マーロン師以外におりますか?」

「私はわざわざここを記録する意味も趣味もないがな」

「ですよね……でも、能力のある方って、どなたかいらっしゃいます?」

「今の王宮にはおらん。……が、以前下つ国に追放された奴でこれができるのが一人いる」

「それは、……結界が無くなった隙に戻ったということでしょうか?」

「何とも言えんな。そいつかもしれないし、我らが知らぬ輩が新たに入ってきたのかも知れぬ」

「なるほど……」

「とりあえずは、この領地全体に、記録用の羽虫らがどれだけ入り込んだかを確かめる必要がある。それと、駆除な」

「そうですね。夕食前に、やってしまいます」

オルフェが言った。

「ああ、頼むよ」


 オルフェは、術式を組み立て始めた。ウィレイのとは色が違う。薄青く光っている。あっという間に三尋くらいの大きさに広がると、そこに大きな箱のようなものが見えてきた。

「入れ」

 オルフェが呟くと、箱の中にサーッと多くの虫たちが見えてきた。

(さすがにギャーだな)

 アリストスは綺麗な術式の箱をそばで眺めていたが、多くの虫を見て引いた。虫が嫌いではないが、集合体はさすがに気持ち悪かった。

 ベルーラが言った。

「結構な数ねぇ」

「そうですね……」

ウィレイが頷いた。

「結界張るまで大して時間経ってないのに、まあよくもここまで寄越したものだわ」


 箱の中は八割がた埋まっていた。と、風の流れのようなものが始まり、虫たちはぐるぐると回転を始めた。

「!」

 オルフェは一気に念を送ると、虫たちを消し去った。

 ふぅっと一息つき、手を下ろした。

「とりあえず、領地内のものは駆除しました」

「お疲れ様、オルフェ」

 オウトゥクスが父の顔になっている。

「まぁ、こんなもんでしょう。次は、あちらに羽虫を送る番ですね」

 そういうと、オルフェは窓を開けて何やら唱え始めた。両手を包むように形取ると、そこから光がボウッと溢れてくる。それに向かって、羽虫らしきものが次々と入っていく。光の玉はどんどん大きくなり、バランスボールくらいのサイズになった。

「行け。王宮へ」

 光は弾け、スッと消えていった。

 オルフェは、一つ息をついて、座り込んだ。


「お兄様ったら。大丈夫ですか?」

 ウィレイは心配してそばに歩み寄った。オルフェは髪をかき上げると、ニヤッと笑った。

「そなた、誰にそんなことを訊いているんだ?私は侯爵家の長男だぞ。これくらいは余裕だ」

 ウィレイはむっとして言った。

「何よ、座り込んだくせに。余裕だと言うのなら、私の代わりに結界を張ってくださったら良かったのに」

「張るつもりだったさ。私を待たずに始めたじゃないか」

「だって、何が起こるかわからないから待てなかったのですもの」

「はいはい」

「何よ!お兄様だってやったら疲れてへばるはずよ!」

「そういうことにしておこう」

「キーッ!」

「ウィレイ、やめなさい。淑女らしくないわよ」

 ベルーラが止めに入った。

「だってお母様!」

「そんなの、スルーすれば良いのに」

「できません!」

「ぷっ」

 アリストスは我慢できず、笑い出した。

「アリストスひどい!」

「ごめん。だって、君はお嬢様なはずなのに、すぐむくれるんだもの」

「……そんなことないわ」

「あるよ」

「…………」

「今、腹の中で『キーッ』って言ったろう」

 図星だった。


 ノックが聞こえた。

「入れ」

「失礼いたします。皆様、お食事のご用意が整いました」

「さ、ご飯だご飯」

「ちょっと!まだ話は終わってない!」

「第二ラウンドは、食べてからにしよう。さすがにお腹が空いた」

「むーっ!」


 マーロンが呆れて言った。

「ウィレイよ、そなたもう少し大人になったかと思ったのだが、変わらぬなぁ」

「!そんなことありませんわ、師匠!下つ国でちゃんと経験値を上げて参りましたわ」

「そうかなぁ……どう見ても、アリストスに転がされている気が……ま、我が養子殿だからよいか」

 ベルーラが手を叩いた。

「さあ、皆さん、参りましょう」

「「はーい」」

 ようやく皆、夕食にありつけたのだった。

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