30歩目 今回はかなりまずい状況になっているようだ
三度目の人生。
再び始まる作業に、ヒロフミは何とも言えない気持ちになる。
今度ばかりは今までのように発展と成長だけで終わる事は無い。
そうなるだろうと予想していた。
元の集落の状況と、今起こってる事態。
それを考えれば決して穏便に終わる事は無いと思っていた。
(やるしかないよなあ……)
赤ん坊として母の腕に抱かれながらそんな事を思う。
気分は憂鬱だ。
決して乗り気ではない。
だが、避けて通る事も出来ない。
発生してるの問題は放置していられるものではないのだから。
ヒロフミが生まれてくる直前(と言っても数年ほど前になる)から血なまぐさい事が発生している。
いよいよ追い詰められたのか、元の集落が川下や川上の集落を襲い始めたのだ。
収穫した成果を狙い、最初は泥棒のように奪い始めた。
それに気づいた者達が盗まれないように警備を始めると、今度はそれを殺して奪うようになった。
強盗殺人である。
これに当然抗議をしたが、元の集落の者達は、
『警戒などして邪魔するから死んだのだ』
『何もしないでいれば、誰も死なずに済んだだろうが』
と不可解きわまりない事を言い出す始末である。
元はといえば盗みに来るのが悪い、そもそも自分達の食い扶持を作らないのが問題である。
だが、そう言っても、
『作物が実らない』
『天候が悪い』
などの言い訳に終止して改善しようとしない。
川上も川下も多少の差はあってもそれほど離れた地域というわけではない。
天候に極端な差があるわけではなく、作物の実りに違いが出るというわけでもない。
それらが完全に言い訳であり、嘘八百なのは疑いようもない。
実際、元の集落の様子を見に行った者達は、田畑がかなり荒れてるのを観察している。
手入れをした様子も見えず、雑草がそこかしこに生えている。
ちゃんと鍬が入ってる田畑もあるが、驚くほど少なかった。
何度か見た所、どうもちゃんと田畑を耕してるのはかなりの少数である事が分かった。
しっかり仕事をしてる所はちゃんと成果をあげてるのだが、田畑全体をまかなえるほどの人数ではない。
その為、どうしても耕作しきれない場所が出てきていた。
それでもどうにかしようとしてるのか、種をまいたり苗を植えたりはしている。
しかし手入れが行き届かない状態でそんな事をしても成果はあがらない。
ろくに成長もしない農作物は、本来あるべき成長も出来ず、大半が潰えていく。
それでもどうにか収穫の足しにしようと刈り入れはされるのだが、全体からすれば微々たる量にしかならない。
結局集落全体を支える程の収穫にもならず、足りない分を川上や川下への強奪で賄うしかなくなっていた。
(どうすんだよ、これ)
造物主から事前に聞いてた事を思い出し頭を抱えたくなる。
あまりにも酷い状況に憂鬱にもなろうというものだ。
一応川下の方にひろがってる集落は、こんな元の集落との接触を断絶して独自に活動を続けている。
増大した人口と、それらがあげる収穫の大きさに支えら得た余剰人口が、更に新しい集落を作ろうというところにまで至っている。
その一方で、元の集落からの襲撃に対処するために武装した者達を配置しなくてはならなくなってもいた。
この頃になると、住居周辺は木の壁で覆われ、周辺のある程度もそうなっている。
田畑はさすがに全部を守る事は出来ずにいるが、その分堀を深め、柵で周りを固めている。
常時数人が見張りにつき、元の集落からの襲撃に備えていた。
川上も川上で、襲ってくる連中に対処するべく大急ぎで壁を作ってるところだった。
農作業をしてる時期はなかなか進められないが、秋が過ぎれば大急ぎで柵や塀を作って堀を巡らしていく。
少しずつ少しずつ防備が出来あがり、対処能力は高まっていった。
まだ完全んではないが、対策は大急ぎで進められていっている。
用水路を造り、田畑を更に拡大しようという時期に余計な事に手を取られてしまっていた。
見かねた川下の集落から手伝いの人手がやってきてくれてるからどうにかなってるようなものだ。
純粋に発展・成長に注ぎ込んでいれば、集落は更なる拡大を見る事が出来ていたであろう。
それが遮られてる事に誰もが憤りを感じていた。
そもそも、元の集落が発展していてくれれば、今頃もっと拡大成長してたかもしれない。
あり得たかもしれない可能性について考える事で、怒りが更に倍増されていく。
かような状況で元の集落への怒りが積み重なり、全ての決着を付ける事を望むようになっていた。
経緯が経緯なのでもう擁護のしようごない。
そもそも元の集落に残ってるのは、どこにも行けない者達ばかりであった。
川下はもとより川上からも元の集落の者達は拒絶されている。
まともな交易など出来るわけがない。
そもそも、交易というか物々交換しようにも、元の集落は何も産出していない。
そんな所と何を交換するのか、という事になる。
田畑を提供するといって来た事もあるが、それだと元の集落に定住しなくてはならなくなる。
そうなったら出来上がった作物はどうなるのか?
出来上がった物が強奪されて終わるのではないか?
そういった懸念が常につきまとっていた。
なので、結局元の集落とは何の取引も出来ずにいた。
多少の見返りはあったとしても、それ以上に失う物が大きいなら付き合う意味が無い。
結局、元の集落と接触する意味など何もないという結論になる。
そして、強盗殺人。
これにより溝は決定的になった。
元の集落で、まっとうに田畑を耕してる者達もいるが、それらを酷使してる連中が酷すぎる。
悪い意味での上下関係、圧政を敷く者達と、それに虐げられる者達という形が出来てしまっていた。
また、強盗殺人を犯した連中を捕らえてみれば、圧政・抑圧をしいてる階層の者達だと判明する。
事がここに至り、もう放置しておくわけにはいかないという結論に至っていった。
前回の人生から一百年。
大きな問題を抱えた時代に突入していた。




