29歩目 こんな考え方でも良かったということか
「どういう事だ?」
気になる言い方である。
おそらくヒロフミをこちらの世界に引き込んだという意味であろう。
「言ったとおりだよ。
そう考えるからこっちに引き込んでみたんだ。
あのままあっちの世界で輪廻に入らせるのはもったいないと思ったからね」
「……すまん、話が飲み込めない」
「何の説明もないからしょうがないよ。
でもね、そう考えてるというか、あっちの世界でああいう事をしてたのは見てたから。
だから、もしかしたらって思ってこっちに引き込んだんだ」
一つの世界において霊魂は生死を繰り返し成長していく。
そうして育った霊魂はやがてより巨大な存在になっていく。
なのだが、例外も当然存在する。
その一つが別世界への移動である。
たいていの場合は、新しく出来た世界に存在する者達の指導者的な立場になるためだ。
全く新しい世界の場合、生まれた霊魂だけではなかなか成長しない。
なので経験のある存在を引き込み、新世界における指導者として霊魂達の成長を促す。
新事業に立ち上げにあたり、経験者や技術者を用いるようなものである。
ヒロフミもそうやって引き抜かれた存在だった。
「お前さんは結構特異な存在だったからね。
どうなるかは分からなかったけど、もしかしたらと思って引き抜いてみた」
「じゃあ、何の期待もしてなかったってのか?」
「何とも言えないね。
何せ、今まであまり見なかったタイプだから。
上手くいくか失敗するかも分からないし、そもそもどんな風になっていくのかも見当つかなかった」
なかなかに大雑把である。
「でも、だから試してみようと思ったんだ。
どんな結果になるにせよ、とにかくやってみない事には分からないから」
「なんか、いい加減じゃないかそれって」
「そうじゃなきゃ、色々な可能性を導き出す事は出来ないよ。
もちろん、壊滅や全滅するような状況になったら意味がないけど」
さすがにそうなってしまう方向や傾向などはある程度分かっている。
作られた世界は一つや二つでないし、そこでの人の営みも数え切れないくらいある。
ある程度の傾向や類型などは把握出来ていた。
衰退・滅亡していくのが確実と思われるものは可能な限り除外していた。
そういう方向に向かっていくような考えを持つ霊魂などは決して引き抜きをかけられたりしない。
「でも、お前さんは今まで見た中でも異質っていうか珍しいっていうか。
全くいなかったわけではないけど、あまり見ないもんだったから」
「それで引き抜いたと」
「そういう事。
どうなるか試してみたくてね」
何とも言えなくなっていく。
確かにそう多くはないだろうが、そこまで珍しいものだろうかと思う。
自慢できるような人生だったとは言えないし、もっと良いやり方もあったのではないかと思う。
あの状況ではあれ以上どうしようもないとも思ってはいるが。
「まあ、そんなお前さんがどんな風にやっていくか分からなかったけど。
でも、上手くいけばかなりの成果を上げられるんじゃないかとも思ったんでね。
実際、上手くやってくれたし」
言いながら目の前のヒロフミの二度目の人生が終わった後の集落の様子を出現させる。
空中に浮かぶ画像表示は前回同様に鮮明だった。
その端の方に、集落の状況を示す数値が浮かんでる。
今回は、元の集落と新しい集落の二つが並んでいる。
「新しい集落の方は、元の集落から離反した人達全部の数値をまとめてあるから」
ありがたい解説のおかげで数値の意味もしっかり理解出来る。
その数値の推移がまた凄い事になっていった。
元の集落の方はほとんど何ものびていなかった。
耕地面積は人数が減ったので拡大は見込めないが、それにしても収穫高が伸びていない。
現状維持すらも出来ず、少しずつ減少を続けている。
それに対して新しい集落の方は確実に拡大増大をしていっている。
見れば更に新しい集落もつくり、新規の田畑も出来ている。
牧場も拡がり、イノシシの数も増大している。
また、元の集落と接してる所は壁の建築も進み、外部からの攻撃に対処出来るようになっていた。
最も近いだけに、最も影響があるのだろう。
そこが壁になって元の集落からの影響を阻止してる形だ。
川沿いに下流の方に拡大していく集落は一つ二つと増えていき、三世代四世代目になる頃には四つに増加していた。
人口も全部あわせれば五百人を超える。
それだけでなく、用水路を延長して川から離れた所にも水を引き、そこにも田畑を作っている。
平野部を有効活用するべく頑張っているようだ。
川の上流の方に逃げた者達もがんばっており、二世代三世代で元の集落を上回る人口になっていた。
四世代目では用水路を延長して川から離れた内陸部に田畑を広げている。
これには、間の集落を迂回して交流を続けていた川下の集落からの技術提供を受けたらしい。
足踏みを続けている元の集落と違い、順調に発展しているようだった。
「これもお前さんが元の集落の連中を遮断したからだね。
あそこで受け入れてたらどうなってたやら」
造物主の言葉もそこそこに聞きながら、ヒロフミは目の前の画面を見つめている。
同じ所から始まったにも関わらず、これだけの差が出るとは思わなかった。
人口において元の集落が全くと言って良いほど増大してないにも関わらず、川上と川下の集落は順調に発展していっている。
相変わらず元の集落は人口にして一百二十人あたりを推移してるのだ。
「色々考える事もあるだろうけど、この結果が全てだと思うよ。
あの時お前さんが元の集落の連中を助けなかったから、繋がりを遮断したからこうなったんだから。
もし続けていたら、全部が元の集落と同じ道を辿っただろうね」
想像したくもないが、そうなっていたかもしれないと思うと恐ろしく感じる。
「慈悲や慈愛なんてものにとらわれず、それを向けるべき相手を限定した事でこうなった。
それで良いんじゃないかな。
何を大切にするかを決めて、そうでないものを排除したからこうなったんだから。
それで不幸になってるのもいるかもしれないけど、そういうのは他の誰かを不幸にしてるだろうし。
そういうのを仲間はずれにするのはむしろ正解だと思うよ」
そう言って造物主は肩をすくめた。
「でも、そう思えない人が結構いるんだよね。
だいたいお人好しで、他の誰かを助けにいったりするんだ。
悪くはないけど、見境無く助けるのが問題でね。
結局助けなくてよい、助けちゃいけないようなのまで助けて、あとで自滅するんだ」
「…………」
「一度は壊滅寸前まで追い込んでも、反省した相手は許しちゃうし。
それで相手は勢力を盛り返してやり返す。
それでまた鎮圧して許して、後でやり返される。
その繰り返しがほとんどだよ」
造物主は呆れたようにため息を吐いた。
「君はそうしなかったからね。
初めてって事はさすがにないけど、これまで見た中でも数少ない状態だ。
おまけに上手くやっている。
非常に珍しいよ、こういうのは」
「他の所は違うのか?」
「今の所はね。
でも不思議なもんでね。
君みたいに駄目だと思った相手を容赦なく切り捨てる所が意外と伸びてるよ。
もちろん状況次第な所があるから全部が成功してるわけじゃないけど」
「それでも上手くいってるんだ」
「ああ。
まだ他よりはマシだよ」
何がどうなってるのか分からないが、色々とあるようなのは分かった。
(これで良かったのか)
そう思えるだけでも気が楽になった。
ここに留まらず、もっと良い道がないかとも思うが。
そんなヨシフミに造物主は思わぬ事を言う。
「お前さんが元いた世界の連中の影響も弾けるしな」
「え?」
続きは明日。
18:00と21:00で投稿出来たら良いが。
無理だったら19:00に投稿。
短編で新しいのを出したので、そちらもよろしく。
「異世界転移した現代人ががんばる話/試作品」
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