316.ミヤコ君と怪談の主
皆さんは熊本城お好きですか?
森野は大好きです。
幽霊に示された方ですに歩いて行くと、ほどなくして話に聞いていた急峻な坂道が目の前に現れた。
その坂道の脇は広く開けており、崩れた石垣の石を積んで修繕の時まで保管する場所に当ててあった。
そんな広場には熊本城観光で何度か目にした井戸跡。
「あ、井戸」
すっかり見慣れた其れだったが、この坂の傍の井戸と言えば、何か印象的な話を聞いたはずと、ミヤコは思い出そうとする。
聖女エーデルが落ちた場所かもしれないと目されている理由も、ミヤコには今一つ分からないので、それについても聞きたかった。
「ああそうそう、井戸井戸。熊本城って井戸多いんだよね。元々地下水が豊富ってのもあるけど、地盤調整のために必要だったり、籠城のために必要だったりで」
つらつらと説明してくれるユカリに、ミヤコはふんふんと感心した様子で耳を傾ける。
「と言うわけで、ここには今でも二十以上の井戸の後があってね、それとまた別に熊本城の敷地外にも井戸跡があるもんで、井戸を探すとなるとかなりの数を見なくちゃいけないんだよね。水の湧き出る場所は世界の浸潤も置きやすいし、浸潤が進めば罅にもなるしねえ」
聞き覚えのある話も、初めて聞いた話もあったなと、ミヤコはしきりに頷いて、一部は黒江家の兄弟たちに聞いたことを明かす。
「はい、熊本城の井戸はツバキさんとかツツジ兄さん達に聞きました。世界の浸潤ははじめてな気がします?」
「あはは、そういう蘊蓄好きだもんね、ツツジちゃんもツバキちゃんも」
ユカリはそう言って笑うが、きっとユカリもこういう話は好きなんだろうなとミヤコは思った。
そんな井戸だが、聖女エーデルを探すならその何十もある井戸を逐一覗き込んでいく必要があるだろう。
一応虎ロープで広場には入れないようになっているが、ここには井戸跡が二つ並んでいる
この井戸の中を探した方がいいだろうか。
ミヤコが棒庵坂傍の井戸に目を向けると、先ほどミヤコに手を振ってくれた幽霊と同じ軍服を着た幽霊が、何も持たない両手を上げてこちらを見ろと孟アピールをしていた。
「あ、また兵隊服の幽霊。すごく手を振ってる」
見えてないだろうツカサ達に、アピールの凄い幽霊がいると教えると、ツカサがああ、と頷いた。
「それはたぶん銃くれの井戸の幽霊かもね」
銃くれの井戸、その呼び名をどこかで聞いたことがある気がして、ミヤコは首を傾げる。
きっと熊本城観光の時に聞かされた話の中にあったのだろうが、その時ミヤコは他にも気になることが多すぎて、銃くれの井戸に付いてはあまりはっきりとは覚えていなかった。
ただ、先ほど印象的な話を聞いたはずとミヤコが思っていた話が其れだと言う事は思い出せた。
ニッチ観光とツバキが称していた通り、シオリも知らなかったようで、シオリとルイもそれはどんな幽霊なのかとツカサに問う。
「銃くれって、軍人が銃を欲しがってるって事なんですか?」
「怖い幽霊ですか?」
ツカサは二人の質問に首を横に振る。
「ううん、行軍疲れで居眠りしちゃって、上司がお灸をすえるために銃を隠したら、自分のせいでなくしたって思いつめちゃって身投げしちゃった人。日本の未来を憂いて戦争に参加するような一本気な人だっただけに、一般人には手出しはしないよ。でも銃を探して夜な夜な呻いてるから、結構怖がられてる」
ツカサの説明に、シオリとルイはなんとなく苦い物でも噛んだような顔をする。
「そうなんですか?」
感想も出ないようで、見えないはずの幽霊を見ようと井戸へと目を向ける。
ミヤコもなんとなくその気持ちが分かった。
ついでに言うなら、そのやるせない死に方をした幽霊ご本人と目が合っているので、何かすごく困った。
幽霊がぺこりとお辞儀をする。
悪意はないらしい。
生きてる人間が憎いと言うことも無いらしい。
ただ自分のやらかしを悔いているのか、未だに成仏はしていないようだ。
この周辺にいる幽霊たちは殆どがただただそこら辺をうろうろして、何か楽しんでいる風ですらのに、この軍服の幽霊は地縛霊のようにこの井戸から離れないのだろう。
幽霊と言うのも色々なんだなと、ミヤコはちょっと切ない気持ちになった。
熊本城の城下、城彩苑にある熊本の歴史を楽しみながら学べる施設、わくわく座では夏に熊本城にまつわる怪談を演劇にして紹介してくれるので、じゅうくれの井戸のお話が気になった人は、夏に熊本城に来ませんか?
熊本城に来ませんか?
城彩苑にはソフトクリームが何十種類もあるよ!(時々ラインナップ変わってるから今何種類か分からないくらいあるよ)
本日の更新もこれだけ。
明日も一回更新です。




