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311.ミヤコ君と蝉時雨

坪井川。

熊本のおばあちゃんの知恵袋。

この川の側から金峯山方面に雲かかってるかどうかで、ゲリラ豪雨が予知できるのです。


クマゼミ。

轟音の暴君。

素手で捕まえる時はケツから狙うとよい感じです。あ奴らは鳴きながら反動で降りて来ちゃうので、獲りやすいです。

森野は自認が熊なので虫は素手で獲るのです。

「熊本城のうら側って言うか、メインの観光PRしてる場所以外あんまり知らないかな? 他県の人はスルーしがちなんだよね」


 そう言ってツカサはミヤコを連れて坪井川横の遊歩道を、現代では正面入り口として扱われている御幸橋方面から厩橋方面へと歩く。

 時間はいつもよりだいぶん早めの午前八時。

 そぞろ歩くメンバーは、ツカサ、ユカリ、ミヤコ、シオリ、ルイに、護衛としてサユキとミヤコは今日初めて会うクロノス社社員のカンナ。


「土日でも人少ないもんね。用事かイベントがある時以外県内の人もあんまりいかない気はする」


 ユカリがツカサの言葉に追従する。


 十代の大半を他県で過ごしていたというツカサとユカリだが、幼少期は普通に熊本で育ったため、一応熊本城周りの施設は知っているという。


 今ミヤコたちが歩いている左手には、治水工事の名手でもある加藤清正が何年もかけて流れを変え、天然の水堀にした坪井川。

 中心市街地にあるために過去には大雨で何度も氾濫の危険があったその川は、前日のゲリラ的な大雨のせいで灰色がかかった黄土色に濁り、どうどうと流れる水音がまるで太鼓のようだとミヤコは思った。


 ただでさえ夏場は降るような蝉時雨が煩く、特に熊本は日本では大型の蝉であるクマゼミが多い。

 アブラゼミ以上に鼓膜を打つ強烈な音がずっと聴覚を刺激し続けるので、ミヤコにとっては蝉の多い場所は鬼門だった。

 蝉の声と川の音に眩暈を起こしそうになりながら、ミヤコはこの川の傍だと夢に巣食う蜂を上手く見つけられるか分からないなと苦い顔をする。


「大丈夫? 暑い?」


 ミヤコの様子に気が付いた今日の護衛役、サユキがミヤコの背に手を当てて尋ねる。

 サユキの異能を使ってくれたのか、少しミヤコの周りの空気の温度が下がった。


「ありがとうございます。大丈夫です、ちょっと、蝉……うるさくて」


 ミヤコの言葉にサユキは納得したと頷く。


 遊歩道から坪井川を挟んだ向こうには石垣の上に整然と続く白い漆喰の塀。

 塀に乗り上げるように大きく枝葉を広げる楠の緑が目に鮮やか。

 遊歩道には桜の木の並木になっており、その合間合間に展望スペースが設けられ、熊本城の長塀を望むようにベンチが据えてあったり、長塀の説明書きが設けられている。


 ここも一つの観光の場所として整えられているのが分かった。

 だがしかし、それこそがミヤコにとっての苦痛の元凶。

 ここには恐ろしくたくさんクマゼミがいるのだ。

 それこそ素手で虫取りできるほどにたくさんクマゼミがいる。


 樹木という餌があって、熊本城の敷地内に人が踏み入る事を禁じている大きな樹木の生える土地があって、幼虫が生存できる環境があって、そして一斉に羽化した成虫が集団見合いを成功させる場所がある。

 これで蝉が増えるなと言う方が無理なほど、熊本城周辺は蝉が多かった。


 バスターミナルから熊本城に向かう時は感じていなかったが、この坪井川周辺はどう考えても異様に蝉が多い。


「あー……熊本城って蝉多いよねえ」


 まさかそれが五感が優れたミヤコにとって苦痛になるとは思ってなかったと、ツカサは困ったように眉を寄せる。


「帽子をかぶっておけば少しは音を軽減できると思うよ?」


 そう言ってユカリが自分の被っていた幅の広い女性向けの布の帽子をミヤコに被せた。

 確かに帽子お陰で、真上から来る蝉の声が僅かに減るのを感じて、ミヤコはちょっとだけほっと息を吐く。


「うーん、これから向かう所も蝉多いんだよね。時間帯によってはもう少し静かになるから、それまでちょっと別のところで時間潰す?」


 ミヤコの負担を考えて蝉が活発な時間をさけたほうがいいかと提案するツカサ。

 しかしミヤコたちはエーデル探しをするために、このいつもより早い時間に熊本城周辺を訪れたのだ。


 熊本城周辺をただ歩くだけでも一時間以上、人によっては二時間近くかかるというくらいの広さだ。

 今は八月下旬。あまり日の高い時間に遮蔽物の無い場所を歩き回ると熱中症の危険がある。

 八時から十時くらいまでを、今日のエーデル探しに使う時間として使う予定であった。


「大丈夫です。あの、慣れれば聞き取る音は調整できるから……慣れるまで時間ください」


 音に関しては、慣れれば制御できるのは熊本に来て実感しているから、たぶん大丈夫だとミヤコは言う。

 だからエーデル探しを続行しようと主張するミヤコに、ツカサはちょっと困った表情のまま、仕方ないねと頷く。


「無理だけはしないでね」


 そんなミヤコたちのやり取りを、シオリが昨晩の黒江家でのように、不満気にじっとりと据わった目で見ていることを、ミヤコは気が付いていなかった。

本日の更新もこれだけ。

明日は二回更新です。


熊本城周辺書く時は筆がノリノリに乗るので二回更新です。

熊本城の普段あんまり行かない方行きましょう!

使いやすい商業施設はあまりありませんが、なんかこう、これが熊本の中心市街地にあるんですよ!って言いたくなる景色があります。

あの深い緑は町中にあるの不思議な感じです。

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