32 一生側にいたいんです
◇◇◇
その日以降、神殿の調査が速やかに行われた。
その結果、汚職や贈賄、虚偽の報告など、およそ聖職者とは思えない数々の悪事が明らかになる。
中でも、聖力の無い者を聖女と偽り、神殿側と聖女側が、地位と名誉を欲しいままにしていたことは、王室と民衆に大きなショックを与えた。自分たちが信じていたものが、足元から崩れるような感覚。
ただ一つの救いは、本物の聖女がいるという事実だった。しかし、十年もの間不当に扱われ、奴隷のように搾取され続けていたと言う事実が明らかになると、あまりの恐れ多さに誰もが頭を抱えた。
「女神の愛し子に何ということを!」
「女神がお怒りになるのももっともだ!」
テレサが王都を去った瞬間から、ごっそりと加護が消えた事実に、貴族たちも震え上がる。
「すぐにテレサ様を正式な聖女としてお迎えしなければ!」
「神殿の暴挙を許すな!」
連日行われる白熱した議論。次々と逮捕、更迭される神殿関係者と元聖女たち。
そんな中、テレサはぼんやり王宮の庭で、薬草の手入れをしていた。
「何だか大変なことになっちゃった。お母さまとレオン、心配していないかしら……」
一連の事件が解決するまでは王宮に留まってほしい。そう、国王から懇願されたテレサは、そのまま王宮の一室に部屋を与えられていた。
テレサ専用の侍女たちと護衛騎士も与えられて、何不自由なく過ごしているのだが、毎日忙しく働いていたテレサは、どこか落ち着かなかった。
「テレサ嬢、ご機嫌はいかがですか?」
毎日ご機嫌伺いにくるユリウスに、テレサは笑顔を見せる。
「ユリウス殿下。ええ、この子たちもすっかりここが気に入ったみたいですわ」
ユリウスはすっかり薬草畑になった花壇の一角をにこにことしながら眺める。
「本当だ。もうすぐ花が咲きそうですね。これは何に効く薬草ですか?」
「これは痛み止めです。こちらは血止めで、こちらが鼻炎薬です」
「そうですか。侍医が喜びます。育ったら一緒に収穫してもいいですか?」
「ええ。もちろんです。こちらは根っこに効能があるんですよ」
「テレサ嬢は本当に博識ですね」
「ふふ。本を読んで勉強したんです」
穏やかに会話を交わす二人を、こっそりと見守るメイドたち。
「ああもう、もっとガンガン行かないと、テレサ様には通じないのにっ!」
「殿下、頑張って!」
テレサに対する好意がダダ漏れなユリウスを、陰ながら応援することにしたメイドたちは、なんとかテレサとユリウスが二人きりで過ごす時間を作っているのだが、今のところ何の進展も無かった。
「そう言えば、ローレンス領から母君とレオン殿を王宮に招いた話はご存じですか?」
「えっ!お母さまとレオンが王宮に来るのですか?」
「はい。テレサ嬢の長年の貢献に対し、ローレンス領主であるレオン殿に、伯爵の位を授与することになりました」
「まぁ。伯爵ですか」
「はい。聖女を輩出した家門として、爵位が上がるのは当然のことです」
「そうなんですね〜」
「そして、テレサ嬢には、あらためて聖女の位が授与されます」
「……」
「すみません。あなたが聖女の位に興味がないことは分かっているんです。けれど、王都の混乱を収めるためにも、引き受けて下さいませんか?」
「……聖女になってしまったら、また神殿で過ごすことになるんでしょうか」
テレサはポツリと呟いた。
「また、家族と離ればなれになるのは……寂しい、です」
ポロリと涙を流すテレサをユリウスは思わず抱き締める。
「大丈夫です!神殿にいなくても!どこにいてもあなたが聖女であることに変わりはありませんから!」
「本当、ですか?」
うるっとした瞳で見上げるテレサを見て、ユリウスは思わず口走る。
「はい。でも、できれば、私もあなたのそばに置いてくれませんか?その、できれば一生……」




